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9 ヴァレンハイトの血①
9 ヴァレンハイトの血
エーリヒが屋敷に来たのは、初夏のことだった。
「久しいね、ユリアン。相変わらず美しい」
「用件を」
「つれないな。——西部の製鉄権のことだが」
本題まで四分。今日は早いほうだ。
エーリヒはユリアンより八つ年上の|従兄《じゅうけい》で、笑うと目尻が優しく下がる。十九年前、ユリアンがまだ八つのとき、この男は彼を肩車して庭を歩いた。そのあと十九年かけて、ユリアンの持ち物をひとつずつ、ごく合法的に削ろうとし続けてきた。
ヴァレンハイトの血には、代々よく似た病が流れている。奪うことしか考えられない病だ。ユリアンの父は、彼の兄を追い落として当主になった。|後妻《ごさい》だったユリアンの母は、その父を憎みながら死んだ。三つ年上の腹違いの兄は、十七でユリアンに毒を盛ろうとして失敗し、家から消えた。そして父は、ユリアンが十六の頃、毒殺された。
犯人は、家の従僕——と、されている。だが、その従僕も一緒に死んだので、|詳《つまび》らかには分からない。しかし、口封じに殺されただけの身代わりだろう、ということは分かる。
十八歳のとき、ユリアンには心を許した相手がいた。
身分も釣り合い、目の澄んだ男だった。一緒にいると息ができた。三年の時を、一緒に過ごした。しかし、その三年分の寝物語はすべて手紙となって、エーリヒの父である叔父の机の|抽斗《ひきだし》にあった。
字の丁寧さが、印象的だった。
——それ以来、ユリアンは誰の言葉も、言葉として聞くことをやめた。
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