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20アノマレコード:007-G(六本木特区因果固着・魂質酸化反転災害記録/首無しライダーが嗤う①

 「よぉ。乗ってけヨ」  それはイシュタルでの過酷な仕事を終えて、六本木から帰宅途中のことだった。  背後から地響きのように唸る重低音のエンジン音が鼓膜を震わせ、俺のすぐ傍でピタリと停まった。  誰だ? とヘルメットを被った人物に胡乱な視線をやりながら、鼻腔をくすぐる覚えのある匂いに、俺の防壁(バイタル)が小さく反応する。 「──あれ、アクシャラ、だっけ?」 「それ以外に誰が居ンだよ」  被っていたヘルメットを脱いだアクシャラの姿が露わになると、周囲の通行人たちから嬌声ともつかない、短い悲鳴のような声が上がった。  正面からその男が放つ圧倒的な気配を浴びた瞬間、網膜の奥に どす黒い火花がパチィィィンと散るような、強烈な錯覚を覚えた。  視線の先にいるのは、狂おしいほど好戦的な光を湛えた桃色の双眸だ。鋭く尖った獣の耳をピクリと震わせ、獲物のバイタルを品定めするようなその冷徹な眼差しと、目元に鋭く走る鮮烈な赤の隈取りが、男の持つ凶暴な輪郭をこれ以上ないほど雄弁に引き立てている。  長い睫毛の奥にある、底の知れない硝子玉のような瞳に俺の姿がハッキリと囚えられた時、胸の奥がゾクッと痺れるような、甘い悪寒に似た拍動が心臓の最深部で弾けた。  男の額を飾る、夜の闇すら挑発するようなストロベリーピンクのポンパドールリーゼントは、ただの髪型とは思えない圧倒的なカリスマ性と凄みを放ち、街灯の下で妖しくきらめいている。  ヤンキー崩れの粗暴な佇まいを見せながらも、身に纏う『竜の心臓』の特別仕様隊服──星を散りばめた青と黒のグラデーションは、男の167センチという、アルファでありながらも小柄で引き締まった体躯に恐ろしいほど完璧に馴染み、人智を超えた強者の風格を漂わせていた。  そいつが不敵に口角を上げて獰猛に歯を覗かせ、背後でしなやかに揺れる狼の尻尾が、逃げ場のない捕食者の重圧となってこちらの呼吸を狂わせる。硬派な色気と、脳細胞をじわじわとチェンソーで引き裂くような圧倒的なアルファの暴力に、俺はただただ息を呑んで魅入るしかなかった。 「ほら、早く乗れ」  周りの喧騒にチッと不快そうに舌打ちしながら、アクシャラは俺の腕を強引に掴むと、もう一つのヘルメットを頭から乱暴に被せて後ろのシートへと引っ張り上げた。  アクシャラの愛車は、1970年代に作られた伝説の大型バイク、カワサキの「Z1」である。現代の流線型のバイクとは一線を画す、漆黒の巨大な鉄の塊だ。むき出しの空冷四気筒エンジンと、左右に二本ずつ力強く突き出た四本マフラーが、言葉にできない重厚な渋さを醸し出している。今や数百万、下手をすれば家が一軒買えるほどの価値があるヴィンテージの名車だった。その巨大な化け物バイクの横に立つと、小柄なアクシャラの体躯はなおさら小さく見えた。  だが、俺がシートに跨り、大きく横に広がったハンドルを握りしめたアクシャラの背中を見つめた瞬間、その場の空気が変わる。まるで獰猛な巨獣を完全に手懐けた優秀な乗り手のような、圧倒的な風格がそこに生まれていた。  アクシャラはステップからキックレバーを引き出すと、細い身体の全体重を乗せるようにして、一気に足元へ踏み抜いた。  ──ドバババババンッ!!  腹の底に重く響くような、重厚で暴力的な爆音が夜の街に炸裂する。古いガソリンとオイルが混ざり合った、どこか懐かしい焦げた重油の匂いが周囲に立ち込めた。 「よし、機嫌は悪くねえな。……行くぞ、相棒」  アクシャラがスロットルを軽く煽ると、四本の排気口から地響きのような咆哮が上がり、鉄の巨躯が夜闇へと滑り出した。 「ちっちぇのに随分ゴツいバイク乗ってんのな」 「へ。云ってろ」 「まだ二ケツ駄目じゃねぇの?」 「ドラコは特別許可が出てんだよ。余計な心配すんな」 「そんな事云ってる癖して、ちゃんとヘルメット着用してるし……」  風に煽られて、アクシャラの長い後ろ髪が揺れると、街灯の光を反射してキラキラと煌めいていた。まるで夜空に浮かぶ星が瞬いてるかのような品格がある。  アクシャラから香る心地好い匂いに包まれながら、繁華街の灯や反対車線を走る車のライトが夜を駆ける星のように流れていくのを、俺は胸のメンズブラのホックの質感をパツパツに軋ませながら、暫くぼうっと眺めていた。 「──着いたぞ」 「おーサンキュ~」 「って、俺家のこと云ったっけ?」 「もうお前の情報全部エンブリオの方で管理してっから」 「ヤダーストーカ~」 「じゃあナ」  バイクのエンジンをガタガタと鳴らして、アクシャラがそのままスロットルを回して去ろうとするのを、俺は慌てて引き留めた。 「あ、ちょっと待って。今時間ある?」 「あ?」  少しだけ小首を傾げて、桃色の瞳を怪訝そうに細めるアクシャラに、俺は首をかきながら声を掛けた。 「家に寄ってかない? 時間あるならだけど」  ◆ 「ど~ぞ~。適当に座って。今飲み物持って来るから」 「おう」  アクシャラが不躾に部屋を見回しながらカウチに腰を下ろしたその時、部屋の隅から毛玉が声をあげた。 「ミ゛ィ」 「うわ、なんだコイツ」 「あ~、それ俺のヒモ」 「はあ?」  あからさまに嫌そうな顔で眉をひそめるアクシャラを他所に、俺は冷蔵庫を開けた。 「飲み物何が良い? ジュースとお茶と牛乳、コーヒー、紅茶もあるけど」 「コーヒー」 「へ~い」  どうぞ、と淹れたてのコーヒーが入ったマグカップを手渡して、俺はテーブルを隔てた反対側にドカンと座り、アクシャラと向かい合わせになった。 「なんで送ってくれたん?」 「別に。たまたま見掛けたから」 「ふ~ん」 「ミ゛ィ」 「毛玉は今日も可愛いなぁ。腹減ったのかぁ~?」  足元にすり寄ってくる毛玉を大きな手でふわふわと撫でながらそう問い掛ければ、毛玉が応えるように嬉しそうに跳び跳ねた。 「イシュタルで飯食った?」  アクシャラにそう問えば、コーヒーの湯気の向こうから「いや、帰りにどっか適当に済ませるつもりだ」とぶっきらぼうな答えが返って来る。それを聞いた俺は、よっこいしょういち、と逞しい褐色巨体を引き上げて立ち上がった。 「送ってくれたお礼に飯作るわ」 「お前飯作れンのか?」 「旨いかどうかは知らん」 「おい……」  アクシャラは眉根を寄せながらも、台所でガサゴソと料理をしている俺の行動を物珍しげに、つぶさに観察し始めた。  予め米を研いでおいた炊飯器の釜に、炒めたスライスベーコン、ケチャップ、オイスターソース、バター、塩、胡椒、最後にローリエをそっと乗せてスイッチを入れる。  炊き上がるまでに時間があるので、手際よく簡単にコンソメスープと大根とツナのサラダを作る。  フライパンでバターをジュワッと溶かし、溶いた卵液を一気に流し込むと、ゴムべらで素早く半熟のスクランブルエッグ状にする。炊き上がったケチャップライスの形を綺麗に整えてから真ん中に乗せ、職人技のような手つきでくるりと包み込んだ。  出来上がったオムライスを、二人で席を向かい合って「いただきます」と手を合わせて食べると、アクシャラは驚いたように目を大きく見開いて、ぱくぱくと次から次へとスプーンで口の中に放り込んだ。  その獰猛な戦闘狂の横顔から、初めて年相応の青年らしさが垣間見えた気がした。 「……うめぇ」  ポツリと漏らされた言葉に、俺は一先ずほっと胸を撫で下ろすと、自分もオムライスにスプーンをつけたのだった。  足元では、毛玉が満足そうにオムライスを小さな手でちみちみと千切って口へ運び、「ミ゛ィ」と嬉しそうに鳴いた。  食事を終え、皿を片付けていると、アクシャラが気まずそうに立ち上がって手伝おうとしたので、俺はそれを手で制した。 「いい、いい。ゆっくりしてろ」 「……お前ってそんなに甲斐甲斐しいキャラだったか?」  ちょっとだけ疑いを含んだ鋭い眼差しを向けてくるアクシャラに、俺はニッカリと白い歯を見せて笑った。 「おう! 俺は優しいんだぞ!」  どん、と分厚い胸を叩いて見せれば、特注メンズブラの繊維がパチィィィンと軋んだ。  皿を洗い終わって、改めてアクシャラに向き直って声を掛けた。 「あのさぁ……」 「……んだよ」 「俺のトークアプリになんか、いつの間にかお前ら兄弟が友だち登録されてたんだけど?」  スマホの画面を突きつけながら胡乱な眼差しをアクシャラに向けると、は、とアクシャラは鼻で笑って呆れた顔をした。 「そんなもん……エンブリオだろ」と吐き捨てるように云ってのける。 「うわぁ~~」  俺はベッドに仰向けにドカンと倒れると、ごろ、と寝返りを打ってアクシャラの方に向き直った。 「……魂の番?」 「……さあな」  コーヒーを再び口に運ぶアクシャラは、何処か達観した表情をしており、その双眸の奥で何を考えているのかは判らない。 「アクシャラは……良いのか?」 「別に……」 「そっか。まあでもあれだ。番っつっても、好きな人出来たらそれはそれで俺も全然構わないし、既に恋人とか居るんなら別れる必要ねぇかんな? 大事にしろよ?」 「……お前、」  アクシャラが何か云おうと不快そうに唇を動かしたそのタイミングで、玄関からインターホンがけたたましく鳴り響いた。モニターを確認すれば、炉舞とノチェルオの二人が立って居た。  扉を開けると、二人は俺とアクシャラが並んでいるのを見て、眼を真ん丸にして「え゛!?」と不条理なほど驚いていた。 「じゃあ、帰るわ。飯サンキュな」 「お~。気を付けて帰れよ~」 「は。誰に云ってンだか。舐めんな」  アクシャラが不敵に笑って部屋を出ていくと、残された二人が恐る恐る部屋に入って来る。 「どしたん?」 「どうしたって……」 「真宵君こそ……」 「え~~? なんか下世話な想像してない? 別に送って貰ったから飯作っただけだって」  俺は邪推する二人を交互に見ながら、不満の声を盛大に漏らした。 「そ、そうか……」 「立ってないで座れよ。なんか飲む?」  二人に冷たい飲み物を出してから、俺は漸く、彼らの要件を聞く事が出来た。  ◆ 「郵便でーす!」  郵便配達員から無機質な封筒を受け取ると、彼は愛想の良い笑顔を残して去って行った。  改めて自分に届いた封筒に視線を落とす。  相手の名前も、住所すらもそこには無い。  不気味に思いながら封を開けて中を見ても、ただ一枚の真っ白な紙が入っているだけだった。 (これで九日目か……)  俺は首を傾げながら、その奇妙な手紙を手にしたまま部屋に戻った。  ──その夜の事。 「これ、ドラコの席に!」 「あい、任された~」  俺は唐揚げとフライドポテトとオニオンリング、タコの唐揚げに鶏の軟骨の唐揚げが山盛り乗った大皿と、数種類のアルコールのジョッキをトレーに乗せて、ドラコ達の待つ席まで足早に運んだ。  七番テーブルにはナハト、モルドレッド、アンヘル、そしてアクシャラが居た。  4人の周りには、馬鹿みたいに沢山のキャストが集まって群がっていた。指名しなくとも竜の品格に引き寄せられて自ら集まってくるのだからどうこう云え無いが、なかなかに凄惨な密度の光景だ。 「ああ、来た来た!」 「相変わらずガキみてぇな舌だな。見てみろこのレパートリー」  運ばれて来た茶色一色の料理を見ながら、アクシャラがアンヘルを一瞥し、呆れた様に呟いた。  それを聞いたアンヘルがアクシャラをギロリと睨みつける。 「うるせぇ。唐揚げとフライドポテトは大正義や。それにここの唐揚げはジューシーで味付けも最高、ポテトは絶妙な塩加減とサクサクしっとりで美味いんやッ」  とオレンジジュースの入ったジョッキを片手に、スタッフルームまで響きそうな声で叫んだ。要は甘党でジャンクフード大好きマンである。 「主語がデケェ……」  ナハトが前髪の隙間からぽそりと呟く。 「二人共、そう云ってやンなァ。コイツ甘党ジャンキーだから、それに合うもんしか食えねぇ呪いに掛かってンだァ」  ハイボールを喉に流し込み、唐揚げを爪楊枝で摘まみながら、ボソリとモルドレッドが哀れみの言葉を呟いた。 「モルドレッドぉ~~……殺すッ!!」 「おう。やってみろやァ」 「それに比べてアクシャラなんか……」  ちら、とナハトがアクシャラに視線を移す。  その視線の意図を察して、ぐ、と口ごもるアンヘル。 「あ?」  アクシャラは、ジョッキ一杯に注がれたスピリタスを、水でも飲むかのようにそのままぐびりと一気飲みして干した。  よく死なないな。そりゃ竜だから死ぬ訳ないか。こいつはドラコの中でも一番酒豪なのだろう、と俺は心底感心する。見た目はこんなに可愛いのに。 「おかわり」  と、俺に空のグラスを差し出し、此方に顔を向けたアクシャラの動きが、その瞬間ぴたりと停止した。  ドラコの証である獣の耳と尻尾がピンと緊張のパルスで直立する。  ストロベリーピンクの綺麗な髪が、パチパチと星を瞬かせたように妖しく煌めく。  アクシャラは俺の後ろの空間を凝視しながら、半開きの口をぱくぱくと金魚の様に動かし始めた。  漸くその唇から絞り出された言葉は、ひどく掠れたものだった。 「な……おい、」 「は?」 「その、後ろに連れてるのは……使い魔、とかかヨ?」  アクシャラが戦慄に震える指先で、俺の後ろを指差す。  慌てて後ろを振り返るが、そこには何もない。何もないと云うか、ずらりと並んだテーブル席とお客、談笑するキャスト、料理や飲み物を運ぶいつものスタッフがいるだけだ。  改めてアクシャラを見ると、かつてないほど険しい表情で俺の背後(何もない空間)をじっと睨みつけている。  そのただならぬ異常な様子に、ナハトとモルドレッドが顔を上げ、此方を見た。  それから、ああ──と云った何とも云えない顔をして、まるで可哀想な生命体を見るように、俺に冷たい憐れみの視線を向けた。 「の、の、、」 「の?」 「呪われてるやん自分」 「はあ……?」  アンヘルは俺を見て手を叩いて爆笑すると、アクシャラの肩をポンポンと叩いた。アクシャラは「おう。任せとけ」と短く応じ、勢い良くガタンッ、と椅子を鳴らして立ち上がると、俺の手を力強く引いてイシュタルの外に向かって歩き出した。 「ちょ、待っ、なん、何ぃ~??」 「黙って付いて来い」  有無を云わさぬ圧倒的な武の迫力に思わず気圧されて、俺は黙って奴の背中に付いて行く事にした。  イシュタルの外の通路で、アクシャラは改めて此方を正面から見据えた。 「オメー、最近身の回りで変な事起こって無いかヨ?」と低く訊ねてくる。  特に思い当たる節が無いので、「う~~ん」と顎に手を当てて唸っていると、 「なんか、オメーのとこに届いてるもンとか無いのか?」とさらに畳み掛けられる。 「あ!」と小さく呟いてから、ズボンのポケットからあの不気味な封筒を取り出すと、数秒でアクシャラの手によってひったくられた。 「あと何枚ある」 「え」  ぽかんとする俺に、アクシャラは封筒を親の仇のように睨みつけながら、鋭いパルスで問い詰める。 「何枚」 「えっ……と、八枚??」  はあ~~、と天を仰いで長い長い溜め息を吐き出した後、俺の頭が思い切りバチィィィンと叩かれた。 「この馬鹿野郎ッ」 「痛いっ、なんで叩くんだよ!」 「見せてやる」と云いながら、アクシャラは俺を後ろに向かせると、その節くれだった両手で俺の両目を完全に塞いだ。  数秒の後、スッと手が離れ、再び視界が広がると──。  目の前に、異様な風体の、大きくて髪の長い女性の様なナニかが、音もなく佇んでいた。  目と口がどす黒い糸で何重にも縫われており、鼻にはぽっかりと不自然に大きな穴が空いている。 「うお……お???」  あまりの恐怖に思わず腰を抜かし、その場にドカンと尻餅を付いた俺は、空気の抜けた風船のように情けない声をあげて叫んでいた。  禍々しく、おどろおどろしい呪いのオーラを纏った『それ』は、グキッと骨の折れる嫌な音をさせて首を異常な長さまで伸ばすと、俺の鼻先数センチまで顔を近付けて──。 「はい、しまいだ」と、アクシャラが背後でパンパンッ、と乾いた音をさせて手を叩いた。 「お前を呼んだのは誰だ? 吐け」  アクシャラは冷酷な声で『それ』に問い掛けるが、縫われた口から返事は無い。  徐にアクシャラが手を伸ばして『それ』に触れると、ずぶりと、肉の抵抗もなくその身体の中に腕が深く入って行った。 「う~~んん……なんだ……上手い事逃げてンな」  霧の中を探るように腕を動かして、チッと苛立たしげに舌打ちをしたアクシャラは、腕を引き抜くと「どうしたら帰る?」と再び『それ』に問い掛ける。 『○゛△゛□゛✕゛●゛……』  身の毛も弥立つような、色んな生き物をミキサーに掛けたようなぞっとする不条理な声で、『それ』の体細胞が何かを呟いた。  アクシャラはウンウンと納得したように頷くと、「分かった」と云うが早いか、いきなり腰に差してたナイフを抜き払い、自分の手首をごとりと切り落とした。 「お……っ、なに、やってんの……!?」  驚愕して目を見開く俺の前で、アクシャラの手首の断面から滴る鮮血を、『それ』は鼻の穴でごくりごくりと貪欲に飲み込み始めた。さらに地面に転がる手首をその鼻の穴へと押し込むと、パンッと風船が弾けるような音と共に、黒い煙となってその場から完全に消え去ってしまった。  暫く呆然と虚空を見つめていたが、ハッとしてアクシャラの方を見る。  驚いた事に、彼の手首は既に肉組織が超高速で結合し、元通りに再生していたのだ。 (ドラコは再生能力がエグいな……それでも痛覚はあるから、痛くない訳ないだろうに)  ごくりと喉を鳴らしてから、漸く震える口を動かした。 「えっと、助かりまし──」  と云い掛けた瞬間、アクシャラの手がパチンッ、と俺のおでこを赤くなるほど強く弾いた。 「ったく、オメーはいつも飽きねーヤツだな」 「め、面目無いですぅ~……」  そうやって、182センチのでかい褐色身体を精一杯縮こまるしかなかった。

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