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11馬鹿と出鱈目のんべんだらり②
「○○君こっち向いてぇえ──っ! 命が捗るッ!!」
「超可愛い! 超可愛いよぉおお──っ!!」
「今! 君は! 人生で一番輝いてるぞォォオオオ!!」
そこは防衛機関の最先端撮影所などではなかった。ただの、推し活に狂ったド変態社畜どもが密集する「欲望の底なし沼」である。
大勢の職員たちが、合法的にキャストたちの艶姿を拝もうとギチギチに詰め掛けたため、現場は人間の脂と熱気でむわっと蒸せ返るサウナ状態。普段、迫り来る堕竜の恐怖と「仕事仕事仕事」のデスマーチに脳髄を磨り潰されている職員たちにとって、ここは文字通り、天から降りてきた砂漠のオアシス(天国)だった。
特に人気を誇るのは、エンブリオが誇る「グラビア三強」──奏(かなで)、金芽(かなめ)、千鶴(ちづる)の3名である。
それぞれに常軌を逸した熱烈なファン集団が張り付いており、
奏のファンは「あの絶世の美貌と、ド我が儘に振り回されて財布と精神を破壊される感覚が、激務の脳に最高にキマる」と白目を剥き、
金芽のファンは「美しく品があり、淑やかな所が、乾ききった大人の情動をそそる」と咽び泣き、
千鶴のファンは「明るく爽やかで、気遣いができる聖母っぷりが、過労死寸前の社畜のすり減った魂を音速で再生してくれる」と拝み倒す始末。
もちろん、他のキャストたちも負けず劣らずの極上美人揃い。直忠のいつもの腐れ縁フレンズであるコミンジ5の三毛猫、黒鶏、白犬、ノチェルオ、炉舞の面々も、このハレンチな宴の生贄として強制召集されていた。
「ポーズや衣装は職員が独断で指定してヨシ!」という、宗像司令官が発動した世紀の職権乱用ルールの前には、男たちに「羞恥心」などという高等な概念は残っていなかった。
皆が皆、我先にと雲霞のごとく挙手し、己の歪んだ性癖をこれでもかと惜しげもなく晒し、晒し、晒しまくった。
正しく痴態。完全なる変態。しかし、それこそが譲れぬ男の浪漫であった。
「はーい、宴もたけなわですが、一通り撮ったので終了~~」
パンパンッと、おざなりに手を叩きながら宗像司令官が声を上げた。これにて夢のグラビア撮影会は幕を閉じ、職員たちも「これで今日の夜は安心だ……」と魂が抜けたような満足げな顔で、ぞろぞろと退室していく。
あとは写真集の完成を待つばかり。いい歳をした大人の男たちが、漫ろにウキウキと肩を揺らして去っていく様は不気味ですらあった。
「終了……? 失礼ながら宗像司令官、まだ最も凶暴な……ゲフン、重要なキャストが一人残っていますが」
八乙女副司令官が、キラリと伊達眼鏡をくいと上げながら冷徹に指摘した。
「ああそれ、俺が個人的に撮るから。八乙女君もさっさと帰っていいよ~」
(──やはりな……!)
八乙女の脳内に、電脳戦さながらのキュピーンッという閃きが駆け巡る。自分から「オカズ本を作ろう!」と最高潮に盛り上げておきながら、当の本人はさっきまで、絶世の美オメガたちの撮影をただぼんやりと、やる気なさげに眺めていたのだ。
その違和感のすべての答えが、これだった。真の目的は、最後に残された「あの個体」の独占撮影。
「いいえ、私もお供します。職務ですから」
「ええ~~、帰っていいのに~~」
いい歳をした、国を背負う最高司令官(中身はハーフ魔人)が、子供のように唇を尖らせて顎に梅干しを作りながらぶつくさと文句を垂れる。
八乙女はそれを完全な無機質シカトで受け流し、最後のキャストがステージに現れるのを待った。
気がつけば、宗像の「お熱なターゲット」の正体を突き止めようと、数人の精鋭オペレーターたちも物陰に不穏に残留している。
そして、防音扉を蹴破るようにしてステージに現れたのは──。
やたらと骨格が太く、全身が歴戦の生傷だらけで、筋肉の塊のような、いかつい褐色の青年だった。
残っていた職員たちの間に、凍りついたような戦慄が走る。
「……ゴリラ……?」
「あれが……オメガ……? 嘘だろ、分類表書き換えた方がよくないか……?」
場違いな質量を前に、ひそひそとした怯えと困惑の囁きが交わされる。
「うぃーす! 宜しくお願いしゃ~ッス!」
青年──真宵直忠は、ヤンキー特有の気だるい雰囲気を全身から蒸発させつつ、頭の後ろをガリガリと掻いてから、妙に律儀にカクンと頭を下げた。体格は世紀末覇者だが、意外にも育ちは礼儀正しい。
「ナオ君、そんなに固くならなくていいからね~? はい、肩の力を抜いて、リラックスして~♡」
「硬くしてんのは、おっちゃん(の下半身)だろ。この変態クソ親父」
「んんっ、ナオ君のいじわる……! でもそこがゾクゾクしちゃう……!」
いつの間にか紙製のメガホンを片手に持ち、完全なる現場監督気分でキモいノリノリのステップを踏んでいる宗像。
──ナオ……!? ナオって、まさか……あの一筋縄ではいかないエリートの、ナハトに、モルドレッドに、あの氷竜ジーヴァの脳みそを、立て続けにメロメロの狂愛バグでドロドロに溶かして『食った』という、あの伝説の特攻ゲロオメガ……!?
現場に残留していた変態職員たちの間に、今度は「畏怖」という名の、静かだが確実な激震が走るのだった。
【特別企画:防衛特務機関の闇・音声改変ルポルタージュ】
──その「ゴリラ」だの「最終兵器」だのと囁かれる、規格外の褐色青年・真宵直忠の単独撮影時について、当時の詳細をお訊かせ願えますか?
私は、重い口を開いたエンブリオ現役職員・A氏に問い掛けた。当然、厳重なプライバシー保護のため、画面には濃いモザイク処理を施し、音声もヘリウムガスを吸ったかのような安っぽい電子音に変換してある。
A氏「あれは……凄かった……。我が防衛機関の理性が、あの薄暗いスタジオで一瞬にして音を立てて溶けていったんです(※超高音の音声変換)」
──黒いシルエットの向こうで、A氏は当時の興奮を思い出すように目をギラつかせ、ゴクリと巨大な唾を飲み込んだ。
スタジオの定位置に立ったナオ君は、いかつい肩をすくめて、こう吐き捨てたという。
「で? おっちゃん、俺は何をしたらいいの?」
「まずは、これに着替えてみてね~♡」
最高司令官・宗像が差し出したのは、あろうことか「オーバーサイズのざっくりニットワンピ」と「ニーソックス」という、モルガナの座学用公式礼服をさらにハレンチに煮詰めたような代物だった。ナオ君は「ケッ」と毒づきながら、一旦更衣室のカーテンの中へと消えていった。
暫くして、更衣室から現れたナオ君の姿に、スタジオの全空気が「ぎょっと」ざわついたのを、私は今でも忘れない。
何しろ、その薄手のニットワンピの下は、なんとガーターベルト!! それ以外、上下とも何も身に着けていないことが一目で丸分かりだったのだ。
──インタビュアーの私は身長175センチの成人男性なんですが、当時のナオ君はそれよりも高い位置に頭頂部がありました。歴戦の傷跡が刻まれた、その巨躯のナオ君に無理やり合わせられた、絶対領域付きの萌え袖ニット。
しかも、宗像の悪意によってワンサイズ小さめの極薄生地がチョイスされていたため、生地が悲鳴を上げるように引き伸ばされ、彼のボディラインがくっきりと、それこそエコー検査の画面のように艶めかしく浮き彫りになっていたのだ。
男性の割に、規格外の肉のカルマを詰め込んだように大きくふっくらとした大胸筋(胸)、くびれにエロい肉が乗った腰回り、パンッと筋繊維の張りが炸裂している凶暴なお尻、そして太腿のむちむちとした圧倒的な質量──。
A氏「……控えめに言って、極上の黒ギャル最高ォオオオ──ッッ!!(※高音の電子音がスタジオに反響する)」
──我々一般職員だけでなく、普段は閻魔大王のように冷徹な八乙女副司令官さえも、我が目を疑うように眼鏡のブリッジを何度も押し上げているのが、嫌というほど伝わってきました。
「ねぇナオ君、女豹のポーズとか出来る~?」
「ははっ。おっちゃん、脳みそ昭和かよ。ベタなのチョイスすんね」
「いいから、やってやって~!」
宗像司令官は、手にしたメガホンを振り回しながら、嬉しそうに床をピョンピョンと跳ね回っていた。
この助平な魔人ハーフは、己の邪悪な欲望を成就させるためなら、国家の威信も、大人の羞恥心も、すべてゴミ箱に捨てる覚悟を完了していたのだ。
そもそも我々部下からの司令官への信頼度は、濡れたオブラート並みに薄く、そして地べたより低かった。
だが、ナオ君は「はいはい」とダルそうに頷くと、床に四つん這いになり、筋肉のしなりを利かせて見事な「女豹のポーズ」を決めてみせたのだ。
「う~ん、もう少しだけ足を開いてみようか~♡」
とか何とか、もっともらしいカメラマンの指示を出しながら、宗像司令官はちゃっかりとナオ君の背後に肉薄し、そのむちむちの太腿を、グイッと己の手元へ押し広げた。
A氏「ただ触りたいだけですよ、あれは! 公務執行を隠れ蓑にした合法セクハラです! 私だって触りたい!! 司令官だけズルいです!!(※興奮でモザイクの四角形が激しくブレる)」
──ま、まあまあ、お気持ちは分かりますから、そこまで興奮しないでください……。私が宥めると、A氏は小さく咳払いをして、鼻息を荒くしながら話を続けた。
──足を大きく開かされたことにより、ぴちぴちの極薄ニットワンピが、彼の強靭な肉体の溝という溝に強烈に食い込んだ。胸回りから下腹部にかけての起伏がより艶めかしく強調され、限界まで突き出されたヒップラインが網膜に焼き付く。そして、見えそうで見えないガーターベルトとの間の絶対領域。
分かりますか? この、人類の防衛機関が総力を挙げて生み出した変態的素晴らしさが。
「良いね~! すごく良いよナオ君、最高にスケベだよ~!」
キャッキャウフフと、実におぞましいほど楽しそうな宗像司令官。
彼は連射モードでやたらとシャッターを切りまくる。
対するナオ君は、恥ずかしがる素振りすら見せず、むしろカメラを睨みつけるように、挑発的で色っぽいポーズを次々と繰り出していく。エッッッッッ(※自主規制音)。
「じゃあ、次は──」と司令官が云い掛けた、その瞬間だった。
『ビッッ!!!』と、スタジオに何かが激しく裂ける不穏な音が響き渡った。
見れば、ナオ君の肉圧に耐えかねたニットワンピの、太腿手前の縫い目が完全に弾け飛んで裂けてしまっている。
そこで八乙女副司令官や我々職員は、あまりの衝撃に我が目を疑い、ぎょっと硬直した──。
裂けたワンピの隙間から覗いていたのは、肉に食い込む細い「紐」……。
つまり、この世紀末覇者めいたゴリラ少年は、あろうことか私生活で『紐ぱん』を愛用して穿いている、という動かぬ証拠が白日の下に晒されたのだ。
外見だけでなく、見えない下着の中身まで極限までエロいなんて。最高だ。エンブリオに就職して本当に良かった。
「あーあ、破けちゃったねぇ~? 残念だな~(棒読み)」
「これ、最初からワンサイズ小さくてキチキチなんだよ。生地もストッキング並みに薄いし、おっちゃん、わざとやっただろ、クソ親父」
「え~? なんのことぉ~? 俺、知らな~い」
A氏「……心の中で叫びましたよ。『宗像司令官、グッジョブ!!!』とね。やはり肉付きが良いのは素晴らしいことです。私は断然、あのゴリラオメガのむちむち肉厚派なものでして」
「じゃあ、次はあ~んなポーズを──」
「待ちなさい、宗像司令官」
──欲望のままにシャッターを切り続けようとする宗像司令官の前に、ずいと地獄の門番の如き威圧感で立ちはだかったのは、八乙女副司令官でした。
彼は指先で伊達眼鏡をキラリと無慈悲に発光させました。宗像司令官は一番美味しいおもちゃを取り上げられた幼児のように唇を尖らせ、「ぶーっ」と不満げな放熱音を立てて「なによぉ?」と睨み返しました。
「キャストへの衣装およびポーズの指定に関しては、一般職員だけでなく我々幹部にも平等に『性癖を提案する権利』が国際条約(人神調停)並みに保障されているはずですが」
「そうだけどさぁ……八乙女君、お堅いのはナシだよ?」
「では」
──八乙女副司令官は司令官の泣き言をミリ単位で無視し、くるりと背を向けると、カーテンから顔を出したナオ君の元へと歩み寄り、おもむろに「完全なるセーラ服」を突きつけたのです。
物陰で息を潜めていた我々職員は、あまりの急展開に喉を鳴らし、固唾を飲むしかありませんでした。
「次は、これに速やかに着替えていただけますか?」
「了解~」
「ちょっとぉ! 八乙女君ってば、ショタコンだったの~!? 意外~!」
──宗像司令官がここぞとばかりにキャッキャと囃し立てるのに対し、八乙女副司令官はピクリとも表情を変えず、「貴方にだけは地球上の誰からも言われたくないですね」とドスの利いた重低音で即答しました。
──まったくもって、まさしくその通りですね。
A氏「ええ、スタジオにいた全員が心の中で『お前が言うな』と盛大にツッコんでいました」
──小さく咳払いをしたA氏は、再び電子音の声を弾ませて語りを続けた。
──暫くして、更衣室のカーテンを乱暴に開けて着替え終わったナオ君が姿を現した瞬間、現場のボルテージはおおっと地鳴りのように沸き上がりました。
明らかに。どう見ても明らかに、サイズが致命的に合っていないのですよ!
布面積が絶対的に足りていない超ミニスカートから覗く、見えそうで見えない絶対領域。しかしこれは確実に、何かしら一歩でもアクティブなポーズを取れば、世界が終わるレベルで全てが見えてしまう危うさ(天災)を孕んでいました。しかも足元は、ボリューム感溢れる白のルーズソックス。
私はその神々しさに、思わず拳を血が出るほど強く握り締めました。
でも、その時、私の狭い良心がほんのちょっぴり痛んだのも事実です……。
我々よりも年下の歴戦の傷だらけの純潔な彼を、こんな平均年齢30オーバーのおっさん達のくだらないハレンチ茶番劇に付き合わせてしまっているのではないかと……。
「では、その場で『体育座り』をして貰えますか?」
──八乙女副司令官が、まるで冷徹な作戦指示を出すかのようなトーンで、ナオ君に究極のポーズを要求したのです。
ナオ君がその言葉に素直に従い、床にゴロリと座り込んで両膝を抱え込んだ、まさにその刹那──。
スタジオにいた全員の鼻から、赤い間欠泉(鼻血)がブシャアアアッと音を立てて噴出しました。
──ええ、聞いてるアナタは『そんなギャグ漫画みたいな』って笑うでしょう? でも本当に出るんですね、人間、キャパシティを超えるエロを網膜にダイレクトに注ぎ込まれると、鼻の粘膜が爆発するんです。驚きましたよ。
そう、おぱんつが、これ以上ないほど完全大公開(丸見え)だったのです。
極短スカートと、むちむちとした太腿、それとルーズソックスが作り出す肉の隙間から、布地に限界まで食い込んだ青年の、更に青年たる部分が、圧倒的な存在感を放って膨らみを見せている。しかも、それが結構、いや、とんでもなく大きい。
正味の話、成人男性である私よりも遥かに立派な質量でした。男としてちょっと、いやかなり凹みましたが、脳の変態回路がバグっているため、何故かその暴力的なサイズ感にさらに猛烈に興奮してしまったんです。
おまけに、床にみっちりと押し潰された、もちっとした褐色肌の滑らかな太腿とお尻の肉。床に圧着されることで、肉の柔らかさと肉厚なグラマラスさがこれでもかと強調され、もう、いやらしいったらありませんよ!
「良いよ! すごく良いよ八乙女君! 君、最高に天才だよ~っ!!」
──先ほどまで駄々をこねていた宗像司令官は、一転してハイテンションの獣と化し、狂ったようにシャッターを切りまくっていました。あまりの興奮に、手にしたプラスチック製のメガホンを自分の膝にガッシガッシと叩きつけまくっている。
その姿は、お前は競り市の競り台を激しく叩きながら叫ぶドスの利いた親父か、と思いましたね。居るでしょう、市場でやたらと台を連打して値段を吊り上げる、あのギラギラしたオヤジが。あの瞬間の司令官は完全にそれでした。
「八乙女君、君もなかなかやるねぇ。見直したよ」
「ふ……当然です。これが私の『防衛任務』ですから」
──いたいけな傷だらけの青年に、国家権力を使って破廉恥な痴態を強要しておいて、国を背負う良い大人の幹部たちが、一体何を血迷ってドヤ顔を決めているのであろうか。エンブリオの倫理観はとっくに堕竜の無音咆哮よりも木っ端微塵に粉砕されていました。
まあ……かく言う私も、その鼻血の海の中でカメラを凝視していた大馬鹿者の一人ではありますが……。
──そこまで一気にまくし立てると、A氏は急に現実に引き戻されたように、モザイクの向こうで恥ずかし気に首の後ろをガリガリと掻くのだった。
「次は膝立ちしてみて~! あ、シャツのボタンを外して、腕を胸に添えて首を傾げてね~♡」
「わかったわかった。注文が多いな、おっちゃん」
──ナオ君が宗像司令官のぬるい指示通りに、ぴちぴちの訓練生シャツの第一ボタンに指をかけた、まさにその瞬間でした。
『パァン!!!』
まるで拳銃の銃撃音か、あるいは高圧炭酸の破裂音のような快音がスタジオに響き渡り、プラスチックのボタンがナオ君の肉圧によって自転しながら彼方へと弾け飛んだのです。あの怪物じみた魔人である棟方司令官が、「あ、ボタンってそんな速度で弾け飛ぶんだ……」と小声で戦慄していたのを、私はこの高性能集音マイク並みの耳で聞き逃しませんでした。
サイズが体型に対して致命的にキチキチ過ぎたのです。弾けて当たり前、因果応報。
しかし、それが最高に素晴らしい。
膝立ちになったことで限界まで引き締まる褐色の太腿と、ボタンが弾け飛んだ隙間から、まるで豊満な果実のように覗く大胸筋の谷間。しかも彼は、カメラに向かって、生意気に舌を「れっ」と突き出しながら、顎の下にピースマークを添えてみせたのです。
(──これ、計算だとしたらとんでもないあざとエロの天才(モンスター)だぞ……!!)
八乙女副司令官を含め、物陰に残留していた我々すべての職員の脳内に、同じ雷撃が突き刺さりました。
あの瞬間、我々の間には、迫り来る堕竜を前にした時以上の、強固な「変態としての連帯感」が爆誕していました。
しかし、宗像という男の底なしの業(カルマ)は、これだけでは終わりません。彼はニヤニヤと笑いながら、またしても新たな「国家予算の無駄遣い衣装」をナオ君に手渡したのです。
「今度は一体どんなハレンチ兵器だ?」と目を凝らしたら、それは紺色の──そうです、ピッチピチのブルマです! しかもナオ君は私物のガーターベルトをしたまま出てきました!
「可愛い~! じゃあ、その格好で『女座り』と『女の子座り』も連続でやってみて!」
「あ? それって何が違うんだよ」
「えっとね、これこれ。この参考画像を見て~」
宗像司令官は、私物のスマホのグラビア画像をナオ君の眼前に突きつけて熱心にレクチャーを始めました。ナオ君は「へぇへぇ」とだるそうに頷くと、指示されたポーズの通りに、その凶暴な肉体の重心をストンと切り替えたのです。
まずは「女座り」。正座の姿勢から腰を横にスライドさせ、体勢を片方に寄せてしなっと崩す。
するとどうでしょう。あの狂戦士めいたナオ君の佇まいに、信じられないほどの淑やかさと、大人の色気がドロりと溢れ出たのです。
ブルマの裾からこれでもかと押し出される、褐色肌の太腿の肉圧が眩しすぎて、網膜が焼け焦げそうでした。
続いて、恐怖の「女の子座り(ぺたん座り)」。両膝を内側に折り、お尻を床にペタリと完全に密着させる。
途端に、ナオ君のあの強面と筋肉質な体型が、やんわりとした「か弱い乙女(?)の雰囲気」へと180度反転し、ギャップの暴力がスタジオを更なる狂気へと叩き落としました。
「か、可愛い……。もうゴリラなんて呼べない……」
──物陰で、一人の屈強な戦術オペレーターが、生唾を巨大な音で飲み込みながら白目を剥いて呟きました。他の職員たちも小刻みに首を縦に振り、もはやナオ君のブルマから一歩も目が離せないエロの奴隷と化していました。
するとここで、これまで静観していた八乙女副司令官が、スッと冷徹に右手をスケールのように挙げ、ナオ君に向けて恐るべき尋問を放ったのです。
「ナオ君。貴方は、ヨガの『仰向けの英雄のポーズ』は可能ですか?」
我々一般職員は全員、「は? 英雄? なんだその特撮ヒーローみたいな単語は」と脳がフリーズしました。ナオ君もさすがに首を傾げながら「あ? それはなんだ?」と問い返すと、八乙女副司令官は自分のスマホから、やけに画質の良いヨガのポーズ画像を突きつけました。
「男性は女性と違って、筋肉の質量ゆえに身体が鉄板のように固い人が多い。特に貴方のような歴戦のオメガであれば、解剖学的に難しいかも知れませんが……」
「あー……。でも、俺、格闘技のせいで無駄に身体柔らかいから、これくらいイケるんじゃねぇかな」
ナオ君は画像をふむふむと鋭い眼光で睨んで納得すると、フゥーッと深い呼吸を一つ。
そして、正座の姿勢から両足を少し開き、踵をお尻の横にくっつけた状態から、恐るべき体幹のコントロールで、いとも容易く上半身を後ろのコンクリートの床へと完全に寝かせ、文字通りの『仰向けの英雄』をやってのけたのです!
それは、服装がピチピチのブルマであることも相まって、文字通り国家機密レベルで際どい、全方位大公開の痴態でした……。
しかし、八乙女という男の変態的ポーズへの執念は、そこからさらに加速したのです。
「では、次に『I字バランス』を。さらに、その状態から『ビールマンスピンのポーズ』への移行を命じます」
いずれも、人間の脊椎や股関節がゴムのように柔らかくなければ、肉体がへし折れて内臓が飛び出るような超大技ばかり。しかし、ナオ君は「ケッ、めんどくせぇな」と言わんばかりに、それらすべての軟体ポーズを、軽々と、何事もないようにやってのけたのです。
──スタジオにいた我々は、エロを通り越して、もはや生命の神秘に対する畏怖で硬直していました。
彼は、凄まじく身体が柔らかい男だったのです。
本来なら、毎日の地獄のような柔軟の訓練を経ていなければ、あの鋼のような筋肉であそこまでの鋭角的なポーズは不可能なはず。床に向けて強調されるお尻の丸み、食い込みすぎて布地が悲鳴を上げている紺色のブルマ、そして、小さすぎる体操着の裾から、呼吸のたびに激しく上下する美しい褐色の素肌……。それはあまりにも美しく、性能、そして絶望的なまでにえっちでした。
「すげぇ……」
「滅茶苦茶身体が柔らかいんだな……っていうか、マジでめっちゃエロい、どうしよう……」
A氏「スタジオに残された我々男性陣は、生命への感心と、滾り狂うエロへの欲求が完全に綯交ぜのドロドロ状態になり、ただの知性のないカカシのように見惚れてしまっていました。エロい、可愛い、エロい、可愛い、もう脳の処理が追いつかなくて、何が何だか分からないまま、ただ鼻血の海が広がっていくのを見つめるしかなかったんです……」
「じゃあ、次は『アメリカンバック』やってみようか~!」
──宗像司令官は、完全に己の私利私欲だけで駆動するネオンサインのようなハイテンションで、さらなる破廉恥ポーズをノリノリに提案しました。
ナオ君は「あ、あれね」と鼻を鳴らすと、立て膝をついた姿勢のまま、グイッと上半身を限界まで下げて股の間からこちらを逆さまに覗き込んできたのです。
(──この司令官の底なしの助平ギミックには、人類全員が束になっても到底敵わない……)
八乙女副司令官を含め、スタジオに残された我々すべての職員が、敗北の確信と共に魂を震わせた瞬間でした。
何しろナオ君は、立っているだけで周囲の空間を濡らすほどの強烈なセックスアピール(オメガフェロモン)の塊なのです。それなのに、そんな卑猥の極みみたいな軟体ポーズをキメられた日には──突き出されたむっちりブルマのお尻と、限界まで布地に食い込んだ股間の質量、そして演習着がはだけて大胆に露出したお臍。
肉体を鋭角に折り曲げているため、プロセス、褐色肌の肉圧が「むちり」と互いを押し潰し合って、物凄くえっちな陰影を描き出しているのです。
宗像司令官は「可愛い~! こっち見てナオ君!」と絶叫しながら、親の仇のようにシャッターを切りまくっていました。
「よし、ここからはちょっと趣向を変えてみようか」
──お次は一体何をするつもりだ? 我々全員が、鼻血を拭うのも忘れて頭上に巨大な疑問符を浮かべました。
「そのまま、ヤンキー座りしてメンチ切ってみて」
──指示を受けた青年はアメリカンバックの姿勢をスパッと解いて起き上がると、床にどっしりとヤンキー座りを決め、狂犬のような鋭い眼光でキッとこちらを睨み付けてきました。元々が凄まじい強面なだけに、そのヤンキー特有の威嚇が1000%強調され、物陰の職員の一人が「ひっ」と小鳥のような悲鳴を上げて腰を抜かしました。
しかし、冷静になって良く見て欲しいのです。
格好はピチピチの服に紺色ブルマ。さらに、その胸元には「1の3組・真宵直忠」と書かれた、バザーで売っていそうな手書きの名札が不細工に貼り付けられているのです。
これぞ「ギャップ萌え」の最終定理。可愛いと、エロいと、恐ろしいが、一つの褐色筋肉の肉体の中で完璧な黄金比率で共存していました。
それに何より、我々男性職員が本能の底に隠し持っている『支配欲』や『征服欲』、この強大な雄を屈服させたいという暗黒の欲求が、ナオ君の放つ野生の雄臭さと、色気のある雌の香りのブレンドによって、脳髄を直接スクリュードライバーで掻き回されるように刺激されるのです。
すると、宗像司令官は至近距離までナオ君ににじり寄り、怪しげな棒状の物体を手渡してニヤニヤと指示を飛ばしました。
「ナオ君、こちらを煽るように、生意気に舐めて、しゃぶってみて」
それは、どう見ても成人男性の立派なペニスの形を精巧に模した、あまりにも下劣で太くて長い悪趣味キャンディでした。ナオ君はそれをペロリと一舐めして、「あ? これ……」と一瞬だけ驚いた表情を浮かべた後、その赤くて可愛い舌先で絡め取るように舐め回したり、柔らかそうな唇でチュッと音を立ててしゃぶったりしたのです。
ナオ君にとっては単に「物凄く美味しかった」のでしょうね。しかし、物陰から監視する我々にとっては、別の意味で脳みそが美味しく爆発する光景でした。ちなみに、後で成分表を確認したところ、その卑猥なキャンディは「濃厚なマンゴー味」だったそうです。
「生意気な淫乱ヤンキー青年が、大人のおっさんに『わからせ』られる展開とかさぁ……本当に良いよね~♡」
──宗像司令官は、八乙女副司令官を含むスタジオの全変態どもに聞こえるように、わざとらしいウィスパーボイスで呟くと、軽くウィンクしてみせました。
A氏「エロすぎます!!!!(※電子音が限界突破してスタジオのスピーカーが音割れする)」
──我々全員がヘドバンのごとき高速で激しく頷き、夢中でナオ君のマンゴー飴ペロペロ動画を網膜に焼き付けながら、脳内で凄まじい妄想のビッグバンを膨らませました。
『──この傲慢なヤンキー青年のケツまんこに、俺のちんこを無理矢理に咥え込まされて、逆レイプみたいに強引に腰を振られてみたい──』
『──おい、良いかおっさん。俺が良いって云うまで、テメェがイくのはおあずけだからな? ……あ! そんな激しく動いたら、俺の方がァ……ッ♡──』
などという、国家防衛機関のトップエリートとしては例外の最悪の下劣妄想が脳内で大フィーバーを巻き起こし、思わず全員の股間がズボンのチャックを突き破らんばかりに巨大化するのを抑えられませんでした。撮影開始時からもうずっと、痛いレベルでコンクリートのように張りっぱなしだったのです……。
──その後も撮影は留まるところを知らず、次は、際どいカットアウトが施されたハイレグボディースーツに、タイトなデニムジーンズ、そして高めのヒールが付いた漆黒のブーツという、極上の黒ギャルスタイルでした。
いやもう、正にグラマラスの体現。
胸元と鼠径部(脚の付け根)からぱっくりと大胆に覗く、滑らかな褐色の素肌。正しく雄っぱいな巨乳のバルク。程よく鍛え上げられた戦士の筋肉と、その上に絶妙なバランスで乗ったエロいお肉が、極上のセクシーさをこれでもかと強調していました。肩に大きめのコートを荒々しく引っ掛け、ただ腰をクイッと傾けただけで、ハリウッド映画の女ボスのように美しくカッコいいのです。彼は今すぐ防衛機関を辞めてパリコレのモデルになるべきです。
──まあ、しまいには宗像司令官の趣味でSMの鞭を持たせて妖艶に舌舐めずりさせたり、挑発的な表情で(だいしゅきホールドを連想させるような)卑猥極まるポーズを取らせたりと、ナオ君の強面と筋肉質な身体をフルに活かした「相手に対して主導権を握り、上から無理やり強要する女王様」のような、最高にハレンチな撮影が滞りなく進んでいきました。そして最後は、宗像司令官の『花魁(おいらん)姿のナオ君が見たい!』というワガママにより、豪華絢爛な着物へと着替えてもらうことになったのです──。
──そして、ついにスタジオの防音扉が開き、大トリとして現れたナオ君の「花魁姿」を目にした瞬間、我々すべての変態の口から、悲鳴にも似た割れんばかりの歓声と、魂が抜けるような感嘆の溜め息が同時に漏れ出しました。
それは、白地に眩い金の華やかな紋様が躍る振袖に、可憐な花柄が咲き誇る豪華な帯。
藍色の布地に金色の星屑が小さく散りばめられた帯揚げと、小粋な小物が鈍く光る帯締め、そして首元を引き締める鮮やかな紫の伊達襟。
その上から羽織ったのは、黒地に赤とオレンジの極彩色のグラデーションで、妖艶な椿と金魚が描き出された最高級の色打ち掛けでした。髪に挿された藤の花の髪飾りが、彼の動きに合わせて小さく揺れる。
高身長で、引き締まった筋肉の上に極上の肉が乗ったスタイル抜群の彼がこれを着ると、想像を絶するレベルで完璧に様になっていたのです。綺麗で、艶かしく、そこはかとなくお色気ムンムンで、何より、神々しいほどの「品」がある。
極東の歴史に刻まれるべき『褐色肌の花魁』というジャンルが、これほどまでに男の脳髄を破壊する素晴らしい破壊兵器だったとは。
普段の黒いチョーカーを外してもらったため、大きくはだけた襟足から覗く高潔なうなじが、悩ましいほどのフェロモンを放っている。
そして、豪華な和服の隙間から、歩くたびにぱっくりと覗く、引き締まった褐色の長い生足。
ナオ君という男は、一体なぜ布を纏えば纏うほど、逆にここまで限界突破してエッチになってしまうのか。誰もがその生命の神秘に平伏しかけた、その時です。
「じゃあ、最後のカットだし、ぱんつ脱いでみようか~♡」
「「え?」」
──八乙女副司令官を含め、スタジオにいた我々職員全員の口から、同時にカエルの潰れたような間抜けな声が飛び出しました。せっかく伝統美の極致に感動していたのに、司令官の脳みそは一瞬でいつものド下劣ドブ川へと逆流したのです。
「ナオ君、ぱんつ、上手に脱げるかな~? おじさんがお手伝いして脱がしてあげようか!?」
「あ? おっちゃん、俺を馬鹿にしてんの? ……きも~い♡」
ナオ君はヤレヤレとばかりに呆れたように首を振ると、あろうことか、こちらの理性を焦らすようにゆっくりと、本当にゆっくりと、絢爛な着物の裾から手を割り込ませて例の紐ぱんを引き下ろし始めたのです。
しかも、挑発的な流し目でこちらをジッと見つめながら、赤くて可愛い舌先で、ペロリと己の唇を妖艶に湿らせるという追加コンボまで繰り出してきました。
もう……! もう限界でした……! スタジオの床は流出した鼻血でスケートリンク状態です。
当然、獲物を狙う肉食獣と化した宗像司令官が、この世紀の瞬間を見逃すはずがありません。
すぐさまプロ用カメラのシャッターを親の仇のように連写しまくり、床に這いつくばって、ありとあらゆる下劣な角度から「国家機密ギリギリのライン」を攻め落としていきました。
(──確かに。冷静に考えれば、ここでぱんつを脱がせたのはカメラマンとして100点満点の大正解だった……!)
その瞬間、宗像司令官以外の全職員が、己の浅はかな常識を猛省し、一斉に考えを改めました。まさか、着物をはだけさせた褐色オメガの花魁が、ノーパンになっている姿が、これほどまでに、これほどまでにえっっっっっち極まりないものだとは……!!!!
──兎に角、全人類の欲望を限界まで煮詰めたような単独撮影は、これにて無事に(?)終了したのです。
ちなみに、ナオ君が脱ぎ捨てたあの伝説の紐ぱんは、撮影終了と同時に宗像司令官の手によって、ごく自然な手つきで彼のグレーのスーツのポッケへと「ナイナイ」され、そのまま闇に葬られました。
『人は見掛けによらない』『人間、見た目で判断してはいけない』という先人の言葉の正しさを、身を以て、かつはっきりと理解させられた壮絶な撮影でした。
後日、即日完成したエンブリオ公式写真集は、発売と同時に飢えた社畜どもの間で熱狂的な好評を博し、重版に次ぐ重版、増刷に次ぐ増刷という、空前絶後のメガヒットを記録しました。
当然、エンブリオの全職員が教科書を買うような真面目な顔で、こぞって写真集を自費購入したわけですが……。
悲劇的なことに、一般配給されたその写真集には、我々が血眼で探した「ナオ君の写真」だけが、影も形も載っていなかったのです。
そうです。あのド屑な宗像司令官は、自分だけの独占オカズ用にと、ナオ君のグラビアページだけをデータごとこっそり抜き取って、特製の個人用写真集として私物化していたのです。
しかし、あの鼻血の地獄を共にした八乙女副司令官と私、そして残って見学していた精鋭の変態職員たちから、防衛機関を揺るがすレベルの大ブーイングと暴動の予兆が巻き起こったため、司令官も命の危険を感じたのでしょう。
最終的には、渋々といった様子で我々身内のみに、ナオ君の極秘紐ぱん花魁写真集が裏ルートで無償配給されたのです。
A氏:──私の知る、アノマレコードの裏に隠された真実は、以上です。
ルポライター:……ありがとうございました。非常に命の危険を感じる、しかし大変に参考になるお話でした。お役所仕事のエンブリオが、まさかそんなエロの情熱で駆動していたとは、とても興味深い。
──ちなみに、そのナオ君の、紐ぱんが食い込んだり花魁姿でノーパンになったりしている特製写真集は、今からでも何処かで買えますか? 私も一冊欲しいのですが。
A氏「(即答で)無理ですね。国家最高機密ですから、一般人は天地がひっくり返っても逆立ちしても買えません」
ルポライター:そんな……そこをどうにか、大人の事情で流通させるわけにはいきませんか?
A氏「う~ん……一応、私の命の保証はありませんが、宗像司令官のポッケ(紐ぱんの隠し場所)に直接掛け合ってみるだけは行ってみます。……まあ、期待しないで待っていて下さいね」
ルポライター:ありがとうございます!! 日本の未来は、あなた方の股間の平穏にかかっています!!
◆
国家防衛の最前線スタジオで、全職員が鼻血の池を作っていた狂乱のグラビア撮影会から数日後──。
日本防衛特務機関エンブリオの職員専用談話室にて、一人の戦術オペレーター・阿多(あた)が、至福の表情でコーヒーを片手に一冊の分厚い冊子を貪り読んでいた。その弛緩しきった顔は、まるで宝くじの当選番号を眺める成金のようであった。
そこへ、退屈を持て余した軽い足取りで通り掛かったのは、銀のアルファ・ノーブルダルジャンの竜たるナハトである。
見慣れた職員の背中が視界に入った瞬間、ナハトはいたずら小僧のようにくくっと喉を鳴らし、猫のように気配を完全に消してそっと彼の背後へと近付いた。
そして、耳元で「わっ!!!!」と、鼓膜を直接揺らすような大声を叩きつけた。
「ぶほぉおっっっ!!!???」
傷跡、阿多は肺胞の底から淹れたてのコーヒーを豪快に大噴射し、ゴホゴホと激しく咳き込んだ。
「あ、あ、老体に響くだろ……っ! 驚いたじゃないかナハト! あ、いや、それより写真集は……っ!? 良かった、奇跡的に無事だった。神に感謝を……!」
自身の気管支の安否よりも、手元の冊子の無事を涙目で確認してホッと一息つく阿多に対し、ナハトは片眉をピクリと跳ね上げ、邪念のない無邪気さで「写真集ゥ?」と問い掛けた。
実際のところ、エンブリオの一般職員たちと、ナハトをはじめとするノーブルダルジャンのドラコたちの関係性は、非常に良好であった。
命を預け合う戦場を共に潜り抜けてきた彼らの間には、他人を超えた確かな信頼関係がある。
破天荒でじゃじゃ馬なダルジャンの面々ではあるが、血を吐くデスマーチに追われる職員たちにとっては、どこか手のかかる弟のようであり、家族に近い愛おしい感覚が芽生えていたのだ。
ちなみに、黄金のアルファ(ノーブルドール)の傲慢なドラコどもが、職員をただの使い捨ての奴隷か使用人同然にしか見ていないのとは、あまりにも対照的な光景であった。
「そう、僕の宝物~うふふ。夜のヨリドコロさ……」
阿多は完全に理性をどこかへ置き忘れたようなうっとりした表情を浮かべ、写真集の表紙に己の不精髭の生えた頬をズリズリと擦り付けた。
ナハトはそれを見て、ピンク色の舌を小さく出すと「げぇ……」と本気で嫌そうな顔をしてしかめてみせた。
「ほら、僕ら一般職員ってさ、キャストに気に入られないと、夜の指名とか大人のスキンシップが一切出来ないお役所システムだろ? だから、見るに見かねた宗像司令官が、俺たちの夜のために職権乱用で『キャスト公式写真集』を作って現物配給してくれたんだよ」
(──あの狸親父、また防衛予算を使ってそんなド下劣極まる私利私欲の私物化を思い付いたのか)
ナハトは心の中で、エンブリオの最高司令官の脳細胞の緩みっぷりに深い呆れを覚えた。
「ねぇナハト、中身気になる? ねえ気になるでしょ? 見たい?」
もう自慢したくて、かつ自身の性癖を誰かに共有したくて堪らないという、限界オタク特有の不穏な熱気が阿多の全身から漂っている。
ナハトはやれやれと心の中で首を振りつつも、青年の無邪気な顔を作って「気になる~!」と答えてやった。
手渡された写真集のページをパラパラとめくると、そこには絶世の美オメガキャストたちが、職員たちの歪んだ希望に沿って、様々なセクシーなポーズで肌を晒している、純粋にエロいグラビアが並んでいた。
(……ふ~ん、まぁ確かにエロいな)
しかし、ナハト自身はドラゴンとしての圧倒的な頂点権力を持っており、指名などせずともあらゆるオメガを選り取り見取りで抱ける絶対的強者の立場である。そのため、別段、人間の紙切れに対して欲しいという情動は湧かなかった。
ナハトが満足して冊子を返そうとした、まさにその時である。阿多は周囲の気配を不穏に警戒しながら、さらに自身の鞄の奥深くから、重々しくビニールに包まれた「隠されたもう一冊」を取り出した。
「実はさ……本当の最高機密はこっち、もう一冊あるんだ」
阿多は声を極限まで潜め、特別にそっと手渡した。
「特別だからね? 他の職員や幹部には絶対に秘密だよ? いやもう、宗像司令官の目を盗んで、八乙女副司令官の裏ルートから手に入れるのに、滅茶苦茶苦労したんだから……!」
手渡された、闇の裏写真集。その記念すべき表紙は──。
あろうことか、あの真宵直忠が『褌(ふんどし)一丁』という前衛的な姿で、ゴリラのように極太の腕を組み、歴戦の逞しい褐色筋肉をこれでもかとドヤ顔で見せつけている、最悪の筋肉絵面であった。
(なんだこりゃ、ただの野生のゴリラの生態写真集じゃねぇか。アイツ……、こんなふざけたお笑い写真集撮らされてんのかよ)
一気に読む気がマイナス100度まで失せたナハトであったが、目の前の阿多が、まるでサンタクロースを待つ子供のようにキラキラとした期待の眼差しを向けてくるため、仕方無く重い指を動かしてページを捲った。
次のページを開いた瞬間、ナハトの思考は完全に停止した。
そこには、刺繍入りの特攻服を羽織った直忠が、凶悪な釘バットを肩に引っ提げて煽るようにこちらを睨みつけているのだが、何を血迷ったのか、背景には全く同じポーズをした直忠の顔が不自然に何個も加工されてペタペタと貼り付けられており、紙面の隅には、竜成初期のプリクラ風のフォントで『チャリで来た。』と雑に書き殴られていた。
(……正気かよ、エンブリオの電脳班は何を遊んでるんだ。脳みそが狂ったか?)
さらに次のページを開く。
今度は、日本の伝統的な祭りで御輿(みこし)を担ぎ、汗を流して咆哮する筋肉隆々の男たちの写真──なのだが、神輿を担ぐ男たち全員の顔に、直忠のあの強面の顔が寸分の隙もなく貼り付けられた、IQゼロの雑なクソコラ画像写真であった。
──もう読むの止めるか。時間の無駄だし、脳細胞が死滅する。
ナハトは深い溜め息を吐き、この無価値なお笑い冊子を閉じようと、重たい指先を動かした。
しかし──期待値が完全にマイナスの底を突き破り、ただの嫌がらせのギャグ冊子だと確信していたその内容が、次のページを完全に開ききった、まさにその刹那。
銀アルファの脳髄を、堕竜のルール災害をも凌駕する、おぞましいまでの「至高の電撃(エロの衝撃)」が、見事に、そして狂暴に覆した。
期待値が完全なるマイナスの暗黒に沈んでいたナハトの網膜を、次のページが開かれた刹那に襲撃したのは──。
極薄ニットワンピを肉圧で引き千切りながら四つん這いでこちらを挑発する「褐色エロボディゴリラ」の、天を割るほどの色気の暴力であった。
ナハトはあまりの衝撃の質量に、言葉を失ってとっさに自らの口元を両手で押さえ、文字通り硬直した。そこからは、地獄の業火に焼かれるジャンキーのように、無言で、狂ったようにページを捲り続けた。
薄手ブルマから覗く驚異の軟体「仰向けの英雄ポーズ」、そして絢爛な着物をはだけさせ、ノーパンで妖艶な流し目をくれる褐色花魁……。
一通り読み終わったナハトは、白目を剥くようにして談話室の何もない宙を見つめ、脳髄の髄から搾り出されたような、感慨深気に大きな、あまりにも巨大な溜め息を漏らした。そして──まるで因果律のループに囚われたかのように、もう一回、我慢できずにもう一回と、夢中で直忠のハレンチな姿を網膜に、そして遺伝子に焼き付けるように読み返したのだ。
「……阿多さん」
「どう? 凄く良いでしょ! 僕の言った通り、命のヨリドコロだろ!」
「……これ、セクターの何処の闇市に売ってンの?」
「う~ん、だから売って無いんだよね、これ……。八乙女副司令官たちの完全な裏ルートだし。でも、発案者の宗像司令官に直接頼めば、電脳中枢に生データを残してる筈だから、職権乱用で特注で作ってくれるかも知れないけど……」
阿多の言葉が終わりきるより早く、ナハトの身体は動いていた。光速のステップで談話室を飛び出すと、エンブリオの最深部にある司令官室の扉を蹴破らんばかりの勢いで突入。あの最高にキモいステップを踏んでいた宗像司令官に対し、「あのゲロオメガの特注写真集を、今すぐ俺の分もビルドしろ」と、国家の存亡を賭けた作戦会議以上の熱量で直談判を敢行したのである。
数日後──。顔中に「ニコニコご機嫌」という名の極上フェロモンをこれでもかと貼り付けたナハトは、無事に世界に数冊しか存在しない『真宵直忠・極秘グラビア写真集(特注版)』を手に入れ、談話室のソファで鼻歌を交じりに貪り読んでいた。
しかし、そのハレンチな集中力を、背後から音もなく近づいてきた狂犬・モルドレッドに、あっさりと捕捉されてしまったのだ。
「おい、ナハトォ。何隠してやがる、見せろォ」
「嫌だよ、これは俺の宝物だ!」
凄まじい質量を持つ銀のアルファ同士による、国家防衛の歴史に残るレベルの醜い押し問答(物理)が数分間繰り広げられた。結果、圧力の差で渋々と読ませる羽目になったナハト。ページをめくったモルドレッドの目が、一瞬にして血走った獲物のそれに変貌するのを、ナハトは見逃さなかった。
「……おい。これ何処の裏マーケットに売ってんだァ? ああ?」
ナハトは自身の股間の膨らみを隠すように足を組み、にたっと邪悪に笑いながら、勝利の優越感に浸って答えた。
「売って無いんだよなァ。これは俺だけの特注品だしぃ~」
「じゃあ、なんでテメェが持ってんだよォ」
「さあな。ドラゴンの秘密~」
モルドレッドはチッと凶暴に舌を鳴らすと、ナハトの顔と写真集のクオリティを交互に睨みつけ、キュピーンと持ち前の野生の直感で察知した。
「……分かった。あのド屑の狸親父──宗像司令官だな?」
「……チッ」
完璧にバレてしまった。ナハトは不機嫌極まりない顔で顔を背けると、談話室を出ていくモルドレッドの背中に向けて、一人でドス黒い毒を吐き捨てた。
「──全く。これだから、躾のなってないおちんちんは駄目なんだ。すぐにああやって、エロの出処に鼻を利かせるんだからな……」
ちなみに。ナハトやモルドレッドがそんな醜い内輪揉めを繰り広げているその頃、あの冷酷無比な氷竜・ジーヴァは、誰よりも早い段階で宗像司令官の弱みを握り、冷静沈着な手続き(という名の脅迫)を経て、こっそり直忠のノーパン花魁写真集を購入済みであったことは、エンブリオのデータベース『アノマレコード』にのみ深く、そしてハレンチに刻まれている事実であった──。おしまいおしまい。
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