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act:翻弄する毒②

 疲れ果てた俺は稜を抱きしめて、深い眠りについていた。  普段、夢なんて見ても覚えていないのに、このときに限っては、やけにハッキリとしたものを見たんだ。寝室に充満している、花の香りのせいだろうか――  何故か俺は、いろんな花が咲き乱れている中に躰を横たえながら、抜ける様に綺麗な青空をぼんやりと眺めていた。  風に身を任せて流れていく雲、その風に運ばれる芳しい花の香りが心地よくて、目を細めながらその景色を楽しんでいると。 『こんなところにいた、捜したんだよ克巳さんっ』  咲き乱れる花を蹴散らしながら、どこか弾んだ足取りで俺の傍にやって来た稜。  必死に捜したのだろうか。いつもは整えられている髪の毛が、可愛そうなくらいグチャグチャになっていた。  俺は上半身を起こして傍に座った稜の髪を、手櫛で撫でるように梳いてやる。 「捜してくれて有り難う。でも君は芸能人なんだから、身なりはいつも整えておかないと、駄目なものじゃないのか?」 『そういう克巳さんも、頭に花びらつけてるよ。何気に可愛いんだから♪』  形のいい口角を上げて、笑いながら頭についた花びらを右手で優しく払った。目の前に落ちていく、黄色い花びらが目に留まる。 「そういえば俺のことを捜してたって、何かあった?」 『だって、いなくなったら困るんだよ。克巳さんは俺にとって、大事な駒なんだし』  満面の笑みで微笑んでいるのに、眼差しがやけに怜悧で、何かを企んでいるように感じてしまった。それについて口を開きかけた瞬間、ずるっとどこかへ落ちていく躰。足元を見たら、そこに大きな穴が出来ていた。  慌てて両腕を伸ばしたが、どこにも掴まれるところがなく、真っ直ぐに落ちていく俺を稜は笑いながらただ見下ろすだけで、助ける気配すらない。 (これから俺は、どうなってしまうのだろうか!?)  底の見えない落とし穴に、ただ身を任せるしかなかったのである。

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