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白熱する選挙戦に、この想いを込めて――⑫

***  戦略会議と銘打ったそれは、二階堂が中心となって、これからの選挙戦をどう戦っていくのか、素人の俺でも分かりやすい説明を、次々としてくれたものだった。 「これから17日間という短い期間を有意義に使い、稜さんのことを有権者にアピールして、確実に当選しなければなりません。対立候補三名のうち、元県知事の元村氏が、接戦する相手となるでしょう。お手元にある資料の、2ページ目をご覧ください」  その言葉で、事務所内に紙をめくる音が響き渡る。 「インターネットを使って、有権者にアンケートを実施しました。貴方が選ぶ、国会議員に相応しい候補は誰か――見ての通り、元村氏が圧勝です」  資料のチェックをしたときに、最初に目に飛び込んできたグラフがそれだった。こうして、目に分かるような結果を突きつけられ、俺としては胸が痛んだのだが、不思議と稜は僅かな微笑みを、口元に湛えていた。  そのポーカーフェイスの下にある心の内は、一体どうなっているのだろう…… 「県知事時代の元村氏は、これといった政策をしたわけでもありません。この方が県知事だったっけという印象の有権者も、実際は多いはずです」  確かにと声をあげる者や、何度も首を縦に振る者を、目の端に捉えながら考えてみた。  認知度で比べたら、芸能人の稜のほうが格段に上だというのに、どうしてこんなにグラフの差が開いているのか。 「今回立候補した中で、一番顔を知られているのが稜さんです。芸能人として華やかに、ご活躍されていましたしね」  言いながら横にいる稜に視線を送り、ふっと笑みを浮かべる二階堂に対して、微笑みを消し去り、真顔のまま小さく頷いてみせる。

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