fujossyは18歳以上の方を対象とした、無料のBL作品投稿サイトです。
私は18歳以上です
蔑まれたハクビシンは、運命の青年に溺愛される〜光芒の庭に春雷は咲く〜 第五十四話 残された陣の謎 | 谷地やちるの小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
蔑まれたハクビシンは、運命...
第五十四話 残された陣の謎
作者:
谷地やちる
ビューワー設定
55 / 65
第五十四話 残された陣の謎
春雷
(
しゅんらい
)
は確かめたいことがある、と言い、
五神の儀
(
ごしんのぎ
)
が行われた
天空庭園
(
てんくうていえん
)
へ足を進めた。 五神の儀が行われた天空庭園は普段は、
霊獣
(
れいじゅう
)
が休める庭園となり、誰でも出入りが出来る。 ——ただ敬意を込めて
五神貴族統主
(
ごしんきぞくとうしゅ
)
が立った舞台は誰も立ち入らない。 春雷は舞台に足を踏み入れると、しゃがみ込み
陣
(
じん
)
が書かれた跡を探した。 「五神の儀で、
木蓮桜花
(
もくれんおうか
)
様が偽物だと悟られなかった理由を確かめたかったんです。あの時、
穢獣
(
けじゅう
)
が現れたのには何か仕掛けがあったはずです」 恐らく
蘭淫
(
らんいん
)
と
紫苑
(
しおん
)
が書いた陣は、さすがの二人で、難しく春雷には解読ができなかった。 そもそも、春雷は陣には疎い。
霊獣学府
(
れいじゅうがくふ
)
に入ってから学んだので、見解が浅かった。 「蘭淫か紫苑に聞けばよかったです」 舞台にはまだ陣が残っており、春雷はただ陣の模様を指でなぞった。 「これは、穢獣を閉じ込める陣だよ。誘き寄せる陣も書かれている。天才と言われるわけだ」 光芒も春雷の横にしゃがみ、春雷の落ち込んでいる顔を除いた。 「——やはり」 春雷は目を見開いて、確信を得る。その後、慌てて
光芒
(
こうぼう
)
にお礼を言った。 「ありがとうございます、光芒。お礼が遅くなりました」 「……いいよ。僕はあなたの役に立てるならそれだけでいい」 光芒は微笑んだ。 ◇
光春舎
(
こうしゅんしゃ
)
へとたどり着いた時、その扉の前には
時雨
(
しぐれ
)
が仁王立ちで待ち構えていた。すでに空は薄っすらと白み始めている。 「遅い! こんなに遅くなるとは聞いてないぞ!」 開口一番、激しい剣幕で春雷を責め立てる時雨の前に、光芒がすっと割って入った。 「仕方ないさ。有意義な時間に制限をつけるほうが野暮というものだよ」 「誰が野暮だ! 有意義な時間だからこそ、時間を有効に使えと言っているんだ!」 時雨は昇りかけた太陽をピシッと指差し、怒号を飛ばす。 「もう朝じゃないか! 夜のうちに帰ってこい!」 「……心配をおかけしました」 しんみりとした様子で春雷が深々とお辞儀をすると、時雨は「ふんっ」と分かりやすくそっぽを向き、叫んだ。 「だ、誰も心配などしていない!」 その大音量を見越していたのか、光芒がそっと春雷の耳を覆ってくれていたおかげで、至近距離での破壊的な叫び声も間一髪でやり過ごすことができた。 ◇ 一歩広間へと足を踏み入れると、今度は蘭淫がまるで罪人のように深く正座していた。 こちらへ視線を向けたものの、気まずそうにすっと首を振る。どうやら朝目覚めてからずっと、そのままの姿勢で佇んでいたらしい。 張り詰めた空気をほぐすように、春雷は二人へ問いかけた。 「朝ごはんは食べましたか?」 蘭淫はハッとしたように顔を上げ、静かに首を横に振る。 間髪入れずに時雨がまくし立てた。 「食べてない! さっさと準備しろ!」 「自分でやれ。それとも、
時雨公子
(
しぐれこうし
)
様には難しいかな」 「はっ! 自分でやって春雷より上等な料理ができたら苦労はしない。お前こそ自分でやれ」 「僕は春雷の手料理が食べたいから、嫌だね」 「やれやれ」と心の中で呟きながら、相変わらず言い争いを始める二人を後に、春雷は台所へと向かった。 何はともあれ、まずは腹ごしらえからだ。 食材棚から野菜と肉、卵を取り出しながら、素早く献立を組み立てる。 簡単な野菜炒めに香ばしい出汁巻き卵、きのこと豆腐の味噌汁、炊きたてのご飯と彩りの漬物。 (我ながら、手軽すぎるかな……) 包丁を握りながら、春雷は心の中でそっと合掌した。霊獣学府に来てからというもの、まともに腕を振るう機会もなかった。 今回の策が無事に成功したら、次はもっと時間をかけて豪華なものを作ろう——そう静かに決意を固めるのだった。 夜明の静けさが残る光春舎の広間に、湯気とともに香ばしい香りが漂い始めた。 長机の中央に並べられたのは、飾りのない無骨な
朝餉
(
あさげ
)
だ。 強火でサッと炒められた野菜炒めは、油をまとってシャキッと角が立ち、香ばしい醤油の香りを立たせている。 その隣には、綺麗な黄色に焼き上げられた出汁巻き卵。 箸を入れるとじわりと優しい出汁が染み出す絶妙な焼き加減だ。 きのこがたっぷりと入った味噌汁からは、立ち上る湯気とともに深みのある味噌の香りが広がり、炊きたての白米は朝日を反射してふっくらと輝いている。 端に添えられた鮮やかな色合いの漬物が、彩りを添えていた。 「いい匂いだ。さすがだな」 待ちきれない様子で身を乗り出し、つまみ食いをしようと伸ばされた時雨の手を、春雷はパシッと容赦なく叩く。 「時雨、運んでください。お行儀が悪いですよ」 春雷の冷ややかな視線に、時雨は叩かれた手をさすりながら不満げに鼻を鳴らした。 台所の隙間から広間を覗くと、長座布団に腰を下ろした蘭淫と光芒が、真剣な面持ちで膝を突き合わせている。朝 の柔らかな光が差し込むなか、低く重い声が交わされていた。 「……怪しいとは思わないのか」 器を準備しながら、時雨が顎で光芒の方を指す。 「思っていますよ。でも信頼はしています。それに……」 「それに?」 春雷は少しだけ困ったように、けれどどこか吹っ切れたような笑みを浮かべた。 「大体、わかってきちゃいましたから」 「は?」 時雨の間抜けな声を聞き流しながら、春雷は広間の方へ優しく温かな視線を向ける。 「彼は——私に対して素直です」 お椀になみなみと注がれた温かい味噌汁と、ふっくらと盛られたご飯。 それを盆に並べ、春雷は時雨の手にそっと持たせた。 「さ、運んでください」 長旅の疲労と緊張が残る身体に、炊きたてのご飯と温かい汁物は何よりの薬だ。 湯気立つ朝餉を前にすれば、どんな硬い表情も緩んでいく。 温かな食事が、ゆっくりと一同の英気を養おうとしていた。
前へ
55 / 65
次へ
ともだちにシェアしよう!
ツイート
谷地やちる
ログイン
しおり一覧