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白熱する選挙戦に、この想いを込めて――⑧
あれから稜と口を利かず、一瞬だけ視線を合わせ、直ぐに背中を向けてしまった。何か話しかけたかったのに、どこか悲壮感を漂わせる彼の眼差しが、俺から言葉を奪ってしまったから。
しかも二階堂からの宣戦布告で、心中穏やかじゃいられないというのに、ぷいっと顔を背けられてしまい……
(もしかしたら、さっきの女性とのやり取りで、どこか気に入らないところがあったのかもしれない)
普通に対処していたつもりだったけど、稜の中で何か思うことがあったから、あんな風に態度に現しているのかもしれないな。
普段、他人には出さないようにしている稜の心中を察し、揉めるのを覚悟であとで聞いてみようと思った。
「すみませんが片付けが終了次第、これからのことについて、会議をしたいと思っておりますので、帰る前に集まっていただけませんか?」
書類を傍らに置きながらパソコンを操作しつつ、皆に向かって話しかけてきた二階堂に、あちこちから返事がなされる。
「明日から頑張らないといけないから、さっさと作業終わらせてさ、はじめの話をしっかりと聞いて、とっとと帰りましょう!」
士気をあげるように声を出した稜。黙々と事務所内部を作っていた人たちに、それぞれ笑みが零れた。
相変わらず、盛り上げることに関しては誰にも負けない――本来なら俺も、こういうのをしなければならないのだけれど、どうにも照れくささが手伝ってしまい、声をかけることすら出来ないんだ。
見習わなければと考えていたら、背中を叩かれる感触に振り返った。
「秘書さん、ちょっといいですか?」
乱雑に置かれたたくさんのファイルを、立ったまま整理していた俺に、少しだけ背の低い二階堂が、メガネを光らせながら見上げてくる。手には、俺が作った書類が握りしめられていた。
「はい、何でしょう」
さっきのやり取りがあるせいで、無機質な声で返してしまった。稜のためにここはもう少し、友好的な態度をとらなければならないというのに。
「作っていただいた書類なんですが、内容に古いものがありましたので、こちらで差し替えさせていただきました。確認してもらえますか?」
ばさりと無造作に手渡されたせいで、恐々とそれを受け取る。
傍にあった椅子を引き寄せ、改めて書類と向き合い、差し替えたというものをチェックしていった。
「これは――」
差し替えたといったから、ほんの数枚かと思っていたのに実際、かなりの枚数が差し替えられていて、感嘆の声をあげるしかない。
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