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白熱する選挙戦に、この想いを込めて――㉕

***  後部座席で体を小さくしながら、稜のアナウンスに耳を傾けていた。 「おはようございます! 朝一番に皆様にご挨拶に伺いました、はなお りょうでございます」 「稜、次の信号を右折したらマイクのボリュームを落とす。病院があるから」  地図を片手にチェックポイントに来たら、すかさず声掛けをするように心掛けた。学校、病院、養護施設、療養施設等の周辺はボリュームを抑えるか、無音で通り過ぎるのがマナーなんだ。 「分かった……」  マイクを下して前を見据える稜を、微妙な表情で見つめることしか出来ない。一緒に同乗しているウグイス嬢やスタッフ数名も、そこはかとなく漂う険悪な空気を肌で感じているだろう。  私情のもつれを、こんなところで発揮したくないのに―― 「相田さん、はじめは大丈夫なの?」  内心悶々としながら地図に視線を落としていたら、どこか感情を押し殺したような震える声で、稜が訊ねてきた。 「車に乗り込んでから直ぐに、二階堂にメッセージしたよ。既読になったが返事が着ていないな」  ポケットにしまっていたスマホを取り出しチェックしてみるが、未だに返事がない。 「深追いせずに戻ってくるようにメッセージしてくれない。何かあってからじゃ問題になるからさ」 「分かった。この信号交差点を過ぎたら、アナウンス開始しても大丈夫だ」  稜に頼まれた二階堂へのメッセージをしつつ指示を出すと、隣に座っているウグイス嬢が袖を引っ張ってきた。 「ここは仕切り直しで、私からアナウンスしましょうか?」 「そうだね。さっきと同じ要領でバトンタッチしてくれ。そういう打ち合わせで稜も宜しく……」  助手席にいる稜に話しかけた途端に、あからさまなため息を大きくつかれてしまった。彼女と話をしただけなのに、こんな態度をされるのは今から頭痛の種だな。 「稜、いい加減に気持ちを切り替えないと、マイクから心情がダダ漏れする恐れがある。候補として気をしっかりと引き締めないと――」 「そんなの分かってるよ、分かってるんだ。頭では理解していても、どうにもならないことがあるんだってば」  膝に置いている両手をぎゅっと握りしめ、悔しさを滲ませる横顔に声をかけにくい。

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