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白熱する選挙戦に、この想いを込めて――⑯
「……それなりにって、じゃあまだ余裕があるということ?」
どこか嬉しそうな顔して、頬に添えていた俺の右手を取り、甲にキスしてから、再び顔を寄せたと同時に、額へ唇を押し当てる。
柔らかい克巳さんの唇を、目を閉じて感じていたら、まぶたにもキス。そして左頬と右頬にもわざわざチュッとするものだから、何だか可笑しくなってしまった。
まるで、キスのバーゲンセールみたい。克巳さんがしてくれるキスは、俺にとって貴重なものなのに、こんな風にされてしまったら、価値がなくなっちゃいそうだ。
そんなことを考えている間に、上唇をぱくっと食み、優しく吸い上げてきた。
「ぁあっ、もっ、それ以上はダメ」
「もっと、キャパを増やせない? 疲れた稜を癒してあげたいんだ」
「最初ので、充分すぎるくらい癒されたというのに。これ以上刺激を増やされたら、寝た子が起きちゃうけど」
「俺のは、稜に触れた瞬間から起きているよ」
(楽し気な顔して、そんなことを言われても困るっちゅーの)
「稜、そんな怖い顔して睨まないでくれ。分かってる、我慢しなきゃならないのは頭では分かっているけど、躰が反応してしまって」
「我慢しようねって約束したでしょ……って、うわっ!?」
俺が喋っているというのに躰を反転させて、勢いまかせにソファへと押し倒されてしまった。
普段、こんな風に手荒なことをしない人だからこそ、驚いてしまって声が出せずにいた。しかも押し倒したくせに跨るわけでもなく、その場に突っ立ったまま背中を向ける。
「どうしたの克巳さん。らしくないよ?」
さっきまでは余裕ありまくりの笑顔を見せていたというのに、背中を向けてる今は、どこか辛そうだ。俺に手を出せないことに対しての辛さ……とは違う、何かがあるような気がした。
話しかけた俺を横目で見る克巳さんの眼差しから、何とも言えないやるせなさを感じたから。
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