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第5話 ミスマッチ

 読書会サークル、か。  別にサークル掛け持ちは禁止されてないし。  就職活動の論文製作にも役立ちそうだし。  いいかなぁって。  活動場所は現代文学科の一角にある教室だった。曜日は水曜が固定になっているけれど、開催は常時、ともなってる。時間もとくには……。ふわふわしたサークルだな。  たとえばスポーツ系のサークルなら、時間設定が必要だろうけど、読書をしあうのにはあまり時間設定とかないのかもしれない。 「すみません」  昼休みに、現文科の棟に行ってみると、見慣れない顔ぶれや雰囲気に少し周りを見渡した。ユアから教えてもらった読書会サークルに参加しているという子を探したいのだけど、顔と名前が一致しない。 「岩下さんって、いるかな」  通りがかった女の子に尋ねると、ちょうどその子が出てきた教室へと引き返して、一人、黒髪のストレートヘアの女の子を指をさして教えてくれた。お礼を言って、その女の子のところへ歩いていくと、少し戸惑っているようだった。 「岩下、さん? あの、ユアちゃんが、岩下さんが読書会サークルのことを教えてくれたんだけど」 「え? あ……うん、入ってる、けど」  声をかけると、目を大きく見開いた。ユアとは違って真面目そうな子だった。メイクも薄くて、髪を染めたこともないんだろうダメージのないストレートヘアが揺れた。頬を赤くして、視線を俺の横へとずらしてしまう。  文芸女子って感じの女の子だ。 「あの、佐久大和(さくやまと)くん、だよね。あの……えっと」  真面目そう、っていうか。  その彼女がどうしてサークルのことを訊いてくるのだろうと不思議そうにしてる。  まぁ、三年だし、中途半端な時期にサークルに興味を示すとか不思議に思うよね。  今から。  突然さ。 「読書会サークルに入りたいんだけど」  なんて言い出したら。 「えっ?」  びっくりするよねって思った。 「あ、あの、うちの読書会サークルは現文科の教室使って、ます」 「うん」  あまり入ったことのない場所だったから、少し物珍しくて、きょろきょろとしていると岩下さんが何か説明が不足していただろうかとうろたえている。 「えっと、活動曜日は」 「水曜日でしょ?」 「あ、うん。あ、一応、入会用紙を」 「うん」 「それから、えっと」 「顧問っている?」 「え?」  SNSには顧問の名前が書いてなかった。ユアがそう言ってたけど、もし違ってたらさ。 「読書会のサークル顧問」 「……ぁ、うん」  違ってたら、ここに入る意味。 「います。あの、姫宮准教授っていう」  ここのサークルに入る意味、ないから。 「そっか、ありがとう」 「ううん」 「これ、書いたよ」  名前と所属学科の名前、それから理由を書いて、彼女に手渡した。その時だった――。 「あ、姫宮准教授!」  扉を開ける音がして、教室の空気がゆっくり動いて、廊下の、少し冷えた空気が頬に触れた。 「……あれ? 新しい、学生?」  澄んだ声が、そう言った。 「こんにちは」  姫宮准教授がにっこりと笑って。 「今日から加入させてもらった、佐久大和です」  白い指先で、彼女から俺の書いた入会申込書を受け取った。  読書を一日してるばかりかと思った。  読書会っていうくらいだし、あと、活動っぽいこととしては、読み終えた本の感想を一つ二つ言ってみたりとか、かなって。 「うーん、そうだな。作者はそこまで大事になると思ってなかったんじゃないかなと僕は思います」 「そうでしょうか。准教授」 「じゃあ、どう思いますか?」 「私は、大事になると思いながらも、自分の希望した展開になるよう願うばかりに、動けなかったのでは、って思います」 「あー、俺も、そんな気がします」  全然、読書会じゃない。どっちかっていうと討論会だ。もしくは評論会。  一つの作品に対して思うことを言い合って、より良い表現がないか、より巧みな文章にはならないか、をみんなで話し合う会のようだった。  ちょっと、面倒くさい、かも。 「そうですね……それも考えられます」  でも、姫宮准教授が講義の時とは違ってよく話してる。 「なるほどです。うんうん」  しかもちょっと楽しそうだ。 「あ、じゃあ岩下さんはどう思いますか?」  笑ったり、うーん、なんて唸って考え込んだり、そんな、変化に富んだ表情を見せると、やっぱり歳がいくつなのかちっともわからなくなる。  こんな人が、あんなことする?  いや、けど、ほら、この傷痕はやっぱそうでしょ。全く同じじゃん。  でも、セックスなんてしなそうな清廉潔白みたいな顔してる。 「そういう考え方もありますね。とても素晴らしいと思います」  卑猥な言葉なんて一度も言ったことがなさそうな唇で笑って?  あんな目がチカチカしそうな色のオモチャなんて手に取ったこともないような上品な指で握り締めて? 「じゃあ、今日はここまでにしましょうか」  身体の中で一番恥ずかしい場所をいじって、甘ったるい声で啼いたりする? 「お疲れ様でした」  しなそう。 「あの、佐久くん、いかがでしたか?」 「……」 「あの、佐久くん?」  けど、してるんだ。 「あ、すみません。有意義でした」 「そうですか? それならよかったです」  この人が、あんないやらしいことをしてるんだって思いながら眺めてたからさ。 「あっという間でした」 「それはよかったです」 「また来ます」 「ぜひ」  本当、あっという間に、読書会のサークル活動が終わってた。  え? もう終わり? って驚くくらい、短く感じた。

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