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Day1-7

帰り支度を済ませ、ロッカーに鍵をかける。 スタッフルームを出ると、右手には喫煙スペースがあり、中からは休憩中のスタッフの話し声が聞こえてきた。 二十歳になってすぐに煙草を吸い始めた珠希もまた、仕事終わりにはここで一服していくのが日課となっていた。 ドアに手をかけようとしたその時、ふと例の男のことを思い出した。 スタッフルームを出て、左の通路はサブフロアの裏口に繋がっている。そのまま真っ直ぐ進めばエントランスだ。 「‥終電、間に合うかな」 珠希はしばらく立ち止まった後、左へと進んだ。 泥酔者の対応など、シフトを終えた自分の仕事ではないことは分かっている。 _これは純粋な興味だ。 * サブフロアは比較的客が少なく、彼を見つけることは思ったより容易かった。 煙草を吸いながら駄弁(だべ)っている客や、甘い雰囲気になっている客がほとんどの中、男は座り心地の悪い椅子に腰掛け、俯いたまま動かない。 珠希は酔っ払いの目の前に立つと、パーカーのポケットから煙草を取り出し、火をつけた。 「え‥」 彼が気がつき顔を上げたのは、珠希の吸っていた煙草が半分になる頃だった。 手近にあった灰皿に煙草を押し付けると、その場にしゃがみ込み、目線を合わせる。 「一人で帰れます?」 少し悩んでから、男は首を横に振った。 「僕も今から帰りなんで、タクシーまで送りますよ」 そう言って立ち上がり、手を差し出す。その手に掴まりながら、よろよろと立ち上がる大人の姿はどこか情けなくて、思わず笑ってしまいそうになる。 背後をついてくる心許(こころもと)ない足取りに、珠希は「もたれかかってもいいですよ」と男の腰に腕を回した。 かなり限界が近いらしく、素直に左肩に頭を乗せてくる。整髪料混ざったシャンプーの香りがふわりと鼻腔をくすぐった。 サブフロアからエントランスへ出るには、スタッフルームがある裏口を通るか、メインフロアを通り抜けるかの二択しかない。 出来るだけ人の目につかない方がいいだろうと、“staff only”の張り紙がしてあるドアを開けた。 * 「あらやだ‥」 キャッシャーに立つ林田は、珠希の肩にもたれかかる男を見つめ、驚いた様子でそう呟いた。 「ちょうど上がりなんで、タクシーまで送っていきます」 「ごめんね。志乃ちゃんのこんな姿、あたしも初めて見たからびっくりしちゃった」 「調子でも悪かったんですかね」 「まぁ、一人でこんな所に来るくらいだもん‥」 何か物言いたげな林田は、乱れた志乃の髪をそっと整えてやる。 どこか親密さを感じさせる手つきに、珠希は思わず目を逸らした。 「それじゃあ‥お先に失礼します」 「はぁい。気をつけて帰ってね」 志乃を連れて階段を上って行くと、外は小雨が降っていた。 大通りまでは歩いて五分ほどかかるが、傘は必要なさそうだ。 「あれ、珠希さん。お疲れ様です」 エントランスには身分証の確認をするスタッフと共に、マネージャーである紺野(こんの)が立っていた。 狐のような顔立ちに、スーツがよく似合う長い手足。高そうな細い銀縁の眼鏡がよく似合っている。 あまり話したことはないが、正直あまり得意なタイプではない。 「マネージャー、お疲れ様です」 「‥終電、間に合いそうですか?」 「最悪ネカフェで始発まで寝ていきます」 「若いっていいですね」 男はくすりと笑うと、「引き留めてすみません」と言い残して階段を下りて行った。 一体何だったんだと内心思いつつも、ズボンのポケットからスマホを取り出し、時刻を確認する。 _どうやらネカフェで寝ることは確定したようだ。 珠希は小さくため息をつき、パーカーのフードを被ると、小雨の降る夜の街を歩き出した。 どちらかと言えば散々な日であることに間違いはないが、不思議と気分は悪くなかった。

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