fujossyは18歳以上の方を対象とした、無料のBL作品投稿サイトです。
私は18歳以上です
蔑まれたハクビシンは、運命の青年に溺愛される〜光芒の庭に春雷は咲く〜 第五十六話 白花に秘めた想い | 谷地やちるの小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
蔑まれたハクビシンは、運命...
第五十六話 白花に秘めた想い
作者:
谷地やちる
ビューワー設定
57 / 65
第五十六話 白花に秘めた想い
西霞白虎家
(
せいかびゃっこけ
)
から
光春舎
(
こうしゅんしゃ
)
に戻る際、頬に水滴を感じて、春雷は「あ」と声を漏らした。 手のひらを広げると、
紫電
(
しでん
)
が共鳴する。 ——これは夕立だ。 戦いの前に雷を補充できるのはありがたい。 お腹も満たされていく。 たちまち激しい勢いに変わり、頭から土砂降りの雨を浴びてしまうが、春雷は思わず拳を握りしめた。 すると、誰かが近づいてくる気配がした。春雷が振り返ると、雨はいつの間にか雪の結晶へと変わっていく。 光と雪が舞う中、その存在は静かにそばに立っていた。 ——
薄明光線
(
はくめいこうせん
)
。 美しい顔立ちに煌びやかな着物。 そして金色の髪と金色の瞳は、すべてが作り物のようだ。 背中には大剣を背負っている。 その大剣の名を、春雷は知っていた。 「……私、あなたに聞きたいことがあるんです」 優しく微笑む薄明光線に、春雷は尋ねた。 「なぜ、あなたは宴をほっといてまで私を助けたのですか?」 薄明光線は首を振るだけで、答えなかった。 「なぜ、あなたは
穢獣
(
けじゅう
)
に執着されているのでしょう」 雪が強くなる。 春雷は相手に届くように声を張り上げた。 「なぜあなたは——」 届くことのない問いを、春雷は胸の中でつなげる。 (正体を隠すのでしょうか) 本当は、もう気づいている。 けれど、それを口にしてしまえば、この人は自分の前から消えてしまう気がした。 突然、冷たい雨が春雷の頬から逸れた。 顔を上げると、いつの間にか
光芒
(
こうぼう
)
が立っている。 「……濡れている」 そう言って、光芒は春雷の濡れた髪にそっと触れた。 「光芒」 春雷がじっと見つめると、光芒はどこか気まずそうな顔をした。 「…
木蓮桜花
(
もくれんおうか
)
様のことが終わったら、話したいことがあります」 「……いいよ。なんでも話して」 そう答える光芒の言葉に、春雷はどこかほっとする。 光芒が白い花を持っていることに気づき、春雷はくすり、と笑った。 「あなたは、いつも白い花を持っていますね」 「春雷に渡すためだよ。あなたは白が似合う」 そっと花を差し出され、春雷は苦笑した。 「私はそんなに、お綺麗ではありませんよ」
不浄者
(
ふじょうもの
)
、不細工、醜い。 容姿を貶める言葉は自分のためにあるのではないかと思えるほど、これまで浴びせられてきた。
不知火
(
しらぬい
)
でさえ、否定はしても容姿を褒めたことはない。 ある種の呪いのように、その言葉はべったりと染み付いている。 ——そして、一度根付いた価値観はなかなか拭えない。 光芒が綺麗だと言ってくれても、こうして美しい花に触れると「自分にはふさわしくない」と感じてしまう。 受け取る資格すら、自分にはないのではないかと。 「花言葉を調べたことはある?」 光芒の問いかけに、春雷ははっとして首を振った。 「いいえ……それは盲点でした」 「今度調べてみてよ」 光芒は優しく微笑んだ。 「僕の気持ちだから」 手のひらにある白い花——
紅弁慶
(
くれないべんけい
)
。 小さな鐘のような花を見つめ、春雷は胸が詰まりそうになった。 光芒の正体を明かせば、自分はもうそばにいられない。 誰も彼もが、背負った立場から逃れることはできないのだ。 それでも春雷は、手の中の紅弁慶を握りしめた。 ——今だけは、この人がそばにいることを願った。 *紅弁慶の花言葉は「あなたを守る」
前へ
57 / 65
次へ
ともだちにシェアしよう!
ツイート
谷地やちる
ログイン
しおり一覧