17 / 45
Day2-6
あの後、歯を磨いてからすぐに家を出た。
自転車を飛ばせば、十分もかからずに大学へ到着する。駐輪場に自転車を停め、早足で学食へと向かう。
三限は空きコマなので、いつもつるんでいるメンバーで課題をやろうという話になっていたのだ。
グループでの検討が必要な内容で、期限も迫っていたので、タイミング的には今日しかなかった。
「‥ごめん。遅くなって」
いつもの位置に集まり、資料を眺めている友人らに声を掛ける。
メンバーは珠希を含め男が三人、女が二人だ。
入学式の時に席が近かったというよくあるきっかけで、大学一年の頃から仲良くしていた。
口々に「おかえり」と迎えられながら、空いている席へと腰掛ける。
「皆それぞれ考えをまとめてた所で、いつから話し合いを始めるかは、“たま”が来てから決めようって」
状況を説明してくれたのは、先ほども電話をくれた高梨 だ。明るくリーダーシップがあるタイプで、程よく五人をまとめてくれている。初めの頃はたまちゃんと呼んでくれていたが、今ではすっかり“たま”という愛称で定着してしまった。
「珠希のことだから、もう何となくまとまってるんだろ?」
「あー‥まぁ一応講義終わった時に考えておいたから、大丈夫だと思うけど」
「ほらやっぱりな。遼太郎 、約束通りあとで自販機奢れよ」
「うわまじか。相変わらず抜かりねぇなぁ‥」
どうやら俺は賭けに使われていたらしい。
リュックからPCを取り出し立ち上げている間、講義で使った資料に目を通す。
レポートにはディスカッションの内容も記録しなければならないため、各々机にパソコンを広げている。
遼太郎はこのメンバーの中のムードメーカーと言うべきだろう。賭けをしようと言い出したのも彼に違いない。
そしてしっかり者の純喜 が、それに渋々付き合ってやる、というのがお決まりのパターンだ。
「もう‥二人ともふざけてないで、さっさと終わらせなよ」
男たちを軽くあしらいながら、チークレンズの入った眼鏡の位置を直しているのは、もう一人の女子メンバーの田丸 だ。いつも周囲を気にかけてくれて、“まるちゃん”の愛称で呼ばれている。
「俺はもう大体まとまったかな」
純喜がそう言うと、遼太郎も「俺も」と後に続く。
「珠希くんは平気そう?」という田丸の言葉に頷くと、隣の高梨が口を開いた。
「よし、じゃあ始めちゃおっか。あたしからいくね」
大学三年ともなれば、かなりの回数のグループセッションをこなしてきているため、こういう話し合いは慣れたものだ。
まとめ役の高梨から時計回りに意見を述べていき、最後にディスカッションをするというのが、いつもの流れだった。
何だかんだ良いバランスが取れているな、と思う。
三年間トラブルなく仲良くしてこれたのは、皆がいい意味で干渉しすぎないというところが大きいだろう。
ゲイであることはすでにカミングアウトしている。まだ出会って間もない頃、四人で学食で昼食を食べていたときのことだ。たまたま恋愛の話になったため、特に隠すわけでもなく、「ゲイなんだよね」と伝えた。
あまりにもあっさりとした皆の反応に、思わず拍子抜けしたくらいだ。
_きっと志乃さんは、周りには隠してるタイプだろうな。
キーボードを叩きながら、ふとそんなことを思った。
鍵を渡すなんて、やっぱり少しやり過ぎだったか?
あんなことを言ってはみたものの、家に帰ったらポストに鍵が入れてあるなんてこと‥ないよな?
途端に不安になってきて、文字を打つ手が止まる。
_というかそもそも、志乃さんの連絡先‥聞いてなくないか。
「‥あたしはこんな感じかな。次の人どうぞー」
高梨のその声は、珠希の耳には届いていなかった。
「おい、珠希?」
左隣に座っていた遼太郎に肩を叩かれ、はっと我に返る。
「大丈夫か?」
「あぁ‥」
「次たまの番だよ。いけそう?」
高梨の問いかけに「うん」と頷き、資料に書き込んだメモと講義の記憶を頼りに自分の意見を述べていく。
珠希は何とか集中して話し合いに取り組んだつもりだが、そう思っていたのは当人だけだったらしい。
‥
「今日の珠希‥なんか変だったよな」
「あぁ、腹でも痛かったんじゃねぇの?」
「いや‥あたしは春が来たと見た。ね、まるちゃん」
「うん。ようやく珠希くんの恋バナ聞けちゃうかも‥!」
ディスカッションを終え、一人喫煙所に向かった珠希。その背中を眺めながら、四人がそんな話で盛り上がってることなど、知る由もなかった。
ともだちにシェアしよう!

