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第10話 目眩
―― セックスに興味があって、やったんです。
澄んだ声がそう呟いた。
壇上で、涼しげに「恋」のことを語った口で。
恋とは究極の非合理だと説いたその口で。
「ぼ、僕なんかが誰かとセックス、できるわけがないのでっ。そのっ、僕の恋愛対象は男性なのでっ。到底、恋愛なんてこと、できそうになくて。恋人なんて、作れるわけがないので。でもっ」
真っ赤になりながら。
「してみたくて」
大学の一室で、この色気からは程遠い、少し古い紙のにおいがする準備室で。
「ス、スマホで同性愛者のそういう動画を観てて、見よう見真似で。そ、そしたら、一般人がたくさん動画を上げていて。ちょっと、興味本位で、その、あげて……しまって」
セックスに興味があって、してみたかったと、呟いてる。
「あ、の、動画は、つい、あの、口元が映ってしまったんです。すぐに消去しようと思ったけど、コメントが……たくさん来てて……その、なんか……」
同じ人?
あの壇上で淡々と講義をする、サークルで朗らかに現代文学を読み解く姫宮准教授と。
「ついっ」
眩暈がした。その差に。あの姫宮准教授と、『アキ』と、それから今、目の前にいる頬を真っ赤に染めたこの人が同じ人物には思えなくて、眩暈がする。
「! 佐久、くん?」
だからかな。
思わず、腕を掴んでた。
「じゃあさ」
「……」
だから、だと思う。
「してみる?」
「え?」
なんも考えてなかった。ただ、口が勝手に言葉を紡いでた。
「俺と」
「!」
「セックス」
「ぇ……」
「してみる?」
なんか、この人とセックスしてみたいって、思った。
ゲイ、じゃないよ。
例えば、知り合いにゲイがいたとしても別に気にならないし、「ふーん、そうなんだ」で終わる。人それぞれでしょって思うし。
けど、俺自身はゲイじゃない。
恋愛対象は女の子。
可愛い系、かな。好みのタイプは。
ゴールデンウイークくらいまで付き合って子はけっこう可愛かった。けど、まぁ、なんとなく、他の子と話してるだけで、文句を言うことが多くて、別れようかって話になった。
もちろん、男相手に興奮なんてしたこと、一回もない。
けど――。
「あ、これが……本物……」
「見たことはあるでしょ。さすがに」
「ある、けど」
「触るのは?」
「な、ないよっ」
慌ててる。そこは慌てて否定するくせに、あんな動画を上げてるとかさ。
「触っていいよ」
「!」
向かい合わせで立ってる。准教授の準備室で。俺は、パンツのベルトを外して、下着をひっぱり下げると、それをこの人に見せてあげた。
「すごい……」なんて呟いて、頬を赤く染めながら、じっと、それを見つめられてる。
なに、してんだろって、頭をよぎったけど。
でもすぐに、その冷静が熱に上書きされた。
「触りたかったら」
一瞬、目を見開いてから。
「うん」
そう呟いて、恐る恐る、この人が白い手を伸ばすと、俺のに触れた。
「っ」
ただ触れただけ。
なのに。
「あ、熱い」
「そりゃ、ね」
「あ、わ……」
ひどく、興奮した。
ただ握られただけなのに。
「っ、どう? 本物は」
「ぇ、あ」
イク、かと思った。
「熱くて、硬くて、おっきい」
「ありがと。『アキ』が使ってたディルドの方が太くない?」
「どう、だろう。でも、佐久くんの方がずっと」
「否定しないんだ」
「!」
思わず、そう呟いたら、しまったって顔をして、俺のをいたずらに触ってた手を引っ込めようとした。
「っていうか、今さらでしょ。あんな動画上げてる以上のこと、今してんだから。大学の準備室で、学生と、なんて」
その手を引っ込めっさせるわけないじゃんって掴んで、俺のをしっかり握らせる。
「ちゃんと触ってよ」
「! あっ」
「ここ、俺も好きだよ。『アキ』も好きじゃん。このくびれんとこ」
「っ」
指を絡めて、まだ手で撫でられただけなのにガチガチに硬くなってる自分のを、その白い手に扱かせてる。
「それ、すげぇ、気持ちいい」
「!」
「っ」
全然慣れてない。本当に自分以外のなんて握ったこともないんだろう、辿々しい手に、目眩がするほど酔いしれてる。
「っ、そこ」
「あ、の」
「?」
不慣れな手に何度か扱かれながら、今にもイきそうで、何これって、思わず、顔をしかめてたら。
「あの、これ、しゃぶってみたら、ダメ?」
「……は?」
「あのっ、ダメならっ」
なんなの、この人。
「……いいよ。全然」
「!」
「しゃぶって、いいよ」
ついさっきまで戸惑ってたくせに。まるで淫乱みたいなことを呟いて。
「あ、りがとう」
天使みたいに微笑んで、ひざまづくと、そのピンク色の唇で、一瞬だけ、ためらってから。
「あ……む……っ、ン」
口に咥えた。
「ン……ん」
全然、上手じゃないよ。ただ咥えて、ぺろぺろ舐めてるだけ。
「ン、ん、あ……すご……い」
なのに、やばいくらいに気持ちいい。夢中になって俺のにしゃぶりついてるのが、たまらなく、興奮する。
「咥えたことあるじゃん」
「?」
「ピンクのディルド、前に、動画で口に咥えてたけど?」
「!」
あったでしょ? しばらく舐めてた。もちろん、顔出しはしてないから、斜め後ろからそれを撮影してた。口にディルドを咥えながら、自分の指でほぐしてた。
「それと違う?」
「ち……がう、よ」
こんな顔、してたんだ。
「全然違う」
あの画面じゃ見えない『アキ』の表情を、他の、その他大勢の男たちは見ることの叶わないものを、俺は見てる。
「あ、ン……ンむ……ン、んっ……っ、っ」
動画じゃわからない。しゃぶりついて、一生懸命に、全然、なんも技術なんてない舌の感触も。頬の内側の柔らかさも。
「ン、ん……」
「もっと強くしゃぶってみて」
「んっ、ンっ」
「根本、手で扱きながらってできる?」
「ン、ン」
「そう、すげ、気持ちい」
「っ、あむ……ン、ン、んっ」
「っ」
こんな涎で唇を濡らしながら、瞳を潤ませながら、生のそれに夢中になってる顔も。
「っ、出るっ」
「!」
誰も見たことがない。
「あっ」
澄んだ声がそう呟いた瞬間、顔が白で汚れた。
「っ、ごめ……目に入ってない?」
「あ、大丈夫……ン」
少し驚いてた。そして、顔にかけられて、戸惑ってた。
「初めて、口で、した」
「そう、だね」
「あ、あの、佐久くん」
「気持ちよかったの?」
「ぇ」
「イッたでしょ? ビクってしてたよ。腰」
「!」
「咥えながらイッたんだ」
「……ぁ」
やば。何これ。
「だって、いつも、想像して……その」
「やらしいね、先生」
「!」
目眩がする。
「口でしながらイくなんて」
「ぁ……」
やばいくらい。
「うん……イった、よ。佐久くんの、を、口でしながら……」
大学の準備室で、本に囲まれながら、達してしまったって、下着を自分からずりおろして見せてくれる、やらしい准教授に。
「……イっちゃった」
興奮した。
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