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Day2-5

珠希の思いがけない言葉に、頭の中が真っ白になる。 てっきり求められているのはこの身体だけで、そういう気楽な関係を望んでいるとばかり思っていた。 彼の言う“好きな人”が、自分だと思うほど自惚れてはいないが、意識するには十分すぎる言葉だった。 触れ合っている指先から、鼓動が伝わってしまうんじゃないかと思うほどに、胸の高鳴りが抑えられない。 好みの見た目の相手に、好意を感じさせる言葉を掛けられれば、誰だって_。 「だけど、そういうのが好きな人だって‥いるんじゃないのか?」 自身の口から出てきた言葉に、自分でも驚いた。 本当はもう、すべてを曝(さら)け出してしまいたい。 心の奥底に仕舞い込んだ“性癖”を引き摺(ず)り出して、その姿が本当のお前なんだと理解(わか)らせてほしい。 「それって、もしかして‥」 珠希のスマホが着信を知らせたのは、その時のことだった。 指先から離れていく温度に、どこか寂しさを覚える。 画面を確認すると「ちょっと出てきますね」と言い残し、リビングを後にした。 「‥はぁ」 落胆からか、将又(はたまた)安堵からなのか、ため息の理由は自分でも分からない。 部屋で一人になった志乃は、三分の一ほど残った鍋の中身に、ほんの少しだけ一味をかけてラーメンを啜る。 辛味は感じるが思っていたほどではなく、何だか拍子抜けしてしまった。むしろ多少のアクセントになって、時間が経ってかなり柔らかくなった麺の食感も気にならないほどに箸が進んだ。 閉まったドアの向こうからは、自分と話す時とは違い、ラフな話し方の珠希の声が聞こえてくる。 友人といる時の彼は、一体どんな顔で笑うのだろうか。 そんなことを考えていると、不意にドアが開いた。 「あぁ、それなら俺が持ってるかも‥ちょっと待って」 そう言いながら男はベッドの方へと向かう。 そこはちょうど志乃が座ってる位置の後ろ側にあたるため、何をしているかまでは分からない。 電話で話をしている間、極力音を立てないよう、れんげに掬ってラーメンを食べ進めていった。 電話相手の女性の声は、耳をそば立てていなくても聞こえてくる。可愛らしい声だが、どこかがさつな話し方だ。 「いや、普通にラーメン食ってた。‥わかってるって、すぐ行くから。じゃ」 砕けた話し方をする珠希は、まるで別人のように見えた。 何やら急ぎの用事があるようだ。 珠希は電話を切ると、慌てて席へ着く。 「すみません。大学の友達からで、すぐに行かないといけなくなってしまって‥」 そう言うと、大きな口で食事をかき込んでいく。 そんな些細な仕草にさえ、男らしさを感じてるなんて。どうやら相当意識してしまっているらしい。 咀嚼し飲み込んだところで、再び男は口を開いた。 「志乃さんはゆっくり過ごしていってください。まだ体調も万全じゃないでしょ?」 「でもそんな‥いいの?」 問いかけに対し、珠希はれんげの上に具材を残らず集めながら、「もちろん」と頷く。 体調については悟られないよう気を付けていたつもりだったが、彼の目にはお見通しのようだ。 「鍵はポストに入れるか‥もしくは次会った時に返してくれてもいいですけど」 「それは‥ありがたいけど、少し不用心なんじゃないか?」 最後の一口を食べ終えると、不思議そうな顔でこちらを見つめてくる。 「ほら、俺たち昨日クラブで知り合ったばかりだしさ‥」 「そういう志乃さんだって、知り合ったばかりの男の家にのこのこ着いて来たじゃないですか」 思いもよらないカウンターを食らい、返す言葉も見つからない。 黙り込んだ俺の姿を見て、珠希は満足げに口角を上げる。 おもむろに立ち上がって皿をシンクへと下げると、収納棚から鍵と解熱鎮痛薬を取り出し、ダイニングテーブルの上に置いた。 「もし俺とまた会いたいと思うなら、この鍵は志乃さんが持っていてください」 電話での口調が抜けきっていないのか、普段とは違う一人称での話し方にどきっとする。 「‥わかった」 答えなんて分かりきっているはずなのに、いつだって彼は選択肢を与えてくる。 まるで、俺が選んだことだと、言い聞かせるみたいに_。

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