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9 稚拙な企み

 土曜日、俺は土田と共に街中のカフェにいた。  土田は俺がカフェに来た瞬間から常以上に笑顔で、最初は気が引けたが、土田が冗談を繰り返してくれたおかげで緊張が解れた。 「土田さん、それでショートドラマの話なんですけど……」 「ああ、ごめん。あんまり楽しくて忘れてた」 「忘れてたって」  俺が笑えば、土田は微笑ましそうに俺を見る。 「何ですか?」 「いや、本当に好きだなあと」 「えっ!?」 「あ、いや。ごめん。今のなし」  土田は頬を赤らめながら、慌てて手を振る。  その反応を見れば、さすがの俺でも気づいてしまう。  まさかとは思っていたけど、土田さんは。  だとしたら、このまま一緒にいるのはまずい気がするな。 「ごめんなさい、土田さん。俺、付き合っている人が……」 「知ってる。し……成瀬君でしょ?」 「何で分かるんですか」 「分かるよ。あからさまだから」 「俺、やっぱり分かりやすかったですか」 「いや、赤池君じゃなくて、彼が」 「真介?」 「気づいてないんだ。成瀬君、赤池君に誰かが近づく度……」  土田が自分の目尻を指で釣り上げる。 「こーんな目、してるよ」 「そこまでじゃないでしょ」  俺が笑えば、土田も笑う。  真介と土田はまるで真逆だ。  俺を気遣う土田と、気遣ったりはしない真介。  本来であれば、土田のような人間に惹かれたらそのまま普通の幸せを手に入れられただろう。  だけど俺はたぶん、真介に毒されて、ずぶずぶと、戻れないところまで来ている。  それを幸せだと感じ始めている。  影鷹が真介を異常というのならば、俺はもっと異常なのかもしれない。  俺はコーヒーの苦みを口の中で味わいながら、悪い感情が浮かぶ。  けれど、俺が土田とより親しくなったら、真介は嫉妬に狂って俺を盲目的なまでに愛してくれないかと。  殺したいほど憎いというのなら、いっそそれほどまでも深く愛してくれる方が。  身震いしそうになるほど、それはとても魅力的な考えに思えた。 「土田さん」  ショートドラマの台本を取り出していた土田は、動きを止めて俺を見る。 「時々、こうして会ってくれませんか」  俺の提案に、土田の表情にゆるやかな笑みが浮かぶ。 「もちろん。ただし、彼には絶対内緒で。俺、殺されたくないから」  冗談とも本気ともつかない台詞でそう告げると、土田は早速本題の資料の説明を始めた。  俺はどこか話半分で説明を聞きながら、スケジュールを確認するふりでスマートフォンを操作し、真介とのやり取りを眺める。  真介がこの思惑に気づくかどうかは分からないが、根拠もなく成功するに違いないという自信があった。  そうなれば、きっと真介は、俺を。  唇に浮かぶのは、とても悪い笑みだった。

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