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白熱する選挙戦に、この想いを込めて――㉔
落ち着きを取り戻したことを確認したので、やんわりと掴んでいた手を離し、持っていた鞄からファイルを取り出して、今日のスケジュールを確認してみた。
(10分後にここから移動して商店街に遊説の予定だが、長居は無用な雰囲気が流れているし、ちょっと早いけど動くことにするか)
スーツのポケットに入れていたスマホで、移動することを二階堂にメッセージし、顔を上げて目の前の光景を改めて眺めると、驚いたことが起きていた。
スタッフの中には、一部やる気のない人間が数人ほどいて、仕方なく仕事をしている感じが見えていたのに、そいつらがこぞって稜に話しかけ、盛り上がっている様子に首を傾げるしかなかった。
そこから皆のやる気が溢れ、一致団結しているのを見ることができたのは、禍を転じて福と為すということかもしれないな。
「少し早いけど次の遊説先に向かうので各自、車に乗ってください」
水を差してしまう自分の指示に内心苦笑いをし、スタッフの後について行こうとしたときだった。左袖をくいくいと引っ張る誰かに、動きを止められた。
振り向くとウグイス嬢の彼女が俺を見上げて、にっこりと微笑みかけてくる。
「相田さん、昨日の打ち合わせ通りにスタートして、稜さんにマイクを渡せばいいんですよね?」
「ああ。朝の爽やかな空気を感じさせるような、素敵なアナウンスを頼むよ」
彼女からの笑みを返そうと、自分も口元で微笑みかけた瞬間――
「こらぁっ! 仕事中だっていうのに鼻の下伸ばして、デレデレしてんじゃないよ!!」
キーンというハウリングと一緒に、稜の声が選挙カーから響き渡り、あまりの煩さに耳を押さえてしまった。
その怒声に、何が起こったんだと立ち止まる通勤途中の有権者と、ことの成り行きを見ていたスタッフがどっと笑うという、自分にとっては笑えない展開が催され、困惑するしかなかった。
「早く戻らないと、またスピーカーを使って怒られちゃいますよ」
早く行動を促すような言葉をかけられたものの、選挙カーの助手席でこちらに向かって、眉間にシワを寄せながら睨みを利かせている稜に、対峙したくないとは言えず――視線を合わせないように、顔を俯かせて車に乗ったのは言うまでもない……
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