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11 嘘から出たまこと
あれ以来、塩原とは一切関わっていなかったのだが、夕飯の買い出しに行っていた時、たまたま同じ食材を見ていてお互いに気がついた。
「あ」
「赤池君、偶然ね。今日は成瀬君は?」
「一人で来てる。塩原の方こそ、この間知らない男と歩いているの見たけど」
「ああ、彼ね。嫌になるくらい猛アタックされ続けて、根負けしたって感じ」
「幸せそうで、良かった」
「……」
俺の言葉に、塩原はなぜか黙り込んで俺をじっと見る。
「何?」
「赤池君、本気でそう思ってる?」
「え?」
「ううん。こんなことはもう言いっこなしね。それより、本当に成瀬君のことが好きなの?」
「うん、そうだけど……」
「彼に脅されたりとかはしてない?」
「え?」
「あ、ううん。違うならいいの。忘れて。じゃあ、私はそろそろ帰らないといけないから」
「うん、じゃあね」
そそくさと立ち去る塩原に別れを告げ、俺は買い物を再開しながら、先ほど言われた台詞が喉に小骨が引っかかったようにいつまでも残っているのを感じた。
塩原は、何が言いたかったんだろう。
真介は確かに、狂気を秘めている。
時折垣間見えるそれが、俺に牙を剥き、取り込まれかけることがある。
いや。実は既に俺はもう手遅れなのかもしれない。
真介のことがこんなに好きになっている時点で。
塩原の言葉より、真介の気持ちを俺が独占することばかりを考えている時点で。
「真介……」
熱っぽく呟いた途端、絶妙なタイミングで真介からのメッセージが来る。
飛びつくように見れば、『遅いから迎えに行く』とあった。
塩原と軽く話したとはいえ、そこまで遅くなってはいない。
俺は過保護だなあと思いながらも、それほど大事にされているのだと胸が歓喜で震えた。
やっぱり、土田の一件を心配してるのかもしれない。
会計を終え、真介を待っていると、視線を感じた気がして振り返る。
だが、そこには家族連れの買い物客がいるだけだった。
最近いろいろあり過ぎて、過敏になっているだけかもしれない。
それから数分後に、真介が息を切らして現れた。
安堵しかけた時、真介が放った第一声でひやりとする。
「誰かに会わなかったか?」
俺は嘘をつこうとしたが、ある考えがひらめいて、正直に伝えた。
「塩原に会った」
「塩原に?何を話した」
やっぱり食いついてきた。
俺は内心笑みを浮かべながら、困った顔をつくった。
「俺とよりを戻したいって」
「……そうか」
すっ、と真介の表情が色を失くす。
「ごめん。今のは――」
嘘だよと言おうとしたが、真介にがっと強く腕を掴まれて息を飲む。
「帰るぞ」
そのまま引きずられるように帰路に着く中で、俺はこの後が怖いような、楽しみなような、矛盾した感情に苛まれていた。
自宅に辿り着くと、真介は俺を自室に閉じ込めた。
予感はしていたが、真介は俺を監禁するつもりらしい。
「真介?」
ドアの外にいるだろう真介は、どうしてかすすり泣いていた。
俺は閉じ込められた事実よりも、そちらの方が気がかりで、何度もドアを叩く。
「真介、どうしたんだ。ごめん、さっきのは――」
謝ろうとした時、ドアの前から足音が遠ざかり、恐らく玄関のドアが開閉される音がした。
俺はポケットをまさぐり、スマートフォンで真介に電話をかけたが、全く反応がない。
せめてメッセージで書こうと思っていると、真介ではなく、塩原からメッセージが来た。
そのメッセージを読んだ俺は目を見開いた。
『赤池君、よりを戻したい』
嘘が嘘ではなくなってしまい、俺は真介に弁解する機会を失い、どうすべきか分からなくなった。
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