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11馬鹿と出鱈目のんべんだらり①
不穏な空気が忍び寄っていたその前に、なんともまぁ気合いの入った一大イベントが開催されていた。
それは、東京の焦土を無理やり縫合したモルガナの、梅雨の合間に訪れた奇跡的な快晴の日のことだった。
モルガナ中が色めき立つ一大イベント──フィジカル体育祭。しかし、その開会式が始まる前から、直忠の周囲には、およそ青春とは程遠いドス黒い変態の陰謀が渦巻いていた。
「おい、オメガビッチ。これが本日の貴様の防衛装備──いや、演習着だ。速やかに着用しろ」
直忠の眼前に、うっとりするような高級なアロマの香りを漂わせながら、傲慢極まる黄金のアルファ(ノーブルドール)のモルガナのトップエリートどもが、フリフリのチアガール衣装と、どう見ても布面積が成人男性の規格を無視したミニマムサイズしかない「ピチピチの紺色ブルマ」を叩きつけた。彼らの狙いは明白だった。
歴戦の生傷だらけで、筋肉の塊のような世紀末ヤンキー面をした直忠にこんなオメガ男子の中でも一部の愛玩管理対象にしか支給されない、あの屈辱的なブルマである。
それを穿かせ、そのプライドをモルガナ中の前で木っ端微塵に粉砕して屈服させるという、実に陰湿で、かつ個人的な性癖が隠しきれていない最低の嫌がらせであった。
「あ? んだこの、ケツの穴に直接食い込みそうな布切れは。正気かよお前ら。脳みそ梅干し詰まってんのか。そもそも俺ダルジャン組なんだけどぉ?」
直忠は盛大に鼻を鳴らし、ヤンキー座りのままスパッツを睨みつけた。しかし、そこは腐っても『器』の根性である。
「ケッ、めんどくせぇな。やってやろうじゃねぇか!」
直忠は訓練棟の更衣スペースへ突入すると、格闘技の過酷な減量と柔軟トレーニングで培った異常な肉体のポテンシャルをフル稼働。その強靭な筋肉の間にブルマを完璧にフィットさせ、驚異の軟体性で「I字バランス」や「ビールマンスピン」の予行演習を涼しい顔でキメてみせた。
その際、パツパツに張り裂けそうなブルマの奥、若い太もものムチムチとした肉に食い込んだ数億円の「ガーターベルトの黒いゴム」がパチンと跳ねる。
物陰から覗いていたコミンジ5の面々(慶太、武臣、透真、炉舞、ノチェルオ)が、「凄いのかゴリラなのか分からねぇ!!」と涙目で膝から崩れ落ち、拳で床を叩きつけた。
これが後に、エンブリオの電脳班を揺るがすハレンチ裏写真集の完璧な伏線になるとは、この時の直忠はまだ知る由もない。
そして始まった前半戦の「障害競争」。
金のアルファたちは、ファンからの黄色い歓声を浴びながら、優雅に超能力めいた身体能力で網をくぐり、スマートにトップを激走していた。
「おい野郎ども! 突撃(チャリ)で来た!! の精神で行ぞォオオ!!」
直忠のドスの利いた咆哮と共に、コミンジ5のバカどもが泥臭い野生パワー全開で乱入してきた。
網くぐりのエリアでは、直忠がピチピチのブルマを臀部の奥まで限界まで食い込ませながら、四つん這いのゴリラ並みの推進力でネットを物理的に引き千切り、識別奪取のエリアでは、粉末の入ったプールに顔面を100%の質量で叩きつけ、真っ白な般若のような顔で飴玉をガツガツと口だけで収穫。
顔面をのけぞらせた瞬間、強風が吹き荒れるとチアガール衣装が捲れ上がり、彼の褐色肌のシックスパックが激しく波打ち、顎や唇から、唾液と混ざり合った白い中和粉末がドロドロとした淫らな液体となって滴り落ちる。
美しく勝ちたかった金のアルファたちの背後に、顔面真っ白でスパッツ姿のむちむちゴリラ(直忠)と、それを囲んで「オラァアア!!」と叫ぶバカ5人組が津波のように猛追してくる。
「ひっ……! 怪物が来る!?」
アイドルのプライドなど恐怖で吹き飛び、金のアルファたちは泥まみれになりながら次々と転倒。
フィジカル体育祭の平和なトラックは、一瞬にしてIQゼロの狂暴な闘技場へと変貌を遂げた。
そして迎えた、体育祭の華──バトンリレー。
バトンは順調に繋がり、ついにアンカーの直忠へと渡った。その視線の先を走るのは、金のアルファのリーダー格エレンである。
「フン、所詮はオメガの肉体。俺のスピードに──」エリートが格好をつけて超加速を決めようとした、まさにその刹那。
「どけぇええええお前らァアアア!!! プロテインが足りねぇんだよォオオ!!!」
地鳴りのような咆哮と共に、直忠の筋肉のカルマが大爆発した。ピチピチのブルマが肉圧で「パァン!」と悲鳴を上げ、その奥の若い太ももに食い込んだガーターベルトの黒いゴムが不自然に躍動するような凄まじいピッチ。
それは並んで抜くという生易しい次元ではなかった。直忠の放つヤンキーの絶対的威圧感と、弾丸のような褐色スプリントは、もはや時速200キロで爆走するダンプカーのそれであった。
『ドガァアアアン!!!』
直忠はトップを走っていた金のアルファたちを、並ぶと同時に風圧と肉体言語でトラックごと「物理的に轢き殺す」勢いでブチ抜き、そのまま1位のゲートを盛大にぶっちぎった。
轢き殺された金のアルファたちは、少女漫画の失恋シーンみたいに虚空へ向かって吹き飛び、ファタモルガナの要塞壁に激突して頭上に星をちりばめながら、みじめに砂を噛んで完全敗北した。
「おっしゃあ! チョロいもんだぜ!」
ピチピチの薄手ブルマを臀部の奥まで限界まで食い込ませ、背面が大胆に削ぎ落とされた数億円の「特注メンズブラ」の黒いゴムを薄手訓練服の隙間から淫らに覗かせた姿で、逞しく腕を組み、勝利のドヤ顔を決める直忠。
必死の爆走でめくれ上がった裾の奥からは、若い太もものムチムチとした肉にパッツンパッツンに食い込んだ「ガーターベルトの黒いゴム」が、未だ不自然な存在感を放って躍動している。
その『ただのムチムチの肉塊』としての異常な肉体美とヤンキー魂のギャップの破壊力に、ファタモルガナの全オメガ(候補生)と、一部の成人した男性職員が鼻血を垂らして平伏した。
周囲ではコミンジ5のバカどもが「ナオ、最高にカッコいいぞ!」とプロテインのシェイカーでどんちゃん騒ぎの乾杯を始めている。
そもそも本来はオメガ同士の対決の予定だったのだが、直忠の凄まじいポテンシャルと、それが気に食わないドール組7人集の果たし合い場へといつの間にかすり変わっていた、なんともまぁ間抜けな体育祭はこれにて閉会と相成った。
因みにダルジャン組の7人は不参加だった。
しかし、この狂乱のハッピーエンドの裏で、世界を救う防衛組織の闇は、着実に彼を捉えていた。
「う~ん♡ チアガール衣装にブルマ姿で女の子座りしてプロテイン飲むナオ君、マジで生命の神秘……最高にスケベでパシャパシャしちゃうぞ~♡」
モルガナの特務上層部・査察官席の最前列。
グレーのスーツの宗像司令官が、国家予算で購入した超高画質バズーカ望遠レンズを構え、狂ったようにシャッターを切りまくっていた。
「ふむ。このブルマの食い込みデータは、我が機関の夜の平穏のために極秘データベースへ強制システム化する必要がありますね……」
その隣では、これまた変装した八乙女副司令官が、伊達眼鏡を怪しくギラつかせながら、手帳にびっしりと直忠の肉体数値をメモしていた。
ここで盗撮・蓄積された大量のハレンチ生データが、数日後、あの「公式写真集」および「ナハトたちの脳みそを焼き切る特注裏写真集」の起爆剤(ガソリン)として、アノマレコードの闇に深く刻まれることになるのだが──それはまた、別の『馬鹿と出鱈目、のんべんだらり』な、涙がちょちょぎれるお話である。
◆
今は西暦2032年。元号、竜和(りゅうわ)14年。
かつてこの国は、天を割って突如として降臨した謎の超常質量──通称『堕竜』たちの襲来により、未曾有のピンチに直面した。しかし、人類は決して屈しなかった!
天から下りてきたのはそれだけでは無かった。オメガを求めて人間界に現れた堕竜の天敵である万魔イル・マヘシュヴァラ種──通称、魔人(魔神)。
焦土と化した東京の瓦礫の上で、日本政府と彼ら守護神の間に結ばれたのは、世界を未曾有の災害から防衛するための、あまりにも熱く、固い絆の契約──『人神調停』であった。
魔人たちの暴走するエネルギーを笑顔で包み込み、その巨大な力を「正義のエネルギー」へと中和できる特異体質──それこそが、国内で唯一無二の選ばれし熱き魂を持つ『男のΩ(オメガ)』。
彼らは世界を救うための「absolute 防波堤(ヒーロー)」として、その身を捧げることを誇り高く誓ったのだ。
この奇跡的な合意と引き換えに、日本という国家は、魔人たちの圧倒的な力によってあらゆる広域破壊からガッチリと守られることとなった──。
その果てに設立された人類と人外の最強共同防衛前線、それこそが『日本防衛特務機関エンブリオ』である。
「エンブリオ」の4文字を知らない国民はいない。
テレビのニュースキャスターは大真面目な顔で彼らを「日本を救う正義の盾」と称え、セクター内の人間どもは安全な檻の中でスマホの画面を弄りながら、その愛と平和の恩恵を五体投地で貪っている。
当事者たちの命がけの超真面目な努力と、それによって維持される、ちょっぴりアホで平和すぎる愛おしい日常。
その強烈な落差と、溢れるポジティブなエネルギーこそが、この「竜和」という時代の本質だった!
当然、その清潔な防衛組織の看板の裏側、熱いコンクリートが剥き出しになった地下最深部の実情を知る一般人は存在しない。
そこでは、長きに渡る魔人たちとのドタバタバトルの全ログが、情熱のスパークする音ごと淡々とデータ化され、秒単位で更新され続けている。
電脳のコントロールルームの頂点に座するのが、最高防衛データベース──『アノマレコード(Anomarecord)』。
通常の戦術予測アルゴリズムでは一秒で脳がハッピーにバグるような、超次元のルール災害を展開する「イレギュラーな特異点とも呼ぶべき堕竜」。
それらがもたらす理不尽な不條理認知災害に対抗するため、魔人たちが天の彼方から携えてきた超科学のオーパーツを、エンブリオの真面目すぎるお役所仕事によって強制システム化した「正義の全知ログ」である。
そしてこのアノマレコードは、ヒーローたちの体調を管理するように、無駄に熱血で過保護だ。
国が保護し、地下闘技場という名の超ハードなトレーニングジムから救い出してきた真宵直忠をはじめとする『器』──オメガたちの、プロレスラー顔負けの筋肉回復率、プロテインの摂取許容量、そしてアルファたちの性欲の質量を100%受け入れるための「ヒート・前立腺の完全覚醒度(ヒーローパワー値)」に至るまでを完璧に網羅・管理している。
なぜなら、彼らエンブリオにとってオメガとは、世界の平和を背負うドラゴンの「絆のガソリン」であり、東京がピンチに陥るのを食い止めるための、文字通り命がけの無敵の防波堤なのだから──。
──これは、そんなエンブリオで命を賭けて、しかしどこかトホホに戦っている男達の、涙がちょちょぎれるほど熱く笑える物語である。
◆
日本防衛特務機関──通称、エンブリオ。
なぜだか地球上の天災や堕竜は、この極東の島国ばかりをピンポイントに狙って出没する。結果、日本を力技で叩き護るためだけに、この超弩級の防衛組織が設立される羽目になった。
「な~んか、肩凝っちゃった」
堕竜が東京を狙って襲来する際、防衛の最前線で指揮を執り、同時に最上級クラブ『イシュタル』のオーナーを務める男・宗像は、まるで実家のコタツで猫の動画でも眺めるような弛緩しきった顔で呟いた。
液晶画面のブルーライトに照らされたその指先は、キーボードを無駄に高速でカタカタと鳴らしているが、やっていることはただのネットサーフィンとポテトチップスの乱獲である。
「肩凝ったって……ずっとお菓子食べながらネットサーフィンしてるだけじゃないですか!」
耐えかねた一人の部下が、弾丸のようなツッコミを飛ばした。
それを引き金に、周囲のデスクからも「そうだそうだ!」「こっちは休暇申請も消化できずに戦術データをこねくり回してるんだぞ!」と、怒涛のやいのやいの精神が炸裂する。
「ハイハイハイハイ、分かりました。ワーカーリーマーシーター」
宗像はお盆休みの小学生よりも心のこもっていないイントネーションで部下たちをいなした。
「じゃあ、さっさとまともな仕事を──」
「そうだ! オカズ本作ろっか!!」
ピコーン! 宗像の脳内に、まるで場違いなネオンサインのごとき神からの御告げが閃撃となって直撃した。
あまりの脈絡のなさに、コントロールルームの空気は一瞬でマイナス40度まで急降下する。「また司令官の脳みそが下らないアイドリングを始めたぞ」と、職員たちの警戒レベルが最大に跳ね上がった。
「は……?」
「ほら、だって皆もさぁ、キャストに気に入られないと抱けないじゃん?」
「た、確かにそうですけど……でもそれとこれとは話が──」
そもそも宗像司令官は、その底知れない大人のフェロモンでいつも誰かしらを抱いている側である。戦術オペレーターたちは「自分だけ勝ち組のくせに何を言っているんだ」と、胃袋の底で毒づいた。
「貴重な貴重な人間のオメガ男子のキャストが、魔人ハーフオメガのキャストを合わせてもイシュタルには、たったの100。そりゃ他にもクラブは沢山あるけど、とびっきりのキャストが所属してるのはイシュタルが断トツトップ。そして、この血湧き肉躍るエンブリオの職員は200人を超えているんだよ? その上、彼らの大半がドラコや魔人のカルマ中和に回される超超過密スケジュールを考えたらさぁ──」
ちなみに、もっともらしい正論をのたまっている宗像自身も、その恐るべき魔人種族の血を受け継いだハーフとして名の知れた名家の頂点の一角なのだが、今はその事実を綺麗さっぱり棚に上げている。
「う、うぅう……! 俺だって、可愛い別嬪さんのキャストを抱きたいのに! お嫁に欲しいよぉお!」
限界に達した一人の部下が、突如として幼児退行したような大声を上げて泣き崩れた。
一人がダムの決壊を許せば、あとは早い。周囲の屈強な男たちが次々と「俺もだ!」「夜が寂しいんだよ!」と涙の合唱を始め、最先端の電脳ルームは一瞬にして、身内の不幸をターンするお通夜のような重苦しい涙の海に沈没した。
「そこでだ諸君! ここで一つ、彼らの魅力を限界まで詰め込んだ『キャスト公式写真集』を作らないか?」
「キャストの写真集……?」
涙に濡れた職員たちの目が、獲物を狙う肉食獣のように鋭く輝き直す。
「そうだ。ただの証明写真じゃないよ? あ~んなポーズや、こ~んなポーズまで、職権乱用で合法的に撮れちゃうよ~?」
「あ、あ~んなポーズや、こ~んなポーズ……!?」
その場にいた全職員の喉が、ゴクリと巨大な音を立てて鳴った。脳内で引き裂かれる限界ギリギリのハレンチな妄想が、彼らの理性をじわじわと摩耗させていく。
「どうどう? めちゃくちゃ面白そうだと思わない?」
「……やりましょう!」
「ふ、副司令官!?」
バァン! とデスクを叩いて立ち上がったのは、普段なら宗像のストッパー役であるはずの、冷徹無比で優秀な副司令官・八乙女であった。彼はキラリと伊達眼鏡の奥の瞳を狂気的に光らせながら、魂の底からの重低音で答えた。
「皆さん、えっちな写真集です。これで我々の夜の平穏は約束されました……」
普段の堅物な仮面をどこへやら、八乙女副司令官は部下たちに向かって、すべてを包み込むようなフッとした優しい微笑みを投げかけた。その慈愛に満ちた佇まいは、迷える衆生を救済する本物の菩薩のそれであった。
決まった。
そうだ──最高のオカズ本を作ろう!!
コントロールルームの士気は、堕竜を殲滅する時すら遥かに凌駕する熱量で一致団結した。
「あ、ちなみに予算でローションと特製オナホも全職員に現物配給しちゃうからね~」
菩薩と化した副司令官の後ろから、宗像司令官がひょこっと悪魔のような笑顔を覗かせて、さらに男たちの物欲と性欲を爆発させるトドメの爆弾を嬉々として投げ込むのだった。
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