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白熱する選挙戦に、この想いを込めて――⑰
押し倒されたソファから上半身を起こし、傍にあるテーブルを見やる。
今日使った書類が、バラバラな状態で置かれているんだけど――付箋と一緒に、マーカーや赤い文字でたくさんの書き込みがされていた。
はじめから、克巳さんが作った書類をちょっとだけ書き換えたことは口頭で聞いていたけど、もしかしてこの量をやっつけたというのか!?
俺が割り振った仕事をしながら、こんなことをこなせるなんて、相当できるヤツなんだな。だからか――
「克巳さん……」
自分とはじめを比べて、きっと落ち込んでいるんだ。それで様子がおかしかったんだな。
起こした上半身を戻して、しっかりとソファに横たわり、両手を差し出してみる。
「ねぇ克巳さん。こんな風に押し倒して放っておかれるのは、結構つらいんだけど。抱きしめてはくれないの?」
疲れた自分なんか、どうでもいい。克巳さんを元気にしなきゃ。それに離れていた分、傍にいたいよ。
ソファの上で両腕を伸ばした俺の姿を、首を動かしてしっかり見たのに、素早くそっぽを向いてしまった。
(はじめごときに、何をそんなにムキになって……)
「克巳さ――」
「君から、二階堂の香水の香りがするんだ。微かにだけど」
「えっ!?」
いきなり突きつけられたことに、唖然とするしかない。
「そ、それは今日アイツと一緒にいることが多かったからだと、思うんだけど、さ……」
克巳さんは党の幹部から、できるだけ俺との距離を置くように言われてるせいで、余程の用事がない限り、事務所でも離れていた。
でも今はそんなの気にしなくたっていいのに、こうやって距離をとって、はじめにいらない嫉妬して――
奥歯を噛みしめ、反動をつけて立ち上がると、克巳さんの腕を掴んだ。自分よりも大柄な彼をソファに押し倒すなんてできないから、とりあえず強引に引っ張って座らせ、抱きついた勢いで押し倒してやる。
「り、稜?」
「……はじめの匂い、克巳さんので消しちゃって。ぎゅっと抱きしめて、克巳さんの香りをつけてほしい」
俺は跨ったままでいた。克巳さんから手を出さない限り、俺からは何もしないつもりだ。
「抱きしめてってそんなことをしたら、約束を反故にしそうだ」
震える右手で俺の頬に触れてくる。頬に触れてから唇をなぞるように触れ、顎から首へと指が移動していった。
「ぁあっ……か、つみさ、んっ」
「ただ触れているだけなのに、そんな顔して煽らないでくれ」
「そんなの、無理だ、よ。俺を感じさせることができるのは、貴方だけ……なんだから」
スラックスの下で猛っている下半身を、克巳さんの下半身にぐいっと押しつけてやる。
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