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白熱する選挙戦に、この想いを込めて――㉑

「……克巳さん、ずっと我慢していたの?」 「いや、全然。この選挙戦で触れ合う機会が減るだから、我慢するついでに、治したらいいんじゃないだろうかと考えついただけ」 「それって俺のストレスが、これでもかと増える要因になりそうだけど?」  慣れない選挙活動を一日頑張った後に、克巳さんに癒してもらうべく、いちゃいちゃしたいというのに、告げられたことは正直、拷問に近いものと思われる。 「何なら一緒に、やってみてもいいよ。根元を、結束バンドで締めあげたり――」 「聞いてるだけでも、すごく痛そうな話だね。結束バンドじゃなく、もっと柔らかい物で縛っちゃダメなの?」 「痛い方がそっちに意識がいくから、我慢しやすいと考えてみた。絶対にイケないだろうってね」  うわぁ……。こんなところで、ドSを発揮しなくてもいいのに。 「他にも、カリ首の部分を――うっ!?」 「ストップ!! 聞いてるだけで股間が縮こまっちゃう」  お喋りを続けようとした克巳さんの唇を、強引に摘まんでやった。 「俺の早漏対策については、追々という形でいいかな。選挙戦で疲れたところに、そんな痛いことをされたんじゃ、きっと身が持たないよ」 ちょっとだけ鼻にかかったような、涙声で告げてみる。勿論これは演技だったりするんだけど、素人の克巳さんにはバレないだろう。  そんな俺の顔を意味深にじっと見つめ、摘まんでいる指を外して、いきなり人差し指を口に含んできた。  柔らかくてあたたかい克巳さんの舌が人差し指を包み込み、時折ちゅぅっと吸い上げる。こんなことをされたんじゃ、寝た子が起きるだろ! 「まったく……。どうして稜はいちいち煽るようなことをして、我慢している俺の気持ちを試すようなことをするんだろうか」  キスから解放した途端に告げられた、白い目をした克巳さんの顔色にビビってしまい、顎を引いてやり過ごすしかない。 「煽ったつもりなんて、全然ないない。ちょーっとばかり感情を込めて、訴えかけただけなんだってば」 「潤んだ瞳に見つめられ、甘い声で身が持たないなんて言われても、その言葉に信憑性があるかどうか、疑わしいことこの上ない」  言うなり俺の身体を横抱きにし、さっさとどこかへ連れて行こうとする。 「ちょっ!? いきなりどこに拉致するのさ?」  慌てて克巳さんの首元に腕を絡ませてやり、耳元で囁いてみた。ついでに形のいい耳朶に、キスを落としてやる。 「粗相をした君を洗ってやるべく、バスルームに連れて行こうとしているんだけど。ダメ?」 「ダメじゃない。さっさと綺麗にしたいから。ついでに克巳さんのも綺麗にしてあげようか?」  くすくす笑いながら提案してみたら、ぴたりと足を止め、眉間に深いシワを寄せて、あからさまな不快感を示した。 「君の言う綺麗にするっていうのは、卑猥なこと全般が含まれているんだろう。どうせ」 「勿論姦通せずに綺麗にしようと、アレコレ考えているよ。そんな面白くなさそうな顔をしないでほしいのに」 「願掛けを実行すべく、堪え忍んでる俺の顔を面白くなさそうなんて表現をするのは、稜らしいといえばそうだけど。そんな君の期待に応えるために、進んでこの躰を提供してあげよう」  最後のほうは弾んだ声色になり、やるせなさそうな表情が一変、柔らかい笑みになった。そんな笑みに引き寄せられるように、ゆっくりと顔を近づけそして、熱いキスを交わす。  この後は、俺が考えたアレコレを好きにさせてもらったお陰で、心と躰がかなりリフレッシュしたのだった。  明日からの選挙活動、マジで頑張れる気がする!

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