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Day2-8*

珠希との通話を終えると、一人きりの部屋がやけに静かに感じられた。 財布に入れておいた予備の名刺が、まさかこんなところで役に立つとは思ってもみなかった。 丁寧に書いたつもりの文字も、後から読み返してみると何だか汚く見えてきて、それを彼に見られると思うと、ひどく恥ずかしかった。生憎、名刺はその一枚しかなかったため、書き直したい気持ちをぐっと堪えて、ダイニングテーブルへ置いたのだ。 リビングのソファに腰掛けたまま、しばらく余韻に浸っていると、不意にスマホの通知音が鳴った。 通知欄には見慣れない電話番号と、文字列が並んでいる。どうやら珠希が連絡アプリの自身のIDを教えてくれたようだ。 IDに含まれた“0901”の数字に、彼の誕生日なのだろうかと勝手な想像をしてみたりした。 すぐにアプリを開き、IDを検索すると『立花(たちばな) 珠希』という名前が出てくる。名は体を表すとはよく言ったもので、美しいその言葉は彼のためにあるのではないかとさえ思えた。 「‥立花 珠希」 名前を口に出してみると、それだけで胸が高鳴るのを感じる。 思い返してみれば、彼に対して名前を呼んだことはまだ一度もない。“たまちゃん”という何とも可愛らしい愛称は、酔っ払った勢いで口にしたが、どこか気に食わなそうな表情をしていたことを覚えている。 その代わりに、何度も呼ばれた自身の名前は、容易く珠希の声で再生することができた。 昨晩のトイレでも、数時間前に目を覚ました彼のベッドでも_。 「っ‥」 記憶を辿れば辿るほど、自分の血流がじわじわと一点に集まっていくのを感じる。 スマホを置いて目を閉じ、何か別のことを考えようと必死に思考を巡らせた。しかし、どうやらそれは逆効果だったようだ。 脳裏に映し出される記憶はあまりにも鮮明で、理性を失うまでに時間はかからなかった。 「はぁ‥」 口から溢れたため息はやけに熱っぽく、自分がいかに興奮しているかを思い知らされる。 洗ってもらったTシャツから、甘い柔軟剤の香りが漂ってくる。まるですぐそこに彼がいるかのように感じられ、さらに情欲を掻き立てた。 スラックスの中央部は、すでに内側から押されて膨らみを帯びている。ベルトを外す音がやたらといやらしく聞こえ、恥ずかしさのあまり耳を塞ぎたくなった。 明るい照明の下で自身を目の当たりにするのには抵抗があり、目を瞑ったままズボンを腿(もも)まで下ろしていく。 ソファに浅く座り、背もたれに凭(もた)れるような体勢で、下着越しにそっと手を触れた。 「ふ、‥っ」 全体を撫でるように触れているだけで、息が上がってしまう。久しぶりの自慰のためか、慣れない自分の手の感触に余計に興奮した。 Tシャツの裾を左手で捲(まく)し上げ、鼻元へと近付ける。 珠希の香りに包まれ、さらに大きくなった昂(たかぶ)りは、下着の中で窮屈そうにしていた。 「‥ぁ、っ‥はぁ‥‥」 下着越しに敏感な先端を親指で擦ると、じわりと布が濡れたのが分かる。 珠希が放った甘い言葉の数々は、絶え間なく脳内で繰り返されては、快楽へと誘う。 その声は次第に、志乃にとって都合の良い妄想を孕んでいった。 “もうこんなに濡れて‥。まだ直接触れてもないのに” 想像の中の彼は、そう言って口角を上げる。 呆れたような、蔑んでいるような、そんな男の表情が堪らなく“癖”に刺さるのだった。 この時、志乃はようやく理解した。 珠希のことを選んだのと同時に、彼に抱かれることを選んだのだと。 一度知ってしまったら、二度と戻れないと分かっていながら_。

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