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第4話 聞いたんですか
ライブから数日後、真壁修司が受付へ戻ると、澄川律がちょうど入館手続きを終えたところだった。
今日は予定どおりの時間だった。
「こんにちは」
「こんにちは」
真壁は端末で予定を確認する。
「このあと三階ですね」
「はい」
澄川は受付票を戻した。
それでも、その場を離れない。
「昨日、新しい曲出したんです」
真壁は顔を上げる。
「聞きました」
澄川の動きが止まった。
「聞いたんですか」
「はい」
「どこで?」
「公式チャンネルです」
澄川はしばらく真壁を見ていた。
「登録してるんですか」
「しています」
今度は表情がはっきり変わる。
「いつからですか」
「先日のライブのあとです」
「ライブ?」
そこで真壁は気づいた。
言っていなかった。
澄川も同じところへ辿り着いたらしい。
「来てたんですか」
「はい」
「俺の?」
「そうです」
「何で言ってくれなかったんですか」
責めている声ではない。
本当に知らなかったらしい。
「相沢さんから関係者席をいただきました」
「ああ」
澄川は一度頷きかけて、また真壁を見る。
「でも、来たことは言ってくれてもよかったですよね」
「終演後に挨拶へ行くほどの関係ではないと思いましたので」
「そうなんですか?」
「はい」
澄川は黙った。
受付前を人が一人通る。
真壁はそちらへ視線を向け、通り過ぎたのを確認してから戻した。
澄川はまだいる。
「どうでした?」
「ライブですか」
「はい」
真壁はライブを思い返した。
遠いのに届いていた。
客席へ近づかず、前へ出すぎず、それでも最後まで目が離れなかった。
「よかったです」
澄川が眉を寄せる。
「それだけですか」
「かなりよかったです」
「かなり?」
「はい」
澄川が笑った。
「じゃあよかった」
真壁は端末へ視線を戻す。
「昨日の曲も」
澄川がまたこちらを見る。
「よかったです」
「どこが?」
真壁の指が止まった。
前より質問が増えている。
「澄川さん、感想まで必要ですか」
「必要です」
返事は早かった。
真壁は新曲を思い出す。
音を増やしすぎない。
声も前へ出しすぎない。
間を埋めない。
「前へ出すぎないところでしょうか」
「声が?」
「全部です」
澄川の表情が変わった。
真壁はそれ以上続けなかった。
澄川が静かに言う。
「真壁さんがどう聞いたか知りたいんです」
真壁は顔を上げる。
視線が合った。
ライブへ行ったこと。
登録したこと。
新しい曲を聞いたこと。
澄川が欲しいのは、その事実だけではないらしい。
エレベーターの到着表示が変わる。
澄川がそちらを見る。
「行ってきます」
「はい」
数歩進んでから、振り返った。
「次も出したら聞いてくれます?」
真壁は受付から答える。
「登録していますから」
澄川が笑う。
「そうでした」
扉が閉じる。
真壁は端末へ視線を戻した。
新しい来訪予定が並んでいる。
その中に、澄川の名前はもうない。
それでも、さっきの言葉だけが残っていた。
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