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Day1-11
風呂から上がりリビングへ戻ると、時計の針は深夜二時半を回っていた。
明日は一限から講義があるため、遅くとも八時までには起きなければいけない。
リビングのベッドでは、Tシャツにスウェットパンツ姿の大男がこぢんまりと眠っている。
さすがにそのままの服で寝るのは心地が悪いと思い、適当な部屋着を着させてやったのだ。大きめのTシャツを選んだものの、体格のいい志乃が着た途端にまるで服が縮んだかのように思えた。
暖色のほのかな灯りの下、男の姿を眺めていると、トイレでの出来事が思い出される。
手のひらに感じた頬の熱。官能的なパフュームに混じる汗の香り。苦しそうに歪んだ表情と濡れた瞳。
先ほどの興奮をいまだに引きずっているのか、悶々とした気分になってくる。
体の疼きを鎮めようと、煙草とライターを片手に、キッチンの換気扇の下に向かう。ちょうど一本を吸い終えたタイミングで、風呂に入る前に回しておいた洗濯機が終了したことを知らせる。
「‥デカ」
一緒に洗濯を済ませた志乃のTシャツを手に取ると、思わず心の声が漏れた。皺を伸ばしてからハンガーに掛け、浴室内の物干しに並べていく。
スラックスのポケットに入っていたスマホや財布、イヤホンは全て取り出し、まとめて机の上に置いておいた。受け取った一万円札を、こっそりと財布の中に戻したことに、彼は気が付くだろうか。
浴室乾燥にかけておけば、朝には乾いているだろう。
志乃をベッドに寝かせた際に、アラームはしなくていいのかと尋ねたが、どうやら明日は休みらしい。
その後すぐに寝息が聞こえてきたため、珠希も風呂に入り寝る支度をし始めたというわけだ。
*
セミダブルのベッドは、側面を壁につけるように設置しており、志乃をそちら側に寝かせた。
あまりに寝相が酷ければ、自身は来客用の布団を出して寝ようと思っていたが、どうやらその必要はなさそうだ。
眠っている男を起こさないよう、ゆっくりとベッドに入った。
寝る時はいつも部屋側を向いて横になる。両膝を軽く曲げて縮こまった体勢をとるのは、子どもの頃からの癖だった。
背後から聞こえてくる規則正しい寝息が、不思議と心地良く感じられる。
初めて彼の姿を見た時、男側としての加虐欲がある自分とはマッチングしないタイプだと思った。きっと彼もまた、僕がタチだとは夢にも思わなかったことだろう。
しかしその手に触れた時、志乃が必死に隠そうとしている性癖に勘付いたのだ。
そして、こうして家に連れ帰ったことで、疑惑は確信へと変わった。
正直、見た目の好みとはかけ離れているが、こんな逸材は逃せない。
「ん‥」
寝返りを打った男の腕が、珠希の腰にだらりと乗せられる。
しばらくすると、筋肉質なその腕は、起きているのかと錯覚するほど力強く、珠希の身体を抱き寄せた。
「‥」
じっと耳を澄ませて、背後の動向を確認する。聞こえてきたのは先ほどと変わらない息遣いで、ほっと胸を撫で下ろした。
きっと誰かと間違えているのだろう。
まるで大切なものを抱きしめるかのように回された腕は、これまでたくさんの男を抱いてきたに違いない。
背中越しに伝わる体温や、隣で一定のリズムで繰り返される呼吸を感じながら、珠希は眠りについた。
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