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第13章 他の人でも練習しないと

 夕食を終えたあとも、リオは食堂の椅子に座ったままだった。  使用人が食器を下げていく。  向かいでは、カイルドが食後の茶を飲んでいた。  ここ最近、研修は順調だった。  以前のように、精気が足りなくて身体がだるくなることも減った。  実技も少しずつ慣れてきた。  自主練習を見つかった夜には、締め方も悪くないと言われた。  それは嬉しかった。  けれど。 「団長」 「何」 「ちょっと思ったんですけど」 「ああ」  リオは空になった皿の端を指でなぞった。 「俺、他の人とも練習したほうがいいですよね」  カイルドが茶を置いた。 「必要ない」 「……早くないですか?」 「何が」 「返事が」 「必要ないからだ」  リオは眉を寄せた。 「でも、団長と俺って適合率百パーセントだったじゃないですか」 「ああ」 「だから、俺が上手くなったんじゃなくて、団長と相性がいいだけかもしれないなって」  カイルドは黙って聞いている。 「団長相手だと精気もちゃんと受け取れるし、最近は実技も前よりできるようになってきたけど……」  リオは少し考えた。 「それって、団長だからできてるだけかもしれないでしょう?」 「それで?」 「だから、別の人でもできるか練習しておいたほうがいいのかなって」 「必要ない」  また同じ答えだった。 「なんでですか」 「今できてるなら問題ないだろう」 「団長相手には、ですよ」 「それで十分だ」 「十分じゃないです」  リオは少し身を乗り出した。 「卒業したら困るじゃないですか」  カイルドの手が止まった。 「俺、ずっと団長相手に研修するわけじゃないでしょう」 「……」 「卒業したら、別の提供者からもちゃんと精気をもらえるようにならないといけないし」  言っていることは正しい。  カイルドにも分かっていた。  学校を卒業すれば、リオは研修生ではなくなる。  淫魔としてやっていくなら、相手が変わっても対応できたほうがいい。  自分との適合率が高いから問題なくできているだけなら、今のうちに確認しておくという考えも間違ってはいない。  それでも。 「……今は俺でいいだろう」 「今は、って」 「研修中の話だ」 「でも、団長も言ってたじゃないですか。相手によって反応が違うって」  自主練習を見つけた夜。  玩具相手では分からない。  締める強さも、動く速さも、相手によって違う。  そう言ったのは自分だった。 「だったら、何人か相手したほうが――」 「必要になったら、そのとき考えればいい」 「でも――」 「この話は終わりだ」  ぴしゃりと言われて、リオは口を閉じた。 「……分かりました」  納得している顔ではない。  それでも、それ以上は言わなかった。  リオは残っていた茶を飲み干すと、椅子から立ち上がった。 「じゃあ、部屋戻ります」 「ああ」 「おやすみなさい」 「おやすみ」  扉が閉まる。  食堂に一人残り、カイルドは冷めかけた茶へ手を伸ばした。  リオの言っていることは正しい。  他の相手でも問題なくできるか、確認しておいたほうがいい。  それくらい分かっている。  けれど、リオが別の男を相手にすると考えた途端、必要ないという言葉が出た。  理屈より先だった。  なぜ嫌なのか。  考えてみても、答えは出ない。  研修相手が変わるだけだ。  それ以上でも、それ以下でもない。 「……」  カイルドは眉を寄せた。  やはり気に入らない。  理由は分からない。  分からないまま、茶を飲み干した。  少なくとも今は、自分で十分だ。  それ以上、考える気にはならなかった。

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