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22ル・ルトゥール①

 12月。世界システムを震撼させる数々のハザードの狭間。  その日、特務機関『エンブリオ』の地下作戦司令室は、国家最高戦力たちのプライドを微塵も感じさせない、ド黒い陰謀の重油に塗れていた。 「へへ、位置よし、角度よし……。特注の超高解像度ピンホールカメラ、オメガ更衣室の防壁の隙間に完全ロック完了だ」 「おい、早く司令室の巨大メインモニターにハッキング同期しろ! 後でオメガどもの着替えを覗き尽くして、俺たちの魂の飢えを満たすんだよ!」  ニヤニヤと卑しい脂汗を流しながらキーボードをパチカタと叩いているのは、ファタモルガナの落ちこぼれ不良候補生たちの肉のエキストラどもである。  彼らが、作戦司令室の200インチを超える巨大中央モニターに「自動起動タイマー」を仕掛け、邪悪なハイタッチをバチィィィンとキメた、まさにその瞬間だった。  ドガァァァンッ!!! 「──あ?」 「ヒッ……!?」  防音仕様の重厚な自動ドアが、物理的な暴力によって強引に叩き開けられた。  部屋になだれ込んできたのは、つい数分前まで凄惨極まる実戦ハザードを潜り抜けてきたばかりの、ドールとダルジャン組のトップアルファたち──メイン竜(ドラコ)の面々だった。その衣服には返り血と硝煙の匂いがじっとりと染み付き、全員が「実戦評価最優秀」の威圧感を周囲の空間へとミリ単位で放射している。 「……目障りだなぁ。失せてくれる? 君たち」  プラチナブロンドの髪を冷酷に揺らし、額の第三の目を歪ませたテオドアが、爽やかな笑顔を完全に全廃した氷点を下回る声で言い放つ。その背後では、他のアルファたちが無言のまま、機密資料の束を探して棚を荒々しくひっくり返し始めていた。 「ひ、ヒィィィッ! ドラコ達だ! 殺される、逃げろぉッ!」  不良候補生たちは蜘蛛の子を散らすように、お互いの足を引っ掛け合いながら無様に悲鳴を上げて、指令室から逃走していった。 「へっ、騒々しい雑魚がよぉ」  テロアが心底呆れたように鼻で笑い、目的のログデータを見つけて「おっ、あったあった! 引き揚げるぜ~」と踵を返した、まさにその刹那だった。  ピピッ、と無機質なシステム音が響き、不良たちの仕掛けたタイマーが非情にも作動した。  200インチの巨大メインモニターが眩い光を放ち、そこに映し出されたのは──。 「……ッ」  全竜が同時に息を呑む音が、静かな司令室に不条理に響いた。 空間が、一瞬でガチガチにフリーズする。  画面に大写しになっていたのは、オメガ更衣室の直忠だった。  まだ初々しさの残る青年、182センチの褐色大胸筋マッスル達磨。彼は今、パツパツの学生服に着替えようと、上半身の衣服を全て剥ぎ取っていた。あらわになった見事なシックスパック。  軋むような肉体の説得力。  そしてその胸元を異様な存在感で締め付けているのは、数億円の国家予算を投じてあつらえられた防弾・防念繊維の【特注メンズブラ】。さらに視線を下げれば、ムチムチと張り裂けんばかりの逞しい太ももの肉に、あの黒いガーターベルトストッキングのゴムがパッツンパッツンに食い込んでいる。 「おい、直忠ァ! 相変わらず何なんだよそのブラとパンティとガーターはよォ! キモいだろ!!」  画面の中で、コミンジ5の慶太が顔を般若のように真っ赤にしてキレ散らかしている。しかし、当の真宵直忠は、魔力ゼロの能天気でお人好しなオカンオーラを全身から発しながら、「しょうがねえだろ、これがねえと世界システムの衝撃で俺の胸が爆発すんだよ」とヘラヘラ笑っていた。  そこに、天然の斗真がふらふらと近づいていく。 「え~? でも直忠、発育が良いもんね~」 「おい斗真、何する……んおっ!?」  ドクン、とモニターを見つめるトップアルファたちの心臓が、バグった規則性で一斉に跳ね上がった。  斗真が、その無邪気な両手を直忠のアンダーバストへと滑り込ませ、ぷるんぷるんのメガサイズ褐色大胸筋を、下からグッと力強く持ち上げたのだ! 「おっ! すげえ、斗真! 持ち上げてもらうと、サポーターの圧が逃げて肩凝りがめちゃくちゃ楽だな~!」  直忠はメンズブラのストラップを指でパチンと弾きながら、これ以上ないほど幸せそうに相好を崩している。  その瞬間、作戦司令室の空気は、絶対零度を超えて「狂乱の臨界点」へと達した。  普段は血で血を洗う仲であり、お互いの首を貪り食うことしか考えていない傲慢なトップアルファたち。彼らの目が、一斉に血走った。尊厳もプライドも、国家最高戦力としてのコードも、直忠のムチムチ波動の前に10000000%完全ハッキング破壊されたのだ。 「……おい。誰の許可を得てその肉に触れている」 「あの手首から先を今すぐ分子レベルでデリートしろ。システム、右斜め45度からのアングルへ即座にオーバーライトだ、早くしろ……っ!」 「直忠のメンズブラのホックの歪みを見ろ……狂いそうだ……もっと近くで映せ……ッ!」  普段の冷酷さはどこへ行ったのか、全員がモニターに狂ったように顔を近づけ、ディスプレイのガラスが指圧でミシミシと悲鳴を上げるほどの恐ろしい団結力(奇跡のシンクロ)で画面を凝視している。  だが、画面の中の直忠が、ふと眉をひそめてカメラのレンズに気づいた。 「あれ? 何だこの機械? おい慶太、これ覗きカメラだぞ! どういうことだ!?」 「あガぁッ!? 誰だ仕掛けたクソバカはぁあッ!!」  オメガたちが更衣室で大騒ぎし始め、直忠の鋭い眼光が画面越しにカメラのレンズ──すなわち、モニターの前のアルファたちを真っ直ぐに射抜いた。 「……ッ」  全員の思考が完全フリーズする音が室内に響いた。  次の瞬間、誰が合図を出すでもなかった。  最強のドラゴンたちは、顔面を蒼白にしながら、国家最高戦力としての品格をすべてドブに投げ捨てた。  そして、実戦評価最優秀のスキルを1000%無駄遣いした凄まじい超高速ステップを刻み、マッハの速度で、無言のまま司令室から全力で「逃げ出した」のである。ドカバキ、とお互いの肩がぶつかり合い、扉の枠が衝撃で歪む。  後に残された無人の司令室。巨大モニターには、カメラを至近距離で覗き込み、「誰もいねえな~? 故障か?」と、レンズいっぱいにアホ面を晒している直忠のドアップだけが、虚しく映り続けていた──。 ◆ ところ変わって、ファタモルガナの空き教室。 そこは、別の意味での広域認識災害のハザード場と化していた。 「おい、よく焼きなさい。肉の脂を七輪の炭に限界まで叩き込むんです」 空き教室の中心で、ノチェルオが不敵な笑みを浮かべながら、モウモウと立ち込める凄惨な煙の中で肉を焼いていた。その排気ガスと重油の匂いが混ざり合った特異な煙と共に、「この室内の正確な人数を数え間違えると、脳髄がロールバックしてバグる」という、ゆるっとした広域認識災害プロトコルが発動する。 「うわあああッ! 頭がバグる! 俺は誰だ、ここはどこだ!?」 「ロバだ! 俺はロバになるんだ! いや、犬か!? 猫か!? 鶏か!?」  煙を吸い込んだコミンジ5のクソバカども──慶太、武臣、斗真、炉舞が、小学生の算数パニックのごとく錯乱し、お互いの肩に這いつくばって肩車をしようと暴れ始めた。  そこに、廊下からお盆を持った能天気なお母ちゃん──真宵直忠が、ガラリとドアを開けて入ってきた。 「おっ、何だみんなして。ブレーメンの音楽隊か? 楽しそうじゃねえか。よし、俺が一番タフだからな、ロバをやってやるよ!」  直忠はメンズブラのゴムの位置をグッと直すと、優しいお兄さんオーラ全開の笑顔で、床に力強くしゃがみ込んだ。 「おお、最強のロバが来たぞ! 乗れ乗れぇッ!」  ズドォォォンッ!!!  直忠の強靭な雄っぱいと、数億円の国家予算サポーター専用ブラが、ハイドロプレスの如き異常なフィジカルを発揮して踏ん張る。その上に炉舞、慶太、武臣、斗真、ノチェルオが次々と積み重なり、ムチムチのオメガ5人をまとめて縦一列に肩車するという、物理法則をハッキングした超重量人間タワーが完成してしまった。  一番上のノチェルオは、煙を噴き出す七輪を天高く掲げながら、「コケコッコー!」と虚ろな目で叫んでいる。 「……って、ちょっと待てぇいっ!!!」 タワーの最下層に挟まれていた、常識の防壁たる炉舞が、血涙を流しながら叫んだ。 「直忠ッ! お前、魔力なしのただの人間だろ! なんでオメガ5人と七輪を一人で支えてんだよ! 降ろせ、死ぬぞ、システムがバグる!!」  炉舞が正気を取り戻してジタバタと暴れた瞬間、完璧に研ぎ澄まされていたはずの人間タワーの重心が、ミリ単位で致命的に崩壊した。 「あ、ヤベ」  土台の直忠がテキトーな声を漏らした、次の刹那だった。 ドガシャァァァァンッッッ!!!!!  空き教室の床に、ムチムチの肉塊波動が雪崩のように激突した。 「ぐわ──!!」という、全員分の凄惨な大合唱が響き渡る。  床の上には、衝撃で特注メンズブラをちょっとズラした直忠や、ガーターベルトの黒いゴムをパッツンパッツンに晒したコミンジたちが、アホ面で折り重なって白目を剥いていた。  崩壊したタワーから火花散る速度で飛び散った七輪の熱い炭が、不条理極まる世界の規則性に従い、たったの1コマで跡形もなく消滅した。  壊滅した部屋の中、煙に巻かれながら、直忠は白目を剥いたまま「……さあ、夕飯の仕込み、するか……」と、脳内ロールバックを起こした寝言を虚しく呟くのだった。

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