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白熱する選挙戦に、この想いを込めて――⑲
(願掛けが無駄になるとか口では言ってたけど、やっぱり抱いてくれる気になったんだ)
「ねぇ昨日よりも激しくしてって言ったら、出来たりする?」
俺の言葉に一瞬だけ呆けた顔をし、見る間に呆れた表情に変わった。
「強請る気持ちは分からなくもないが、挿入はなしだ。願掛けがなくなってしまうから」
出たよ、願掛けっていうワード。何だかなぁ……この状況下において、随分と色気のない言葉だこと。
「そんなの、自力で何とかするって言ったじゃん」
「自力で何とかできるような甘いものじゃないことは、さっきまでしていた二階堂との話し合いで、君が一番分かっているだろう? 稜が当選するというなら、悪魔に魂を売ってもいいと思ってる」
「悪魔に魂を売っちゃったら、克巳さんが死んじゃうじゃないか。そんなの駄目だってば」
例え話でも、克巳さんが俺の傍にいないなんていうのを聞きたくはない。
「……今回の選挙活動で俺は役に立つどころか、足を引っ張ってしまいそうな気がしてならないんだ。今日二階堂に修正された文章を読めば読むほど、そう思えてしまって」
「そんなのしょうがないって。この仕事するのが初めてなんだから」
落ち込んでいる克巳さんを何とかしようと、俺なりに言葉を繋げてみたものの、顔色は曇ったままだった。
「初めてだろうが、そんなことは関係ないだろ。なりふり構わずに仕事をして、君を当選させなければならないんだから」
「克巳さん……」
「俺は二階堂のように、てきぱきと仕事を捌けないだけじゃなく、見た目も悪いから、稜の傍にいるのがいたたまれない」
(今まで自分の見た目についてなんて、口にしたことがなかったのに――やっぱり二階堂にぐちぐち言われたのが、相当堪えてるんだな)
「俺の目の前で並んでるふたりは、お似合いにしか見えなくて……」
「お似合いなんて、そんなこと言わないでよ。俺は克巳さんが傍にいなきゃ、駄目なんだからね」
「率直な感想くらい、言ってもいいだろう?」
震えるような声で告げられるから、どんどん堪らなくなっていく。
「克巳さんは、二階堂よりも俺好みなのに……この切れ長の一重瞼で見つめられたら、すっごくドキドキするんだよ」
告げながら、克巳さんの頬を両手に包み込んでみた。切なげに映る眼差しが、俺を射すくめる。
「いつも眠そうな感じに見えるこの目の、どこかいいんだか」
「それだけじゃなく、唇も結構好きなんだよ。キスをするたびに、克巳さんが傍にいることを実感できるんだからね」
「分厚い唇が好きだなんて、稜は物好きなんだな」
「そうだよ。この唇で俺の全身を感じさせることができるのは、アナタだけなんだから」
両腕に力を入れて引き寄せ、大好きな唇を食んであげた。肉厚の柔らかいそれを、自分の唇を使って吸い上げるたびに、またしても抱いてほしい気持ちに拍車がかかっていく。
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