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3 医者の見立て
3 医者の見立て
熱は四日下がらなかった。
医者は三度往診し、三度とも同じことを言った。「保証はできません」。肋骨のこと、栄養のこと、化膿した傷のこと、そして。
「——十六で間違いないでしょう」
ユリアンは書類から顔を上げた。
「この者の年齢です。歯を見ました。骨の具合も」
「そうか」
医者は鞄を閉じた。ユリアンの見立ては正しかったようだ。
「しかし、この年齢に対して、栄養がまったく足りていない。脂肪が少しも付いちゃない。だからどんどん弱った挙句、ゴミのように捨てられたのでしょうな。全く、捨てたやつは見る目がない。この身体は、きちんと食わせてやれば見間違えますよ。骨が伸びる準備をしたまま、材料が来るのを待っている」
「……待っている」
ペラペラと喋る医者の言葉をぽつりと復唱した。
「そうです。見立て通りであれば、これからぐんと背が伸びます。おそらく、相当に」
医者はそう言って、少し笑った。
「この肩幅を見れば分かる。設計は立派なんです。建てる石さえ運んでやれば、あっという間に大きくなることでしょう」
医者が帰ったあと、ユリアンは長いこと寝台の脇に座っていた。
自分が十六だった年の頃を、ふと思い出す。ユリアンは父の葬儀の喪主を務め、叔父たちに囲まれて遺言書の読み上げを聞き、その夜、はじめて自分の部屋の扉に鍵を掛けて眠った。
同じ年に、この男は、檻の中で人を殺していた。こんなに、痩せて傷だらけの姿になって。
不意に、ひどく不公平なものを見た気がして、ユリアンは眉を寄せた。不公平という概念を思い出したのが、いつぶりかも思い出せなかった。
◆
——目を開けたとき、最初に思ったのは、まだ死んでいないのか、ということだった。
次に思ったのは、ここは死んだ後の場所かもしれない、ということだ。
天井が高い。白い。檻の天井は石で、いつも湿っていて、飛び散った血飛沫が黒く染みていた。ここにはそれがない。身体の下にあるものは、柔らかすぎて落ち着かなかった。硬いところを探して背中をずらそうとして、痛みに息が止まった。身体が熱くて、ぼうっとする。熱があるのだとわかる。
横で、椅子が鳴った。
そこに、あの人がいた。
——ああ、と思った。夢ではなかった。
雨の中で見た白い影。泥の中に膝をつきかけたあの人。生まれてから一度も、あんなものを見たことがなかった。檻の中に落ちてくる光は、いつも誰かの背中で遮られていた。
その人が、疲れた顔をしていた。目の下に影がある。服が皺になっている。
俺のせいだ、と思った。思った瞬間、胸のあたりが、殴られたときよりずっと強く痛んだ。
「起きたか」
声は冷たかった。冷たいのに、逃げたいとは思わなかった。檻番の声は冷たくて、聞くと腹の底が縮んだ。この声は違う。この声は、聞いていると、なぜか泣きたくなる。
「……てんし、さま……」
「違う」
即答だった。
「私は天使などではない」
でも、と彼は思った。声には出さなかった。いや、出せなかった。全身が熱く、ぼうっとして、喋ることすら覚束なかったから。
でも——あの雨の日に見たあなたは、確かに、俺にとって天使だった。
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