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act:翻弄する毒④

 複雑な心境を抱えたまま家に到着し、速攻でシャワーを頭から浴びた。勿論冷水で―― 「……何てことをしてしまったんだ」  話し合いだけで終わらせ、理子さんに近づかないよう説得するだけだったのに、薬を盛られた挙句、まんまと蜘蛛の糸に掛かった虫のように、毒牙にかかってしまった。  浮気という言葉よりも、浮体と表現したほうがしっくりくる。だって気持ちは理子さんにあるのだから。  シャワーの水を止め、深いため息をついて浴室から出る。  背徳心に罪悪感、裏切り……頭の中に出てくる言葉はこんな状態なのに、その一方で稜に与えられた甘美な行為が、胸の中に疼いてしまう。 『克巳さんの手、すっごく気持ちイイよ。もっと触って……』  稜の頭を撫でただけなのに、すごく嬉しそうな顔をして、気持ちよさを伝えてくれて。 『遠慮しないで、もっと触っていいよ。克巳さんの好きにして』  強請るように俺の手を、感じる部分に導かれてしまった。 『うあ……、やば、克巳さんっ……。はぁ、腰、止んなぃ、もっと』    握りこんで責めてやると気持ちよさそうな表情を浮かべ、シーツを引っかくように足を動かしつつ、激しく腰を上下させていたっけ。 『あぁぁ、克巳さんのが入ってきてるっ……。気持ち、ぃい!』 『克巳さんの、熱くって、大きくって……、んっ、もぉ、壊れそうぅ……』 『克巳さんのおっきかったから俺の感じるトコ、ダイレクトに突いてくれるんだよね。マジでサイコーだったよ』  今まで関係を持った女性から、こんな風にストレートに表現をされたことがなかったから、いちいちドキドキしてしまったんだ。なので今の心境を表現すると、本当に複雑だったりする。 「理子さんに上手くいいわけ、言えることが出来るだろうか」  まさか彼と関係を持ったなんて、思いもしないだろうけど、説得が失敗に終わったのには違いないんだ。 「とにかく謝ることからしないとな。心配して何度も、電話をさせてしまったワケだし」  いつもより早く家を出て、理子さんのマンションに向かうことにした。連絡していない俺のことをきっと、待っていると思うから。

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