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白熱する選挙戦に、この想いを込めて――⑩
「有名人が恋人って、どんな感じですか?」
ぽんと投げかけてきた言葉に、マーカーしている手が止ってしまった。
「あっ、ゴメンなさい。相田さんお仕事していたのに、変な質問してしまって」
「いや……」
「ちょっと興味が湧いてしまって。大変なのかなぁって」
横目で彼女を見ると、頬杖をして前を向いたまま、上座にいる稜を見ているようだった。
「実際のところ、それなりに大変だけど……有名人だから、なんていうのを気にしなければ、そこら辺にいる恋人と変わらないと思うよ」
面倒くさくなる前に返答し、すぐさま作業を続行すべく書類に目を落としたら。
「そこら辺にいる恋人と変わらないって、言いたいことは分かりますけど、同性だからこその大変さがあるんじゃないですか?」
「変わりないです」
「だってほら、ああやって他の人と仲睦まじくしていたら、男女共々気になってしまうでしょ?」
(ああやって――?)
告げられた言葉に、書類から目の前に視線を移したら、稜が微笑みながら二階堂と顔を寄せ合い、何かを話し込んでいる姿に、心がざわめいてしまった。
「普通の恋人は、ライバルは同性のみですけど、稜さんの場合は両方でしょ? モデルで芸能人、人目を惹く彼に言い寄りたい人は、たくさんいると思うんです」
そういう輩は付き合う前から、うんざりするほど見てきた。魅力的な稜を手に入れたいと誰もが思うから、それはしょうがないことなんだ。
「私はどっちかっていうと、相田さんの方が好みですよ」
「ありがとうございます。そんな風に言われても、何もあげられませんけどね」
仲のいいふたりを見ないように、視線を書類に落とした。
「何かを強請ったつもりは、ないんですけどね。あしらうのが上手すぎます」
「恐縮です」
「私は、相田さんと稜さんを応援したいなって思っているんですよ。はじめちゃん、容赦のない男だから」
(はじめちゃん――!?)
彼女の言葉に引っかかったので、顔を上げて反応すると、耳元に顔を寄せてくる。
「実は私、はじめちゃんの幼馴染で元恋人なんです。ナイショにしてくださいね」
「……元恋人が他の人に言い寄る姿は、あまり見たくはないものですか」
「そりゃまあ。しかもその相手が稜さんなんて、正直いい気がしないです」
自分の心の内を隠さず、ありのままを話してくれる姿に、好感を抱いた。
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