25 / 89

act:ゲイ能人・葩御 稜として

「お昼のショータイム! 特ダネ de ワイドショーがお送りします、今日のゲスト。今、超話題のあの人、芸能人ならぬゲイ能人表明した、モデルで俳優の葩御 稜さんですっ!」 「はいはーい♪ お昼の明るい時間に俺みたいなのが、テレビに堂々と出演しちゃっていいのかな、みたいな。葩御 稜で~す、皆さん、こんにちは!!」  久しぶりに浴びるスポットライトを躰に感じ、この場所に戻ってきた高揚感で、胸がいっぱいになった。  まずはそれを落ち着かせようと深呼吸をしてから、いつもの芸能人スマイル全開で、カメラに向かって手を振りながら登場し、指定されている所へ優雅に着席する。  目の前にいる司会者のふたりが、ゲストの俺と面白おかしくトークしていく形で、ワイドショーが展開されるんだ。  スタジオには出演祝いの花輪が、所狭しと飾られていた。色とりどりの花は目に優しい上に、とてもいい香りを放っていたので、気持ちが自然と穏やかになっていく。 「葩御さん、はじめまして。アナウンサーの藤井と申します」 「アシスタントの鷲見と申します。この度はご出演してくださり、有難うございます」  それぞれに手を伸ばして握手をし、微笑みを絶やさずに丁寧にお辞儀をした。 「いえいえ、こちらこそ。真昼間から俺のようなゲイ能人を呼んでもらえたのが、奇跡みたいな待遇ですって♪」  小首を傾げて肩よりも伸びきってしまった髪を、ふわりとかき上げる。 「女の私から見ても、本当に色気があって羨ましいです。葩御さん」  場を盛り上げようとしたのか、まるで女子高生のようなノリで話しかけてきたので、お返しをしてあげようと考えた。  腰を上げて、目の前にいるアシスタント嬢の頭に手を伸ばし、優しく撫でてあげる。 「葩御さんって呼び名じゃ硬いから、稜さんって呼んでほしいな♪」  頭を撫でていた手を頬に移動させ、そっとなぞる様に顎に滑らせてから、くいっと強引に上向かせた。瞳を細めて顔を近づけてやると、ブワッとその頬が真っ赤に染まっていく。 「おやおや早速、鷲見さんが葩御さんの色気に、やられちゃいましたね」 「え? あの、だって――////」 「あれぇ、藤井さん。もしかしてヤキモチ、妬いてるとか?」  アシスタント嬢から手を放し、隣の席にいるアナウンサーを自分に近付かせるべく、無理矢理ネクタイを引っ張った。 「お、おぅっ!?」  あたふたするアナウンサーのオデコに、自分のオデコをくっつけて、意味深な流し目をしてやる。 「藤井さんからも、稜って呼ばれたいんだけど……ね、イイ?」  中央にあるカメラに納まるように、わざとセッティングしてやったんだ。アングルとしては、バッチリだろうね。今すぐにでも、キスが出来ちゃいそうな感じだし。  昼間の番組では有りえないであろうこの展開に、お茶の間の反応がどんなものか、是非とも知りたいところだ♪  俺の甘い囁きに、茹でダコのように真っ赤になったアナウンサー。傍であたふたするアシスタント嬢も、オロオロしちゃって可愛いな。 「あっ、あの葩御さん、とりあえず席に着きましょうよ。話が進みませんからっ! ////」 「――稜って呼んでくれなきゃ、言うこときかなぁい」  更に顔を近づける俺に、スタジオにいる大勢の人間が息を飲んだのを、肌でひしひしと感じた。 「キャーッ、お願いします、稜さんっ! 席に着いてください、時間が押してますのでっ!!」  アシスタント嬢が、真っ赤な頬を両手で押えながら頼み込んできたので、渋々ネクタイから手を放し、肩をすくめて座ってやる。  打ち合わせにないこと、勝手にするんじゃねぇよ――目の前のふたりから、そんな感じが伝わってきたけど、華麗に無視! これだから、生放送はやめられないんだよね。ハプニング万歳! 「いやぁホント、葩御さんの色気がすごいことを、間近で体感させてもらいました」 「……藤井さんもう一度、俺の名前を苗字で言ったら、ちゅ~しちゃうかもよ♪」  したり顔の俺に、思いっきり顔を引きつらせるアナウンサーの表情が、面白いことこの上ない! 「あは、ははは……すみません、気をつけますね」  あまりのドタバタ劇に、一回CMが入れられた。 「葩御さん、すみません。一応お昼の情報番組なんで、抑え気味にお願いします」  テレビカメラのすぐ横にいる、渋い顔したディレクターから声がかけられる。その後方には、この番組を企画したプロデューサーが、心配そうな面持ちでスタジオを見ていた。  あの顔色はもしかしたら俺を呼んだのを、今更後悔していたりするのかな――何かあったら、責任はプロデューサーである彼が、ひとりで背負わなきゃならないから。  俺は背もたれに深く腰掛け、足を組んで天井を見上げた。 「ねぇアンタ、テレビの向こう側の視線、感じたことある?」 「は?」 「俺はビンビンに感じるんだよ。何故ならちょっと前まで俺自身が、お茶の間にいたからね」  天井からディレクターへ。そしてその後ろにいるプロデューサーの顔に視線を移して、ワザとらしく薄ら笑いを浮かべてみせる。 「番組の視聴率を上げたいから、俺をゲストに呼んだんでしょ? ならそれを上手く使わないと、宝の持ち腐れだよ」  知り合いのアシスタントディレクターに目で合図をし、プロデューサーとディレクターにあらかじめ用意していた台本を、さっと手渡してもらった。 「アンタの作った台本じゃ、間違いなく数字は取れない。俺がちょっと付け加えたソレなら、絶対にイケる気がするけどね♪」 「なっ!? これは――」 「ほらほらアシさん、早くしないとCM終わっちゃうから、司会のふたりにも台本、渡しちゃってよ」 「……本当にいいんですか? こんなこと流したら、葩御さんのお立場が――」  台本に素早く目を通しながら眉根を寄せて、渋い表情をありありと浮かべるプロデューサーの言葉に、げらげらと笑い飛ばしてやった。 「もう隠したいことなんか何もないくらい、サッパリしたいんですよ。ゲイ能人としてやっていくって覚悟が出来たからこそ、ぜーんぶ、ぶっちゃけたいなって。この番組で、カミングアウトしちゃダメかな?」  俺の澄んだ言葉がスタジオに響く。  固唾を飲んでみんなが見守る中、プロデューサーが覚悟を決めた顔して頷き、それを見たディレクターがOKサインを素早く指で作って見せた。  次の瞬間、洗剤のCMが終わり、スタジオに場面がパッと切り替わる――

ともだちにシェアしよう!