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act:ゲイ能人・葩御 稜として
「お昼のショータイム! 特ダネ de ワイドショーがお送りします、今日のゲスト。今、超話題のあの人、芸能人ならぬゲイ能人表明した、モデルで俳優の葩御 稜さんですっ!」
「はいはーい♪ お昼の明るい時間に俺みたいなのが、テレビに堂々と出演しちゃっていいのかな、みたいな。葩御 稜で~す、皆さん、こんにちは!!」
久しぶりに浴びるスポットライトを躰に感じ、この場所に戻ってきた高揚感で、胸がいっぱいになった。
まずはそれを落ち着かせようと深呼吸をしてから、いつもの芸能人スマイル全開で、カメラに向かって手を振りながら登場し、指定されている所へ優雅に着席する。
目の前にいる司会者のふたりが、ゲストの俺と面白おかしくトークしていく形で、ワイドショーが展開されるんだ。
スタジオには出演祝いの花輪が、所狭しと飾られていた。色とりどりの花は目に優しい上に、とてもいい香りを放っていたので、気持ちが自然と穏やかになっていく。
「葩御さん、はじめまして。アナウンサーの藤井と申します」
「アシスタントの鷲見と申します。この度はご出演してくださり、有難うございます」
それぞれに手を伸ばして握手をし、微笑みを絶やさずに丁寧にお辞儀をした。
「いえいえ、こちらこそ。真昼間から俺のようなゲイ能人を呼んでもらえたのが、奇跡みたいな待遇ですって♪」
小首を傾げて肩よりも伸びきってしまった髪を、ふわりとかき上げる。
「女の私から見ても、本当に色気があって羨ましいです。葩御さん」
場を盛り上げようとしたのか、まるで女子高生のようなノリで話しかけてきたので、お返しをしてあげようと考えた。
腰を上げて、目の前にいるアシスタント嬢の頭に手を伸ばし、優しく撫でてあげる。
「葩御さんって呼び名じゃ硬いから、稜さんって呼んでほしいな♪」
頭を撫でていた手を頬に移動させ、そっとなぞる様に顎に滑らせてから、くいっと強引に上向かせた。瞳を細めて顔を近づけてやると、ブワッとその頬が真っ赤に染まっていく。
「おやおや早速、鷲見さんが葩御さんの色気に、やられちゃいましたね」
「え? あの、だって――////」
「あれぇ、藤井さん。もしかしてヤキモチ、妬いてるとか?」
アシスタント嬢から手を放し、隣の席にいるアナウンサーを自分に近付かせるべく、無理矢理ネクタイを引っ張った。
「お、おぅっ!?」
あたふたするアナウンサーのオデコに、自分のオデコをくっつけて、意味深な流し目をしてやる。
「藤井さんからも、稜って呼ばれたいんだけど……ね、イイ?」
中央にあるカメラに納まるように、わざとセッティングしてやったんだ。アングルとしては、バッチリだろうね。今すぐにでも、キスが出来ちゃいそうな感じだし。
昼間の番組では有りえないであろうこの展開に、お茶の間の反応がどんなものか、是非とも知りたいところだ♪
俺の甘い囁きに、茹でダコのように真っ赤になったアナウンサー。傍であたふたするアシスタント嬢も、オロオロしちゃって可愛いな。
「あっ、あの葩御さん、とりあえず席に着きましょうよ。話が進みませんからっ! ////」
「――稜って呼んでくれなきゃ、言うこときかなぁい」
更に顔を近づける俺に、スタジオにいる大勢の人間が息を飲んだのを、肌でひしひしと感じた。
「キャーッ、お願いします、稜さんっ! 席に着いてください、時間が押してますのでっ!!」
アシスタント嬢が、真っ赤な頬を両手で押えながら頼み込んできたので、渋々ネクタイから手を放し、肩をすくめて座ってやる。
打ち合わせにないこと、勝手にするんじゃねぇよ――目の前のふたりから、そんな感じが伝わってきたけど、華麗に無視! これだから、生放送はやめられないんだよね。ハプニング万歳!
「いやぁホント、葩御さんの色気がすごいことを、間近で体感させてもらいました」
「……藤井さんもう一度、俺の名前を苗字で言ったら、ちゅ~しちゃうかもよ♪」
したり顔の俺に、思いっきり顔を引きつらせるアナウンサーの表情が、面白いことこの上ない!
「あは、ははは……すみません、気をつけますね」
あまりのドタバタ劇に、一回CMが入れられた。
「葩御さん、すみません。一応お昼の情報番組なんで、抑え気味にお願いします」
テレビカメラのすぐ横にいる、渋い顔したディレクターから声がかけられる。その後方には、この番組を企画したプロデューサーが、心配そうな面持ちでスタジオを見ていた。
あの顔色はもしかしたら俺を呼んだのを、今更後悔していたりするのかな――何かあったら、責任はプロデューサーである彼が、ひとりで背負わなきゃならないから。
俺は背もたれに深く腰掛け、足を組んで天井を見上げた。
「ねぇアンタ、テレビの向こう側の視線、感じたことある?」
「は?」
「俺はビンビンに感じるんだよ。何故ならちょっと前まで俺自身が、お茶の間にいたからね」
天井からディレクターへ。そしてその後ろにいるプロデューサーの顔に視線を移して、ワザとらしく薄ら笑いを浮かべてみせる。
「番組の視聴率を上げたいから、俺をゲストに呼んだんでしょ? ならそれを上手く使わないと、宝の持ち腐れだよ」
知り合いのアシスタントディレクターに目で合図をし、プロデューサーとディレクターにあらかじめ用意していた台本を、さっと手渡してもらった。
「アンタの作った台本じゃ、間違いなく数字は取れない。俺がちょっと付け加えたソレなら、絶対にイケる気がするけどね♪」
「なっ!? これは――」
「ほらほらアシさん、早くしないとCM終わっちゃうから、司会のふたりにも台本、渡しちゃってよ」
「……本当にいいんですか? こんなこと流したら、葩御さんのお立場が――」
台本に素早く目を通しながら眉根を寄せて、渋い表情をありありと浮かべるプロデューサーの言葉に、げらげらと笑い飛ばしてやった。
「もう隠したいことなんか何もないくらい、サッパリしたいんですよ。ゲイ能人としてやっていくって覚悟が出来たからこそ、ぜーんぶ、ぶっちゃけたいなって。この番組で、カミングアウトしちゃダメかな?」
俺の澄んだ言葉がスタジオに響く。
固唾を飲んでみんなが見守る中、プロデューサーが覚悟を決めた顔して頷き、それを見たディレクターがOKサインを素早く指で作って見せた。
次の瞬間、洗剤のCMが終わり、スタジオに場面がパッと切り替わる――
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