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act:溺愛

 いつもより早く、家に迎えに来てくれた克巳さん。見るからに具合が悪そう…… 「克巳さん、昨日は大丈夫だったの? 何だか少しだけ、顔色が悪いし」  目が合った途端に、質問をぶつけてみた。すっごく心配して、たくさん電話をかけちゃったんだから当然。 「や、ごめん。心配かけてしまって」  怒る私を前に、目の下に薄っすらとクマが出来た状態で、バツが悪そうに頭を掻く。 「実は昨日、彼と話し合いながら、お酒を呑んでしまったんだ」 「お酒を呑んだ!? どうして?」  克巳さんが歩き出したので隣に並びながら、そっと腕を組む。私のために話し合いをしたのは分かるけど、昨日一緒に過ごせなかった分だけ、彼を独占したい――密着した途端に感じる克巳さんのぬくもりに、思わず笑みが零れてしまった。  そんな嬉しさを噛みしめながら横を見ると、すっと視線を外される。違和感のあるその態度に、顔を曇らせるしかない。何だか、克巳さんらしくないな。  そう思いながら、耳を傾けてみた。 「彼が話してくれる小さい頃の理子さんのことで、かなり盛り上がってしまったんだ。その結果、勧められるままにお酒を呑んでしまってね。ついにはどちらが強いか、呑み比べがはじまったというワケ。本当に済まない……」 「何してるの、まったく。だって克巳さん、お酒そんなに強くないのに」 「……そうなんだけどさ、でも男の意地があったから。大事な理子さんがかかっていたんだし。頑張らないといけないだろう?」  相変わらず視線を外したまま、真剣に喋ってくれたけど、何か納得が出来ないんだよね。 「それで勝負は、どうなったんですか?」  覗きこむように顔を寄せると、うっと言って顎を引く。それ以上逃げられないようにネクタイを掴み、自分へと引き寄せてみた。 「そっ、それが同時に酔い潰れちゃって、お互い記憶がないんだ。だから勝負は、お預けになってしまったよ。本当にゴメン!」  謝ってるクセに私を見ようとしない視線は、ずっと右往左往している状態。イライラが自然と募っていくのは必然で。 「何それーっ! 克巳さんってば、何しに行ったの? 私、稜くんに狙われてるんだよ。捕られてもいいの?」  文句を言いつつ引き寄せたついでに、ちゅっとキスをしちゃった。なのに顔を曇らせたまま、黙って俯く克巳さん。いつもなら人目をはばからず、ぐいっと腰を抱き寄せて、濃厚なのをお返ししてくれるのにな。 (もしかして、ちょっとキツく言い過ぎちゃった?) 「ゴメン、理子さん。俺を心配して、たくさん連絡くれたのに……」 「本当に困った人。次はちゃんと稜くんに、ガツンと言ってやってよね」  腕をぎゅっと組み直して克巳さんを引っ張るように、会社に向かって歩き出した。 「わかった。今度逢ったとき、きちんと話し合うから。ゴメン――」  何度も謝る克巳さんが逆に不憫に思えてしまって、明るい話題に切り替える。  このときは何に対して謝っているのか、全然気付けなかった。克巳さんの向けてくれる眼差しが、いつも通りに優しかったから――

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