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白熱する選挙戦に、この想いを込めて㊹

「何を言うかと思ったら。仲のいいところを見せつけられる、僕の身にもなってほしいです。口出しの一つや二つくらいしたくなりますよ」  軽快なやり取りをするふたりを、俺は漫然と眺めるしかなかった。  最初よりも差が縮んでいるとはいえ、それがもっと縮まるという保障はどこにもない。このまま、元村が逃げ切る可能性だってある。  そんな不安を抱えるせいで、いつものように会話することができない。 「秘書さん、いい加減にそろそろ、眉間のシワをとっていただけませんか。陵さんを心配する気持ちは分かりますが、最終的な結果が出るまでは、できるだけ笑顔を心がけていただけると助かります」  不安な表情をズバリと指摘されたので、自分なりに笑顔を作ってみたのだが、どうしてもうまくいかず、引きつり笑いになるのが分かった。 「済まない。選挙プランナーの君の意見をきちんと聞かなければいけないことくらい、頭では分かっているのに」 「克巳さん、無理しなくていいよ」 「陵……?」  自分を見つめる陵の眼差しはどこまでも澄んでいて、不安の欠片がまったく見当たらないものだった。 「マイナスの感情を俺の代わりに、克巳さんがわざわざ背負ってくれている気がするんだ。そのお蔭でどんな状況でも、ポジティブに考えられる。ありがとね」 「そんな、こと――」 (こんなときだからこそ、大事な君を支えなければならない言葉のひとつくらい、かけることができたらいいのに) 「さぁて、凄腕の選挙プランナーの得票予測数を見たいんだけど、用意しているんでしょ? はじめならやっているよね?」  二の句が継げられず困惑して固まってる俺を解放するためなのか、二階堂に話しかけながら、ホワイトボードのあるところに向かう。  頼もしいその背中を、ただ見送るしかなかった。 「さすがは陵さんです、当然予想していますよ。僕の考えによる、奇跡の道程をお見せしましょう」  弾んだ声に導かれるように、スタッフも二階堂の傍に集まった。  がらりと雰囲気が変わった事務所のお蔭で、俺の中にある不安もかなり癒されていき、気がつけば微笑む余裕すら生まれた。 「克巳さん、ちょっと来てよ。二階堂の予想が変なんだ。ツッコミどころありまくりだから、注意してやって」  大勢の中に埋もれた陵が、両手を振って呼びかけた。 「分かった。今いく」  柔らかい声色を聞いて、陵が心底嬉しそうに瞳を細める。  二階堂が立てた予想通りの、明るい展開が待ち受けたらいいなと思った瞬間だった。

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