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act:翻弄する毒③

 隣で寝ている克巳さんを気にしながら、ゆっくりと躰を起こしてみる。 「……っ、痛っ! ちょっと頑張りすぎちゃったかな」  時計を見ると、午前三時過ぎ――彼を起こさないように寝返りをうったら、腰に激痛が走った。あまりの痛さに顔をしかめてしまうレベルって、どんだけ。 「回数より質というか。いいモノをお持ちだったせいで、自ら腰を使っちゃったし、しょうがないね♪」  ベッドからゆっくりと腰を上げ、振り返って克巳さんの寝顔を見てみる。イビキもかかずに、うつぶせのまま死んだように眠っていた。 「こういうあどけない顔してるトコに、惹かれちゃったのかも。リコちゃんってば、趣味がいいからなぁ」  そっと頭を撫でてあげると、気持ち良さそうに身じろぎし、口元に笑みを湛えた克巳さん。もしかしたらリコちゃんも、俺と同じことをしているかもね。こんな表情を見たら、手を出さずにはいられないから。  物音を立たないように気をつけて、真っ直ぐ浴室に向かいシャワーを浴びる。  そして数分後――バスローブに身を包み、タオルで髪の毛の水分をしっかりと拭ってから、ハンガーにかけてある克巳さんの上着に手を伸ばした。迷うことなく、ポケットの中身をチェックする。  スマホの手ごたえを感じ画面を見てみると、ロックはかかっておらず、さくさくと中身を拝見♪ (わーお、着信履歴が26回もあるじゃん。さっすがリコちゃん! 心配しちゃったんだ)  最終着信履歴が、午前一時すぎ――この時間なら確か、激しくヤっちゃってる真っ最中のところだよ。  先ほどまでの行為をちょっとだけ思い出し、あちこちチェックしていて、ふと気がついた。リコちゃんの電話番号とメアドは知ってるけど、克巳さんのは知らなかった。 「俺のスマホに転送しちゃお♪ ついでに克巳さんのに、俺の情報を入れてあげちゃうとか、すっげー優しい」  自画自賛して操作してから、寝室に足を運んだ。眠っている克巳さんの鼻を、ぎゅっと摘んでやる。ちょっとSな起こし方かな。 「……っ、んんっ?」 「おはよ、克巳さん」  顔を寄せてちゅっと、モーニングキスしてみる。ぼんやりしたまま俺を見上げる姿は、本当に無防備。 「ごめんね、朝早く。これから早朝ロケが入ってて、仕事に行かなきゃならないんだ。悪いけど、今すぐに起きてくれるかな?」 「ああ、そうなんだ。ゴメン、すぐ着替える」 「あとね。これなんだけど――」  慌てながら起き上がった克巳さんに、スマホを手渡した。自分のスマホの着信履歴を見て、すっと顔色を変える。 (その愕然とした表情、笑いを堪えるのに必死!) 「リコちゃん心配して、何度もコールしたんだね」  俺の言葉に口元を押さえ、難しい顔して考え込む克巳さん。  ふふっ、困ってる、超困ってる。まぁ苛めるのは趣味だけど、昨夜は随分と楽しませてもらったから、助け舟を出してあげよ。 「克巳さんは俺の家で話し合いをしながら、お酒を呑んでいました」 「え――?」 「途中でどっちが強いか、呑み比べをしている最中、ふたりして酔い潰れてしまった。――っていう筋書きを考えたんだけど、どうかな?」  俺はバスローブを脱ぎ捨て、さっさと着替えを始める。 「……稜?」 「俺とヤっちゃったこと、絶対に知られたくないでしょ。この筋書きをリコちゃんが納得してくれるかどうかは、分らないけどね」  とっとと着替えろと言わんばかりに、床に落ちていた克巳さんの下着を、ぽいっと投げつけてあげた。浮かべている表情は暗いままなれど、何とか頑張ってもらわないといけないんだよ。 「信じてもらえるような演技、ヨロシク頼むよ克巳さん♪」  俺の立てた筋書き通りに、動いてよね。これでまた一歩、彼女に近づくことが出来るんだから――

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