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第26話 真壁さんにです

昼を過ぎた頃、真壁修司の私用スマートフォンに澄川律から連絡が入った。 《今日います?》 《います》 続けて、《凪さんもいます?》ともう一通届いた。 《います》 《じゃあ行きます》 用件は書かれていなかったが、今ではそれを不自然には思わない。 澄川が《今日います?》と送ってくる時、自分がいるかどうかを確かめていることはもう分かっている。 しばらくして、澄川が地下側の受付へ現れた。 肩にバッグを掛け、片手に紙袋、その上に小さな箱を持っている。 真壁は入館処理を進めながら、一度だけ箱へ目を向けた。 「こんにちは」 「こんにちは」 「凪さん、上ですか」 「今日は三階です」 「あとで行きます」 その時、奥の通路から足音がした。 真壁が顔を上げるより先に、澄川がそちらを見る。 凪隼人だった。 「来てたんだ」 凪は近づきながら澄川の手元の箱を見る。 「あ、俺に?」 「違います。真壁さんにです」 凪が足を止める。 「え」 澄川は紙袋の中へ手を入れ、小さな袋を取り出した。 「凪さんにはこれです」 凪が受け取る。 「何?」 「茎わかめです」 袋を見た凪が笑う。 「いつものじゃん」 「好きですよね?」 「好きだけど」 凪の視線が、もう一度箱へ戻る。 「そっちは?」 「焼き菓子です」 「買ったやつ?」 「作りました」 凪が目を見開いた。 「澄川が?」 「はい」 「俺、それ食べたことない」 澄川は箱を見てから、普通に答える。 「そうですね」 「真壁さんだけ?」 「今のところは」 凪の視線が箱に残る。 「今度俺もそれ食いたい」 「いいですよ」 「じゃあ次それな」 「覚えてたら」 「覚えとけよ」 澄川が笑う。 凪は手元の茎わかめを持ち上げた。 「今日はこれもらってく」 「どうぞ」 「これ、食感癖になるな」 「ですよね」 凪はそのまま奥へ歩いていった。 澄川も笑って見送る。 真壁は入館処理を終えた。 澄川が箱を差し出す。 「これ、真壁さんのです」 「分かっています」 澄川が笑った。 「最近それ言いますよね」 「何をですか」 「分かっていますって」 真壁は箱を受け取った。 蓋の向こうから、わずかに甘い匂いがする。 「前よりちゃんと作れました」 「前も美味しかったです」 「今回は、前より真壁さんが好きそうなのにしました」 澄川はそのままの調子で言った。 真壁は箱を見る。 「凪さんには作らなかったんですか」 澄川は凪が消えた通路へ目を向けた。 「今日は、真壁さんに作ることしか考えてなかったです」 答えは簡単だった。 真壁はそれ以上聞かなかった。 澄川がバッグを肩へ掛け直す。 「じゃあ、三階行ってきます」 「はい」 「真壁さん、今日何時までです?」 「十八時半頃です」 澄川が時計を見る。 「じゃあ、十八時半頃に地下へ戻ります」 「分かりました」 澄川が奥へ向きかける。 「澄川さん」 呼ぶと、澄川が振り返った。 「ありがとうございます」 澄川が笑う。 「あとで感想聞きます」 「分かりました」 澄川はそのまま三階へ向かった。 真壁は手の中の箱を見る。 蓋の向こうから、ほのかに甘い匂いがした。

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