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第15章 魅了されています?

「団長」 「何」 「一回、魅了の検査受けません?」  訓練を終えたあと、副団長が珍しく真面目な顔で言った。 「なぜ」 「最近ちょっと様子がおかしいんで」 「またそれか」 「念のためですよ。何もなければ、それで終わりです」  カイルドは眉を寄せた。  魅了を受けた感覚なら知っている。  頭がぼんやりして、思考に薄い膜がかかったようになる。  リオからは一度も感じたことがない。  それでも副団長がここまで言うなら、確認するだけしておいてもいい。 「……分かった」 「ほんとですか」 「検査だけだ」      ◇  騎士団の医務棟には、精神干渉や魅了魔法を専門に診る術師がいる。  任務中にそうした魔法を受けることもあるため、検査自体は珍しいものではなかった。 「魅了の疑いですね」  術師は机の上へ透明な水晶を置いた。 「手をこちらへ」  カイルドが掌を乗せる。  短い呪文とともに、水晶の奥へ淡い光が広がった。  魔力の流れや瞳の反応も確認される。  しばらくして、術師が顔を上げた。 「魅了反応はありません」 「ない?」 「はい。完全にゼロです」  横にいた副団長が身を乗り出した。 「まったく?」 「精神へ干渉している魔力は一切ありません」  やはり魅了ではなかった。 「一応、問診もしておきます」  術師が記録用の紙を手元へ寄せる。 「医療行為ですので、気になる症状があればそのまま答えてください。最近、ご自身で以前と違うと感じることは?」  カイルドは少し考えた。 「特定の相手のことが、よく頭に浮かぶ」 「例えば?」 「仕事をしていても、何時に帰るのか気になる」  術師が頷く。 「他には?」 「他の男と話していると、気になる」 「不快ですか?」 「……少し」  口にすると、思っていた以上に妙だった。 「身体に変化は?」 「ああ」 「魅了を使われていないときも?」 「ああ」 「相手を見るだけで?」 「そうだな」  術師が何かを書き留める。 「会ったときの気分は?」  カイルドは一度黙った。  扉の向こうから聞こえる声を思い出す。 『団長』 「……嬉しい」  副団長が静かになった。  術師も手を止める。 「その方は?」 「研修で預かっている淫魔だ」 「なるほど」  術師はもう一度、検査結果へ目を落とした。 「魅了反応は完全にゼロです」 「それは聞いた」 「では、魔法とは関係ありませんね」 「じゃあ何だ」  術師は少しだけ考えてから、当たり前のことを確認するように言った。 「恋愛感情では?」 「…………」  カイルドは黙った。 「その方を好きなのではないですか」  好き。  自分に向けられた言葉として理解するまで、少し時間がかかった。 「…………そうか」  思ったより、すんなり納得できた。  副団長が目を丸くする。 「納得するんですか?」 「説明はつく」 「もっと否定するかと思いました」 「俺もそう思ってた」  術師が苦笑した。 「恋愛については専門外なので、この先はご自分で」 「診断してくれないのか」 「私が診断できるのは魅了までです」 「役に立たないな」 「十分役に立ったでしょう」  カイルドは黙った。 「……好きなのか」  小さく口にする。  違和感はなかった。 「団長」 「何」 「初めてですか?」 「何が」 「人を好きになるの」  カイルドは少し考えた。 「……たぶん」 「三十二で?」 「うるさい」  副団長が吹き出す。 「笑うな」 「いや、自分の初恋を医務棟で教えてもらう人、初めて見たので」 「この話は終わりだ」  カイルドは立ち上がった。  魅了ではない。  誰かにそうさせられたわけでもない。  それだけ分かれば十分だった。

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