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Day2-4
「‥辛いの好きなんだ」
半分ほど食べ進めたラーメンに再び一味唐辛子をかけると、目の前の男はそう呟いた。
先ほどまでの沈黙が余程気まずかったのか、“ようやく話題を見つけた”と嬉しそうな顔をしている。
_どこまでも分かりやすくて正直な人だ。
食事の途中でテレビを付けようか悩んだが、何か話すことはないかと一生懸命考える姿が面白くて、つい意地悪をしたくなったのだ。
「そう‥ですね。何となく物足りなくて」
「俺は辛いのダメだから羨ましいな。未だにカレーも甘口だし‥」
「へぇ、意外ですね」
「そうだろ?この前なんか恋人の家でカレーが‥」
そこまで言うと、突然フリーズしたかのように言葉に詰まる。
恋人がいたとしても、僕たちの間にはまだ何も起きていないのだから、特段問題はないはずなのだが。
「恋人の家でカレーが、‥どうしたんです?」
何とか失言を取り繕おうと、頭の中で色々と考えを巡らせているのが分かる。
その必死な表情に思わず口角が緩みそうになるのをぐっと堪え、彼の瞳を見据えた。
「あ、いや‥恋人じゃなくて、元恋人なんだ。昨日の朝に別れたばかりで‥」
また余計なことを口走ってしまった、と言わんばかりの顔で固まると、半開きの唇をゆっくりと閉じていく。
「‥それで?」
面白そうな話に興味をそそられ、手に持った箸を机に置き、頬杖をついて首を傾げてみせた。
「カレーの話は?」
元恋人の話に触れられなかったことに、一瞬安堵の表情を見せる。
正直話の内容なんてどうでも良かった。
ただ困惑している顔を見ているだけで、愉 しくて仕方がない。
「っ‥、別に大して面白い話じゃないよ」
「そう言われると、余計に気になっちゃうじゃないですか」
焦らせば焦らすほど、口に出すハードルが上がっていることに気が付いていないらしい。
こう言われて上手くはぐらかせるほど、口が達者ではないことはとっくに知っている。
しばらくの沈黙の後で、彼はおずおずと口を開いた。
「ただその、作ってもらったカレーが辛かったっていうだけで‥」
「辛いのは苦手だって、元恋人には言わなかったんですか?」
_図星だな。いや、というよりも。
「あぁ‥。その時我慢して食べたから、後々言い出せなくなっちゃった?」
まさかそこまで言い当てられるとは思わなかったのか、俯いた顔がだんだんと赤く色付いていく。
作ってくれた相手のことを思ってか、自分を良く見せようと思ってのことかは分からない。
どちらにしても、健気で可愛らしい人だということに変わりはないのだから。
辛いのを悟られないように、必死に我慢しながらカレーを食べる_その姿を想像するだけで、つい笑みが溢 れてしまう。
「揶揄 ってるんだろ‥」
「ごめんなさい。‥つい、困らせたくなって」
頬杖をついていた右手を下ろし、机の上に無造作に置かれた彼の左手にそっと触れる。
一瞬ぴくりと反応を示すが、そこから動かそうとはしない。
「好きな人ほどいじめたくなるなんて、おかしいですよね‥」
彼好みのこの顔と、甘い言葉で惑わせる。
じっくりと時間をかけて、いつしか離れられなくなるまで_。
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