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第2話
「アルベルト!」
叫びながら扉を一つ一つ開いていく。
居ない。次の扉にも。どこにも。
「痛みで動けない……? いや、どこだよ……。アルベルト、返事してよ!」
最悪の想像が頭をよぎり、声を張り上げた。
最後に勢いよく開いた扉の先に、床に蹲る男を見つけた。
窓から注ぐ月明かりに照らされて、項垂れている。
「アルベルト……、ねえ、大丈夫?」
助け起こそうとして、視線が交わった瞬間、引き寄せられた。
性急に唇が重ねられる。
(柔らかい……)
こんなときなのに、そう思ってしまったのはしかたない。
ナオトにはファーストキスだ。
「な、なにして……っ、んぅ」
顔を真っ赤にして唇を押さえた。
アルベルトには、もう言葉など届いていない。むさぼるように唇が何度も重ねられ、舌まで入ってくる。
逃げる舌を絡めとられ、吸い上げられ、背筋が震える。
「まっ……待って……。ちょ、待ってってば!」
ビクッと肩が跳ね、動きが止まった。
彼は僅かに正気を取り戻し、跪いてしまう。
息はまだ荒い。それでも、命令を受け取ったのだ。
途端に後悔が身を包む。
「違う。そんなことしたかったんじゃなくて……」
「ご命令を……」
低く押し殺した声の後で、唇が噛み締められた。
下肢はすでに張り詰めている。
首筋には汗が滲み、呼吸も荒い。それでも、口から出たのは命令を待つ言葉だった。
自分を貶めた相手を求めねばならないなんて、どんな気持ちなんだろう。
気づけば足が一歩出ていた。
本当は、「必ず解除するから今日だけは耐えてくれ」と言うつもりで来た。
なのに、その姿を前にして、言葉が出なかった。
(くそ、リュシアン……! 俺は童貞なんだぞ……。それに、可愛い女の子が好きで……)
視線をさまよわせても、結局アルベルトへ戻ってしまう。
抱かない限り、痛み続ける……。死んだほうがましな痛み……。
(俺には、関係ない……)
ナオトは唇をかみしめた。
(……でも、コイツを放っておくなんて、できない……)
声はひどく掠れた。
「俺を……抱いていいよ……」
目の前の青い目がギラッとひかり、後に押し倒された。
冷たい床が背中に当たる。
シャツがはだけられ、噛みつくようなキスが降ってきた。
肌のあちこちに薄い痕をつけられるたび、小さな電流が背筋を駆け抜ける。
「んんっ……っ」
アルベルトは、リュシアンの反応する場所を嫌になるほど知り尽くしていた。
触れられるたび、熱だけが勝手に高まっていく。
しかも、荒々しいキスをするくせに、触れ方は丁寧だ。
リュシアンがそう教えたのだろう。
悲しくも20数年間、童貞だったナオトのものは簡単に立ち上がっていた。
そして、あっという間に白濁を吐き出した。
(げっ、……恥ずかし……)
まだ震えの残るところを無言で見下ろされ、いたたまれなくなって、つい言い訳した。
「仕方ないだろ、俺は……触れられたことなんてないし……」
訝しげな視線を向けられつつも、ナオトはうつ伏せにされた。
「なにして……わっ」
四つん這いにされた尻を割り開かれ、生暖かい空気が触れた。
ギクリと振り返る間に、湿った感触をあり得ない場所に感じた。
「うあっ……なにして……。っ、まさか、そんなの……」
手足を引き寄せ抗議するが、うまく踏ん張れない。舌をねじ込まれ、出入りする感触さえ伝わってきて膝はガタガタと震えた。
「うぁ……、ぁ……」
よろける尻をガッシリとした腕に掴まれ、倒れることもできない。
濡れた音が耳に届く。
呪いの痛みを和らげたかっただけなのに、一体なにをしているのか。
「だっ……や……」
必死で制止の言葉を飲み込んだ。
止めれば、アルベルトをまた苦しませる。震えながらそれに気づく。
もう枕に埋まって、堪えるしかなかった。
これ以上、記憶の中のように無言で苦しむ彼の姿を見たくなかった。
そして、どれほどたっただろう。
やっと離れてくれたと安堵の息を吐く。
いや、これで終わりなわけがない。
アルベルトが荒い息でズボンを脱ぎ捨てる。
引き締まった肉体の中心に滾ったものがある。
天に向かってそそり立つそれは、すでに先走りを流し、ひどく凶暴に見えた。
「そんなの……はいるかよ……」
太さに愕然としている間に、アルベルトが腰を掴み、後孔にはもうそれが擦り付けられている。
受け入れる覚悟は、決めたつもりだった。
リュシアンは喜んで受け入れていたから、痛くもないはずだ。
けれど今この身体を動かしているのはナオトで、こんな行為を経験するのは生まれて初めてのことだ。
躊躇しないわけがなかった。
「ぁ……」
喉が強張り、かすかな声しか出なかった。
なのに皮肉なのは、リュシアンの後孔は嬉しそうにひくついていることだ。
涙がにじんだ。
目の前にいるのは、地位も容姿も、非の打ちどころのない男。この世にそうそういない相手だ。相手として不足などないはずなのに、ひどく惨めな気分になった。
それでも、ここで終わるわけにはいかない。
アルベルトにかけられた呪いは、まだ解けていないのだから。
「……せめて、……優しくしてよ」
枕をぎゅっと抱きしめた。
自分がやったことじゃない。
それでも、この身体がアルベルトを傷つけてきた。これは、せめてもの償いだった。
だが、いつまでたっても来ない。
恐る恐る目を開くと、アルベルトがじっとこちらを見ていた。探るような沈黙のあと、低い声が落ちる。
「だれだ、お前……。リュシアンじゃないな」
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