60 / 65

第五十九話 百花開陣、穢獣来襲

光芒(こうぼう)が天虹剣(てんこうけん)を夜空へ掲げる。 次の瞬間。 ドオォンと空気を震わせ、莫大な密度の霊力が解き放たれた。  青白い光の波が円状に疾走し、天空庭園の全域を覆い尽くしていく。 天幕(てんまく)ーーだ。  巨大な防護壁が瞬く間に形成され、庭園そのものが外界の空間から完全に切り離された。 「お二人とも、よろしくお願いします!」 春雷の叫びに応え、蘭淫(らんいん)と紫苑(しおん)が力強く頷く。 二人は筆を抜き、光芒が護る光の領域のなかで、冷たい地面へ猛然と筆を滑らせた。 一筋。 また一筋。 走る墨線が眩い黄金の光を帯びて駆け巡る。 やがて、床一面に禍々しくも美しい巨大な陣が描かれた。 蘭淫と紫苑が声を揃えて叫ぶ。   「『百花開陣(ひゃっかかいじん)』!!」   その瞬間——光芒が自ら結界を解除した。 一瞬の静寂。 光芒は天虹剣を鋭く構え、闇の奥を射抜くように見据える。 そして—— 「来い」 蘭淫の低い呟きが引き金となった。 直後。 ——ドドドドドドドドッ!!  大地を揺るがす強烈な地響きが轟いた。  遠くの闇の底から、底知れぬ無数の足音が津波となって迫ってくる。  地響きは激しさを増し、空気が激しく振動する。  「……来た!」 春雷が身構える。 しかし次の瞬間、大地の揺れと溢れ出す邪気の影響で、春雷の身体がぐらりと傾いた。 「っ……!」 春雷の体内で紫電(しでん)が激しく反応し、身体の奥を這う穢(けが)れに抗って紫の火花が逆巻く。 「春雷!」 光芒が即座に腕を伸ばし、光芒が即座に腕を伸ばし、倒れかけた春雷の身体を支えた。   「大丈夫です……!」   春雷は光芒の力強い腕を掴み、顔を上げる。   その視線の先を—— 無数の穢獣(けじゅう)の群れが、漆黒の濁流となって駆け抜けていった。 一匹、二匹、十匹、百匹——! 恐ろしい数に膨れ上がった群れが、百花開陣(ひゃっかかいじん)の光へ吸い込まれるように殺到していく。   「……入った」    春雷が息をのんで呟く。  陣へ踏み込んだ穢獣たちは、見えない檻に弾かれるように次々と足止めされていく。   暴れ回り、逃げ出そうとしても二度と出られない。   一匹、また一匹。 穢獣たちが恐ろしい密度で陣の内側へ閉じ込められていく。   光芒が春雷をしっかりと抱き支えながら、濁流の深遠を鋭く睨みつけた。   その時。 春雷の美しく澄んだ虹色の瞳が、敵を捉えて鋭く細められた。   「……きます」   蠢く群れのさらに向こう。 暗黒の奥底で、巨大で禍々しい『何か』が蠢(うごめ)いた。 罠は仕掛けられた。 あとは、引きずり出すだけだ。

ともだちにシェアしよう!