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関係の始まり

 目覚めは最悪だった。瞼が重い、体が怠い。頭は……痛くはないがぼんやりしている。ようやく目を開けたが、見慣れない風景が視界に飛び込んできた。よく回っていない頭をなんとか働かせる。  ああ、そうだ……ここは俺の部屋じゃない。  のろのろと体を起こす。下着以外は何も身に着けないまま寝てしまったようだ。小さく唸って頭を抱える。  昨夜この部屋で何があったか、何をしたか覚えていないわけじゃない。いや、はっきりと覚えている。  もぞり、とベッドの中で何かが動く。美しい人がそこで眠っていた。恵介先輩の恋人だ。  俺は、昨夜この人を抱いた。理性は働かなかった。理性より、体が動いた。本能が動いた。白い滑らかな肌に吸い付き、唇を貪り……何度もこの人の喘ぎを聞いた。経験が多いわけではないが、こんなに満たされ興奮したセックスは初めてだった。  だが相手は……いつも世話になっている先輩の恋人。絶対に手を出してはいけない相手だ。  溜め息とともに頭を抱えた。やばい、どうしよう、まずい……混乱と罪悪感が頭の中をぐるぐる巡る。なのに不思議と後悔はなかった。 「ん……」  夏樹さんがぎゅっと丸くなった。頬にかかる髪をそっと手で払う。布団の中から伸びた手が俺の手を掴み、大事そうに顔を擦り付けた。長い睫毛が震えている。  可愛らしいと思うと同時に、どこか寂しげにも見えたーーそれは気のせいだろうか。  目が開いた。僅かに泳いだ瞳が、ゆっくりと俺へ向けられる。 「……おはよ」 「おはよう、ございます……」  声が掠れている。朝だからか、昨夜あれほど喘いだせいか……そのどちらもだろう。体を起こした彼に、俺は息を呑んだ。  白い首筋と胸元に、赤い痕がついていたのだ。これをつけたのは当然、昨夜の俺だ。  あまりにも生々しい情事の痕に、思わず目を逸らした。  夏樹さんは小さく笑って身を乗り出し、俺に顔を近付けた。 「昨日、すごく良かった」  かあっと体が熱を持つ。言葉が出てこなかった。おかしそうにクスクス笑いながら、彼はベッドを下りて俺のスマホを床から拾う。勝手に何か操作してからこちらへ投げた。 「体の相性良さそうだし、また連絡する」  そう言って裸のままシャワーを浴びに行ってしまった。取り残された俺は時間を見て慌てて服を着て部屋を飛び出した。  アパートの階段を駆け下りて、朝の坂道を駆けていく。走れば自分の部屋に行って準備をする時間があるはずだ。授業に間に合わなくなるのはまずい。  走りながらも、頭にはずっと夏樹さんがチラついていた。連絡先を一方的に交換した彼の目には、何の感情も浮かんでいなかった。ひどく空虚なものだった。 ーーああいうの、慣れてんのかな……。  胸の奥がチクリと痛み、それを振り払うように坂道を駆け下りた。

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