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act:翻弄する毒
彼に手を引かれ隣の部屋に入るとそこは、花の香りに包まれた寝室だった。
ベッドヘッドのライトをつけると、大輪の花束が所狭しと飾られていて、思わず目を奪われてしまう。その華やかさはまるで、女の子の部屋といった感じ――
「こっちに置いてある花は、ちょっとだけ香りの強い花ばかりなんだけど克巳さん、酔ったりしない?」
そして何気なく、はいと手渡された小さな包みに、顔が強張ってしまった――このゴムは一体……?
「え? あの……ニオイは大丈夫だけど、これって――」
「これから俺とセックスするんだよ、克巳さん」
彼の言葉に頭の中が真っ白になる。そんな俺を横目で眺め、何言ってるんだと言わんばかりに、お腹を抱えて笑い出した。
「ちょっと待ってくれ、だって君は男じゃないか。出来るワケがない……」
慌てふためく俺を無視し、着ていた服を脱ぎ捨てて、惜しげもなく全裸になった。さすがはモデルをやってるだけある。均整の取れたプロポーションは見ていて惚れ惚れするが、性欲の対象にはならない。胸はないし下半身に、半勃ちのアレがついている……
「でも克巳さん、俺とキスして勃ってたでしょ。あれはどう説明するのさ?」
「あれはきっと薬のせいで、ああなったんじゃないかと――」
同性とキスして勃つなんて、絶対にありえない。感じてしまったのも、全部薬のせいなんだ。
「でもねあの薬、即効性はあるんだけど持続性がイマイチなんだ。なのに未だに克巳さんのモノが勃ってるのは、どうしてなのかなぁ?」
「それはまだ、薬が効いてるとしか思えない……」
言い訳がましいことを口にしながら、初めての行為に恥ずかしがる女のコのように、両手で下半身のモノを隠した。今更なんだが。
「まったく。意外と恥ずかしがり屋さんなんだね、しょうがないなぁ」
口元に艶っぽい笑みを浮かべて、手に持っているゴムをパッと奪い取り、おろおろする俺を尻目に素早く装着した。
「さあ、早くしようよ。遠慮しないでさ」
「いやいや、絶対に無理だって!」
「そおぉれっ!」
ガシッと腕を掴み、遠心力を使ってスプリングのきいたベッドに吹っ飛ばされ、仰向けに寝転がった俺の上に、しっかりと馬乗りになる。見下ろしてくる瞳が逃がさないと語っていて、更なる恐怖心を煽られた。
「やや、やめてくれ……」
「掘られるワケじゃないのに、何なのその顔。気持ちイイ事をするだけだよ♪」
頭を両手で押さえつけられながら、逃げようとした俺にキスをする。慌ててもがいてみたけど、全然ビクともしない。
「ぁっ……んっ!」
割って入ってきた舌が、なぞる様に歯茎をやわやわと撫でていき、抵抗する腕の力を、どんどん抜いていった。
その内、俺の舌にいやらしく自分の舌を絡めてきて、ちゅっと吸ったり甘噛みを繰り返される。室内にくちゅくちゅという、卑猥な水音が響き渡っていって。
――何だ、これ。どんどん扇情的な気分になっていく。男同士でキスをしてるのに、何でこんなに、胸の奥が疼くようにムラムラしてくるんだ。
感じていくうちに、絡まるお互いの唾液を飲み干す勢いで、彼を求めてしまった。抵抗していた腕はいつの間にか、彼の躰を抱きしめるとともに、頭を優しく撫でていた。
指先に長い髪がするするっと絡まってきて、そのたびになぜかドキドキしてしまう。
「克巳さんの手、すっごく気持ちイイよ。もっと触って……」
掠れた声で言い放ち、頭に回していた手をぎゅっと握りしめてから、平らな胸元に導いていく。恐るおそる胸の頂に触れると、躰をビクつかせた。
やっぱり感じるものなのかと顔色を窺いながら、じっくりと責めてみる。指先でこね回したり、引っ張ったりしてやると、長い髪を乱してキレイな顔を歪ませていった。
「ふぁ……、ぁあ、ん……っ」
俺の躰の上で魅惑的な瞳を潤ませて、甘い声をあげる姿に堪らなくなり、自分と逆転させるべくベッドの上に押し倒した。
「稜――」
「遠慮しないで、もっと触っていいよ。克巳さんの好きにして」
そう言って瞳を閉じた彼に、自分から唇を重ねた――
「…っん……うんっ、ぁ……」
求める俺に、しっかりと舌を絡めていく稜。唇をそっと離して、耳たぶにを食むと、ぶるりと躰を震わせた。
「……っ、あぁ、そ、こダメ!」
その声を無視して、耳たぶの淵をなぞる様に執拗に舌をはわせる。
「っん……う、あん……、そこばっかりっ、ダメ、だって!」
「感じてるのに、どうして?」
耳元が弱いのだろう。身悶える稜はすごく色っぽくて、どんどん責めたくなった。今度は耳の穴に、ぐりぐりと舌先を突っ込んでみる。
「ほ、他も触って……んっ、くすぐったい、ん、だってば……あぁん」
降参しながら俺の右手首を掴み、自身の下半身に誘導していく。
他人のアレに触るのは初めて――力加減が分らないと思いつつ、恐るおそる握ってみた。稜の自身は先走り汁で既に濡れそぼっていて、上下に扱くとぐちゅぐちゅと卑猥な音をたてる。
「はぅん……っん、はぁ……あ、ぁぁっ」
シーツを両手で掴んで背中を弓なりにしならせ、快感に満ち震えながらも必死に耐える姿は、見ているだけで妙にそそられた。さっきの続きとばかりに、キレイな色をした胸の頂へ、舌先をころころと転がしてみる。
「ぅあっ、ふぁ……あっ、やめっ、ぁあ!」
快感を貪るように胸を突き出してきて強請ってくるので、ここぞとばかりに、責めたてた。途端にこりこりっと乳首の先がが硬くなり、肌の色がほんのり桃色に染まってキレイだ。
「克巳さんっ、お願、いぃ……んっ」
息も絶え絶えといった様子で悩ましげに顔を歪め、俺をじっと見つめる。
「――なに?」
「もう少、しだけ、力入れて握って……、んっ、欲しい、んだ」
「これくらい?」
握ってる力を、ちょっとだけ入れて擦りあげた。
「はぁん……、ぅあ、もう少し……はぁ――」
「これは?」
「ぁん、ぅ、それ……くらい、はぁ、んっ!」
俺の手に合わせて気持ち良さそうに腰を上下する姿に、もっと感じさせてみたくなる。
「うあ……やば、克巳さんっ……はぁ、腰、止んなぃ、もっと」
握っている稜のモノは今にも、イきそうなくらい膨張していた。
そんな彼をイかせてやろうと力をこめたとき、シーツを掴んでいた手を離し、俺の首に両腕を絡めて、強引に躰を引き寄せてきた。
「俺を克巳さんの……、んっ、あぁん、おっきいので……気持ちよくして、っ!」
耳元で甘く掠れた声で囁かれたせいで、無性に胸がドキドキしたけど、稜が言った言葉の内容に不安がよぎる。
――俺のを、稜に挿れるのか!?――
挿れる場所は一箇所しかないワケで、しかもその部分は通常こんなモノを挿れたりせずに、出す場所なワケで……
そんなことを頭の中で考え、固まってしまった俺の顔を見て、稜は目を細めクスッと笑い、唐突にボトルを手渡してきた。
「克巳さんのおっきいから、指でしっかりと馴らしてほしいんだよね」
「えっ!? ああ……」
思わずOKの返事をしてから、やることの順序を考えてしまう。慣れないことをするときは、ついクセでいろいろと考えてしまう。
ボトルから液体を出し、手の平で温めてから、指を一本挿れてみよう。そうして様子を見てから指を足して、馴らしていけばいい、か?
息を飲みながら、とりあえず人差し指を一本挿れてみた。つぷぷっと吸い込まれるように入っていくのを見て、何だか変な気分になる。
「……っん、ん、っ、はぁん、あぁ……」
何回か抜き差ししながら広げていき、もう一本増やしてみたら、指に中のヒクついている様子が伝わってきて、俺のモノがピクリと反応してしまった。
「稜、もう挿れるから。いいね?」
気がついたら言葉を発していた自分。さっきまで躊躇していたのが、嘘のようだ。
何も言わず、こくんと首を縦に振り俺が挿れるのを、瞳を潤ませて待っている稜。その姿を見ただけで、自然と躰が熱くなってしまった。
そんな俺を待ちわびる彼の中に自身をあてがい、ゆっくりと挿れていく。
「あぁぁ、克巳さんのが入ってきてるっ……気持ち、ぃい!」
「大丈夫?」
正直指を二本挿れただけでは、馴らしたとはいえないだろう。実際はかなり、辛かったんじゃないだろうか――
「んんっ、ぅっ! 克巳さ……ぁ、っ! ぁっ、はぁん……っ」
稜の片足を肩にかけ、奥目掛けて全部挿れてやると、勝手に腰を動かしだす。
「お願いぃっ、もっと、もっとぉ……!」
「本当に大丈夫?」
もしかして、ヤり慣れているのだろうか。結構、強引に挿入したというのに。
「大丈夫……だから。ねぇ、早く動いて?」
もう思い切ってやってやれと思い、細い腰を両手で持ち上げ、がんがん突き立ててみた。
「克巳さんの、熱くって、大きくって……、んっ、もぉ、壊れそうぅ……」
すごく感じているんだろう、俺自身をぎゅっと締めつける。1回イってるとはいえ、これは結構キツい――
「アっ……、ふぁ、あっ! ソッコ……、あぁ、あん!」
「ここら辺?」
「ちょ、待って。動いたらダメ……、やだぁあっ! ふぁ、ッんんっ! あ、ああっ腰、動かさないで、ダメだってっ!」
そう言いながら、自分から腰を動かす稜。彼の動きに引き込まれるように俺自身が、大きくなっていくのが分かった。
「あっン、はぅうぅ……、やらぁッん、あふっ、凄い当たるっッ、腰止まんないっ」
そのハチャメチャな動きに、我慢の限界がみえてくる。
「稜っ、締めすぎ……、っ! すぐイきそう、だ」
「あぁ……、もぉイッていいよ! 俺も、イきそッ」
長い髪を乱して、がくがくと痙攣させる躰をぎゅっと抱きしめ、気持ちイイと言っていた場所目掛けて、激しく腰を打ちつけてやった。
「んっ、ひゃ……、あっ、イっくっ! やぁ、あっぁ!!」
次の瞬間、稜自身から白濁の欲が勢いよく吐き出され、俺の躰を濡らしていく。それに導かれるように、俺も稜の中で根こそぎイってしまった。
重ダルい体をそのままベッドに投げ出すと、長い髪を耳にかけながら稜がすっと起きて、俺の躰にかかった欲をキレイに拭き取り、ゴムの処理までさせてしまい――
「何か……全部してくれて悪い」
「いいよ、別に。気持ちよくしてくれた、お礼みたいなものだから」
どこか嬉しそうにふわっと微笑んで、俺の躰に布団をかけて添い寝をしてきた。
「ね、克巳さん。気持ちよかった?」
印象的に映る瞳を細め、顔を覗き込みながら困ったことを訊ねてくる。
「えーまぁ……うん。良かった、かな」
まさか男にあんな風にイかせられるとは、思ってもいなかった。何やってんだろ……
「克巳さんのおっきかったから俺の感じるトコ、ダイレクトに突くんだよね。マジでサイコーだったよ」
「……へぇ、そう」
困り果てる俺にぴったりと寄り添ったと思ったら、耳元にふーぅっといきなり息をかけてきた。
「ななっ!?」
「もう一回したいって言ったら、できそぅ?」
そして俺自身に手を伸ばし、強引に唇を重ねてくる。
「っ、ンンっ―!」
気持ちは回れ右をしたいのに、快感を覚えた躰がいうことをきかず、稜から与えられる気持ちよさを求め、逃れることが出来なかった。
彼の中に自分を刻み付ける行為に夢中になり、気がついたら一晩中、彼と共に夜を過ごしてしまい……そのせいで、理子さんからの電話に気付けずにいたのだった――
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