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白熱する選挙戦に、この想いを込めて――⑨

「秘書さんの中では、一ヶ月前や一週間前はつい最近かもしれませんが、僕の中では過去の産物になるんです。情報は常に新しいものへと、変化していますから」 「……いつの間に、こんな数を調べあげた? 前回の選挙戦と平行しながら、調べたというのか?」  そこには、有権者が稜に対する意識調査やら、その他の情報が多く印刷されていた。 「無駄になる可能性もありますが、仕事を頼まれる可能性のある候補について、一応下調べくらいするんです。勝敗が、そこに表れますから」  銀縁のメガネを押し上げて、今更何を言ってくれるんだという表情を、ありありと浮かべる。  自分としては初めての中、手探りで今回のことを調べていたから、抜けがあったり情報が古いのは仕方ないと、言いわけが出来た。でもそれをしたくなかったのは、稜の為にならないと思ったから。  彼が勝つために、きっちりやることをしなければならないと、改めて考えさせられた。 「君がいてくれて助かった。これからも、何かあったら――」 「書類関係は僕が作りますので、秘書さんはどうか邪魔にならないところで、作業していただけると助かります」  俺の言葉を断ち切るように言い放ち、ぺこりと一礼をして足早に去って行く。  稜の恋人である俺と、一切手を組む気はないといったところなのか……  奥歯を噛みしめ、視線を手渡された書類に再び落とした。  選挙プランナーとしての手腕が、ぎゅっと詰まっているそれに、敵わないなと思わされたけど、仕事は仕事として負けを認めざる終えない。しかし、プライベートは別物だ。 (稜を俺から奪うだと!? そんなこと、簡単にさせてたまるか――)  この選挙戦を乗り切るために、秘書として恋人として自分の出来ることを精一杯しつつ、二階堂からきっちりとガードしてやる。これまで築き上げてきたふたりの想いがあれば、どんなことでも乗り越えられるはずだ。  そう思いながら事務所内にいる稜を捜したら、上座にいる二階堂と顔を突き合わせ、書類を覗き込んでいた。 「お隣いいですか? 相田さん」  眉をひそめた瞬間に話しかけられたので、慌てて真顔に戻し、声の主を確認。さっき、荷物の移動を頼んできた女性だった。  俺が書類をチェックしてる間に片付けが終わったらしく、空いている席が、どんどん埋まっている状態だから、話しかけられたのか――稜の機嫌がまた悪くなる恐れがあるが、この様子を見て仕方ないと思ってくれることを願うしかないな。 「どうぞ……」 「私はウグイス嬢として、分かりやすく喋るだけに専念すればいいけど、相田さんはたくさんお仕事があって大変そうですね」  座りながら書類に指を差し、微笑みかけてくる。曖昧に頷いて机に向き合い、ペンを使って重要そうな文章にマーカーした。こうすれば、話しかけにくいだろう。

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