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第3話

【アルベルト視点】 そもそもの始まりは、数ヶ月前のことだった。 まだ幼い公女が王妃の前で顔を上げるのがわずかに早かった。 王妃はそれを不敬として鞭打ちを命じた。 見知った公女をほうっておけず、アルベルトは代わりを申し出た。 嘲笑と、値踏みする視線を向ける女たちの前で背を晒し、鞭打たれる。その様子を、恍惚とした笑みを浮かべて眺めていたのが第四皇子のリュシアンだった。 その一件以来、リュシアンに目をつけられるようになった。 ことあるごとに、言いがかりをつけられた。 最悪なのは、幼い公女がいる場面を狙って難癖を吹っかけてくることだ。罰にはいつも、鞭打ちが命じられた。 とばっちりで公女にそんな罰を受けさせるわけにはいかない。 代わりに打たれるたび、公女は「私のせいで」と声を震わせた。 痛みなどどうでもよかった。だが、少女の心が傷つけられることに怒りがわいた。 だから、「これ以上、公女に関わらない」という条件と引き換えに、この身に隷属の首輪をつけることを受け入れた。 貴族にとっては、恥辱以外の何ものでもない。 リュシアンは根っからのサディストだった。 人が羞恥を感じる場所も、屈辱を覚える言葉も、すべて見透かしているようだった。 毎夜のように命令を繰り返されるうち、考えるより先に身体が動くようになった。跪けと言われれば膝をつき、待てと言われれば動きを止める。 心まで屈したつもりはない。それでも、身体に染みついた服従だけは、どうすることもできなかった。 そして、ある日、突然、彼が変わった。 「怪我を手当する」と言いだしたばかりか、アルベルトの愛撫を拒絶した。 そして今、目の前では肉棒を見ただけで震えている。 欲しがられることはあっても、怯えられたことなど一度もなかった。 +++++++++++++++++++++++++++++++++++++++ 「……だれだ……お前……?」 リュシアンの新しい戯れだろうか。 そう疑ったものの、演技にしては、あまりにも生々しい。 リュシアンの顔は兄弟の中でも整っていると言われていたが、残虐性の滲み出たその顔にアルベルトは良い感情を持たなかった。 なのに、いまは涙を滲ませたその顔に胸が痛んでいた。 リュシアンの顔をした彼は、とつとつと身の上を話しだした。 数日前にリュシアンに憑依し、元は違う世界に住んでいた、と。 到底、信じられる話ではない。 それでも、変わりすぎた様子を見れば、入れ替わったという話のほうがしっくりきた。 ふと疑問がよぎる。 「3日前からと言ったか? なら何でここに戻ってきた?」 逃げれば良かったはずだ。今だって、泣きそうなのに、なぜここにいるのか。 「だって、アンタ、俺を抱かないと痛いんだろ」 「……だからって、その身をさしだす気だったのか? ……よく知りもしない俺のために?」 「ぅ、そんなかっこいいものじゃない。他の方法が思いつかなかった……」 言葉を失った。やっと出てきた言葉は 「……バカなのか」 「ひでー。そんなこと、真面目に言われたの初めてだ」 身の上を打ち明けて気が抜けたのか、長いまつげの奥で涙が盛り上がった。それでも、涙を落とすまいと必死で耐えている。 なぜか、抱きしめてやりたくなり、膝の上で拳を握りしめる。 (早まるな。リュシアンだぞ) 乱暴に目元を拭う姿は、妙に幼く見えた。 軽率なやつだ。だが、アルベルトのために身を投げ出した。 リュシアンに目をつけられてからは、離れて行く奴か、遠巻きにする奴が多かった。 なんとかしようと動いてくれた者もいたが、リュシアンの矛先が向かないようにとアルベルト自身が距離を置いた。 だからこそ、久々に純粋な好意を受けて、不覚にも胸に温かいものがこみあげた。 素直に感謝を述べようとした、そのときだった。 呪いが再び牙を剥いた。 「ぐっ……」 皮膚を炙られているような痛みが全身を襲う。 「な、なに……? 痛むの?」 心配そうにリュシアンの顔をした男が触れてくると、血が騒いだ。 引き倒せ。貪れ。呪われた身体が、そう叫んでいる。 こうなる前に、外へ出すべきだった。 「……出ていけ。すぐに……。でないと、今度こそ抱くぞ」 「……抱いたらいいだろ。痛むんだろ?」 何を言っているんだ、こいつは。 「っ……、怯えてただろ。そんなやつ、抱けるか」 「仕方ないだろ。……俺は初めてなんだ。なのにアンタ、容赦なくて」 耳まで真っ赤になっている。 「やめろ。煽るな……」 意に反して身体がうずく。すでに臨戦状態だ。 言葉を失ったまま、そこに目を落とした。 「……煽ったのはアンタじゃないか……」 呟いた声は揺れていた。それでも、彼の下腹の反応は隠しようがない。 それもそうだ。 いつもなら、リュシアンが「さあ、入れろ」と嬉々とした表情を浮かべるところまで高めたのだから。 どちらともなく、喉が鳴った。 「後悔しても知らないぞ」 ナオトへ覆いかぶさる。 「後悔なんてしない」 そう言ったくせに、視線は逃げた。 「でも、……できれば、ゆっくりして」 声がうわずっている。こんなことで狼狽える男が、リュシアンであるはずがない。 「……わかった。ゆっくりする」 怖がればすぐに止めてやろう、と向かい合わせを選んだが失敗だった。 向かい合わせでは、こいつにもすべて見えてしまっていた。口元を覆ったまま、目を逸らせずにいる。 その姿に興奮している自分も大概だった。 ゆっくりと腰を進めた。 +++++++++++++++++++++++++++++++++++++++ 【ナオト視点】 「力を抜いておけよ」 アルベルトがゆっくりと入ってきた。 喉の奥から、息に混じった声がこぼれた。 肉を開かれていく感覚。 指なんかの比じゃなくて、重たくて硬い質量に背がずり上がる。 それを腰を掴まれて、さらに深く埋められていく。 知らず、肩に力が入った。なのに、身体だけは正反対の反応を返している。 「そうだ。その調子だ」 低い声が、宥めるように耳に届く。 (まずい、勘違いするなよ) こちらは恋愛だってしたことない素人だ。 こんなふうに気遣われるだけで、うかつにも心が揺れる。 それだけじゃない。身体のほうまで、困るくらい素直だった。 身体はリュシアンのものだから当然だ。 (なんだ……。これ……) わずかに動かれるたび、微妙な刺激が背筋を駆け上る。 頼んだとおり、ゆっくり動いてくれている。 でも、さっきから頭の中にリュシアンのものらしき声が響いていた。 『もっと奥だ。捻じるようにするんだよ』 『ほら、犬みたいに腰を振れ。それじゃあ、全然足りない』 (アイツ、なんてことをさせたんだよ) そう思うのに、身体は、あろうことかそれを欲していた。 さっきから、心と身体が別々なのだ。 気持ちが悪い。 「おい、どうした?」 心配そうに覗き込んでくる。 「痛いのか? もっとゆっくり……」 「違う」 アルベルトの腕を掴む。 「身体が変なんだ。……初めてなのに、もっと卑猥なことを求めてる」 口にすると情けなくなった。 コイツは痛みさえ、受け止めようとしてくれたのに、こっちは快感に流されている。 「ついでに、リュシアンがアンタにやったことが頭に出てきて、やってられない。……ごめん。俺の身体がごめん」 そうだと、罵られるかと思ったが、違った。 俯いた頭を撫でられた。 不思議なくらい優しい手つきに安心する。 ふいに、頬を何かが伝った。 「……え?」 泣くつもりなんてなかった。悲しいわけでもない。 慌てて拭っても、また一滴、こぼれ落ちる。 (なんで……?) 大きな手は、何も言わずに髪を撫で続けていた。 もしかすると、この身体が泣いているのだろうか。 そんなはずはないと思うのに、ほかに理由が見つからなかった。 ひとしきり泣いて、きまり悪く顔を上げると、アルベルトは何も責めず、ただ静かに待っていた。 「……つまり、もっと強いほうがいいのか」 確認され、火照る顔を両手で覆って頷いた。 自分が、そんな要求をする日が来るなんて思ってもいなかった。 「分かった。任せろ」 言うなり膝を抱え込まれて、さっきより深く強く穿たれる。 息がひゅっと喉につかえた。 抜けそうなところまで引き抜かれ、カリで入口を擦り、次の瞬間には深くまで一息に埋められる。 「ひぁっ……あぅっ……」 (気持ちいい……けど……っ) 動かれるたびに強すぎる快感に目をぎゅっと閉じた。 (止まってくれない……っ) 息をつくこともできないほどの刺激が次々と与えられていく。 「うぁっ……ぁっ……」 身体は喜んでいる。なのに、今度は胸の奥が冷えていく。 アルベルトはただ、リュシアンに教え込まれたとおりに動いているだけなのだ。 なんとか耐えようとシーツを握りしめていた手に、そっと手が重ねられた。 ナオトよりも大きな手は、ごつごつして硬かった。 「どうした?」 責めるでも急かすでもない声に、つい本音がこぼれた。 「これは、嫌だ。リュシアンに抱かれたいわけじゃない。アンタだから抱かれてもいいと思ったんだ。アンタの好きにしてよ」 青い眼が一瞬、見開かれた。ナオトをまっすぐに映し出す。 「お前というヤツは……」 「なっ……なんで……大っきく……?」 中が広がってる。 「お前の名前は?」 「ナオト」と伝えれば、聞き慣れない言葉なのか、何度か口内で繰り返される。 「……ナオト」 低く、もう一度その名を口にした。 「なら、俺の好きにするぞ」 大きな手に膝を掴まれ、腿の上に座らされた。 自身の重みで深くまで突き刺さる。 「ぅっ……」 「大丈夫だ。まだ動かん」 耳元でささやかれ、高い鼻が首筋を通り、背筋がぞくっと粟立った。 「初めてだったといったか? キスも……?」 「……そうだよ」 「そうか。悪いことをしたな」 (そんな、可哀想みたいな顔はやめてほしい) 口を尖らせていると苦笑され、ふにゅっと、唇が重なった。 さっきとは違う。 押しつけるのではなく、確かめるように何度も触れてくる。 「口を開け」 「え?」 戸惑う声ごと、また唇が塞がれた。 促されるままわずかに開くと、舌先が触れた。 思わず逃げかけたそれを追われ、今度はゆっくりと絡め取られた。 「ん……」 声が漏れると、アルベルトの動きが一度止まった。 青い瞳が、すぐ近くからこちらを窺っている。 けれど、嫌がっていないと分かったのか、また唇が重なった。 角度を変えながら、何度も。 だんだん頭の芯がぼんやりしてくる。 (キスって、こんなに気持ちいいのか……?) さっきとは全然違う。 (これが、コイツのキス……?) そう思ったとき、胸の先に指が触れた。 「っ……」 ぼんやりしていた意識が、一気に戻る。 そっと撫でられたかと思えば、今度はきゅっと摘まれた。 「んっ……。お、おれ、男なんだけど……」 「ああ、知ってるさ」 その手が猛ったイチモツを握った。 「ひうっ……」 すでに勃っていたそこは触れられただけで、白濁がもれ出る。 「こっちのほうが好きか?」 親指で溢れた蜜をぬぐい先端から竿全体にゆっくりと塗られていく。 跳ね上がった顔の前に、微笑んだ顔があり、下唇を軽く嚙まれた。 (なんか、甘い……) さっきまでの気持ちの悪さが嘘かと思えるほどで、溶けてしまいそうなほどの視線と唇だ。 (この抱き方……、まるで恋人にするみたいな……) とたんに、耳から首筋まで熱が駆け下りた。 「そんなに赤くなって、何考えてる?」 答えられるわけがない。 胸を吸われ、さらに刺激を重ねられ、堪えきれず全身が震えた。 「かわいいな」 その一言に胸が疼いた。 アルベルトの手が止まった。

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