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白熱する選挙戦に、この想いを込めて㊺

***  すぐ傍にいるのにどうしても落ち着かなくて、克巳さんのスーツの袖を掴んでしまった。 「ねぇ克巳さん、どうしよう。胸が苦しいくらいにドキドキする」 「俺が愛の告白をしたときと比べて、どっちがドキドキするだろうか?」  元村との大差ある得票数を目の当たりにして、最初のうちは暗い顔をしていた克巳さん。だけど今は、こんな冗談が言えるくらいに明るくなった。  落ち着かせるためなのか、スーツを掴んでいた右手を手に取り、両手で撫でさすってくれる。白けた顔をしたはじめが、俺たちの様子を見ながら口を開いた。 「僕が考えた予想ほどではないですけど、いい線いってますよね」  改めて3人そろって並んで、ホワイトボードに記入された数字を見やる。 葩御 8100 25800 59600 83000 114500 元村16500 42000 70500 88000 115600  背後にいるスタッフも、歓喜を抑えながら最終結果を待っていた。 「はじめ、さっきの克巳さんの話だけど――」 「さっきの話とは?」 「俺の補佐をしないかってヤツ」  言いながら二階堂の横にいる克巳さんに向かって、誘うようなウインクをした。それを合図に、黙ったまま頷く。 「陵さん、その話はお断りしたはずですが」 「俺はこの選挙に勝って、国会議員になる。目指すところは、自分の考えた政治をするのに手っ取り早い、内閣総理大臣になることなんだ」  克巳さん以外に、自分の夢を語ったことはなかった。そんな俺の夢を聞いたはじめは驚きを隠せなかったのか、目を見開いたまま、ズリ下がっていないメガネを何度も押し上げる。 「二階堂、陵に返事をしてやってはくれないか。俺の誘いは断ったが、本人からの依頼だ。どうする?」  焦れた克巳さんが、返答を促してくれた。 「陵さんが内閣総理大臣……。そんなの――」 「はじめの言いたいことは分かってる。そんなの、無理な話だって言うことだよね」  思慮を巡らせているのか、目を泳がせた言葉数少ない二階堂に、ズバリと突きつけてやった。 「陵さん。参ったな……」  せわしなく触れていたメガネを外し、両目をつぶりながら目頭を押さえる。相変わらず、考え事をしているらしい。何かを深く考えるときに、よくこの仕草をしていた。

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