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5 成長③

 シリウスの稽古を付け始めて半年が経った頃、ザイフェルトがはじめて稽古を途中で止めた。  剣を使った摸擬戦の最中だった。ザイフェルトが崩し技を掛け、シリウスが床に倒れた——その瞬間、シリウスの剣が、彼の喉に伸びた。切っ先が皮膚に触れる寸前で、動きが止まった。  稽古場が、静まり返った。  シリウスは自分の手を見ていた。震えていた。それから、床に額をつけて動かなくなった。 「……申し訳、ありません」 「よい」  ザイフェルトは首を撫でた。 「よい。読めておった」 「よくありません。私は――殺しかけました」 「倒されたら、喉を取る。そう教えられたのだろう。教えられたというより、そうしなかった者から死んでいったのだろう」  シリウスは答えなかった。  ユリアンは、その場には居なかった。だから、それを知ったのは、その日の夜のことだ。書斎で報告を聞き、椅子から立ち上がった。そして、階下の厨房でひとり座っている男のところへ降りていった。  シリウスは、竈の前に膝を抱えて座っていた。この半年であっという間に大きくなった身体が、火の傍で小さく丸まっていた。 「立て」  言われるまま、シリウスは立った。 「手を出せ」  出させた手を、ユリアンは取った。厨房に置かれたナイフを持たせて、その手を両手で包み、そのまま、ユリアンの喉に当てさせた。  シリウスが、息を止めた。 「閣下」 「動くな」  ナイフの切っ先の下で、ユリアンの喉が動いた。飲み下す動き。生きているものの動き。 「お前は今、私を殺せる。三秒あれば足りるだろう」 「……そんなことは」 「殺せる、と言っている。事実だ」  ユリアンは手を離さなかった。 「そして、殺していない。今も。この半年の間、一度も。そうだろう?」  シリウスの喉が鳴った。 「お前が恐れているのは、檻の中の自分だ。だがな、シリウス。檻の中の犬は、手を止められない。止められた時点で、お前はもう、誰彼見境無しに殺せる犬ではない」  火が、ぱちりと爆ぜた。 「明日も稽古に出ろ。逃げるな」 「……はい」  ユリアンが階段を上がっていったあと、シリウスは自分の手のひらをしばらく見ていた。  ナイフを握る手を両手で包まれた感触が、彼の熱が、まだ残っていた。  この世で一番硬いもののような顔をしているあの人が、いちばん柔らかいところを、自ら差し出した。  その意味がわかるようになるまで、シリウスはまだ時間を要した。

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