16 / 19
第16章 好きらしい
夕食を終えたあと、カイルドは向かいに座るリオへ言った。
「今日、魅了の検査を受けた」
「魅了?」
リオが不思議そうに瞬く。
「なんでですか?」
「副団長に勧められた」
「副団長さんに?」
「ああ。最近の俺は、お前に魅了されているんじゃないかと言われた」
「…………」
リオの目が大きくなった。
「え」
「何」
「俺、魅了できてたんですか!?」
勢いよく身を乗り出す。
「団長に!?」
「落ち着け」
「だって、俺の魅了、団長には全然効いてないと思ってたのに」
「効いてなかった」
「え?」
「検査結果はゼロだった」
リオが止まった。
「……ゼロ?」
「ああ」
「ちょっとくらいは?」
「まったくない」
「本当に?」
「完全にゼロだと言われた」
「…………」
リオはゆっくり椅子へ戻った。
「なんだ……」
分かりやすく肩が落ちる。
「一瞬、できるようになったのかと思った……」
「残念だったな」
「団長、他人事だと思って」
「俺の検査だ」
「そうですけど……」
リオはしょんぼりしたまま茶へ手を伸ばした。
少しして、ふと顔を上げる。
「でも、なんで魅了だと思われたんですか?」
「俺の様子がおかしいと言われた」
「そうなんですか?」
「ああ」
「全然気づきませんでした」
「俺もだ」
「それで、魅了じゃなかったんですよね」
「ああ」
「じゃあ、何だったんですか?」
カイルドはリオを見る。
「恋愛感情じゃないかと言われた」
「……誰の?」
「俺の」
「誰に?」
「お前に」
リオの手が止まった。
カイルドは真面目な顔のまま続ける。
「だから、俺は君が好きらしい」
「…………」
リオが固まった。
「……らしいって何?」
「今日初めて知った」
「自分が俺を好きだって?」
「ああ」
「人に教えてもらったんですか?」
「ああ」
「……そんなことあります?」
「実際あった」
カイルドは至って真剣だった。
そのせいで、リオもどう反応すればいいのか分からない。
「好き、なんですよね?」
「らしい」
「また言った」
「まだ今日知ったばかりだからな」
「でも俺に言おうとは思ったんですか」
「ああ」
「なんで?」
カイルドが少し考える。
「本人には伝えたほうがいいかと思って」
「報告みたいに言わないでください」
「違うのか?」
「違うと思います」
「じゃあ、どう言えばいい」
「それを俺に聞かれても……」
リオは困って視線を落とした。
身体のことなら分かる。
どう触ればいいかも、どう誘えばいいかも知っている。
けれど、好きだと言われたときにどうすればいいかは、誰にも教わっていなかった。
「リオ」
「はい」
「嫌か?」
「何がですか」
「俺がお前を好きなの」
今度はすぐに答えられなかった。
嫌ではない。
むしろ。
「……嫌じゃないです」
「そうか」
カイルドは素直に頷いた。
それで会話が終わりそうになり、リオが慌てて顔を上げる。
「待ってください」
「何」
「それで終わりですか?」
「他に何かあるのか」
「好きなら……その、付き合うとか」
「付き合う?」
「恋人になるとか」
自分で言って、恥ずかしくなった。
カイルドは少し考える。
「君は俺と恋人になりたいのか?」
「俺に全部言わせるんですか?」
「聞かないと分からない」
「……そうですけど」
リオはしばらく迷ってから、小さく頷いた。
「嫌じゃないです。団長となら」
「そうか」
またそれだけだった。
「団長は?」
「俺?」
「俺と恋人になりたいですか」
カイルドは今度は迷わなかった。
「ああ」
リオの頬が熱くなる。
「じゃあ……お願いします」
「ああ」
二人とも黙った。
恋人になった。
たぶん。
「……これでいいんですかね」
「知らない」
「俺も分かりません」
リオは少し笑った。
「二人とも初めてですもんね」
「ああ」
「団長も本当に初めてなんですよね?」
「そう言っただろう」
「なんか意外です」
「何が」
「もっと慣れてそうなのに」
「何に」
「……恋愛とか」
「したことない」
「俺もです」
身体の経験ならある。
知識だってある。
それでも恋愛となると、二人とも何も知らない。
リオは少しだけ安心した。
「団長」
「何」
「もう一回言ってください」
「何を」
リオは少し迷ってから、目を逸らした。
「……好きって」
カイルドは一瞬黙った。
それから、今度は迷わず言った。
「君が好きだ」
「……」
最初の「らしい」が消えている。
それに気づいた途端、顔が一気に熱くなった。
「リオ?」
「ちょっと待ってください」
「何を」
「今、恥ずかしいので」
「そうか」
「見ないでください」
「無理だな」
リオはますます顔を伏せた。
恋人になった実感は、まだほとんどない。
それでも、さっきまでとは少しだけ何かが違っていた。
ともだちにシェアしよう!

