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Day3-3
月曜日にも関わらず人で溢れる大通りの交差点を過ぎ、裏道を通れば10分もかからず見慣れたネオン看板が見えてくる。
早足で歩いたせいで、少しだけ息が上がっていたが、そんなこともお構いなしにエントランスに立つスタッフに身分証を差し出した。
「あれ、珠希くん?」
一刻も早く中に入りたいという気持ちに駆られていたためか、そこにいるのが羽海野だとは気が付かなかった。
湿気た6月の風に、さらさらとした細い黒髪が揺られている。
「あ‥お疲れさまです」
「今日はお客さんとして来たの?珍しいね」
何か言われるかと身構えたが、意外にもあっさりとした対応に思わず拍子抜けしてしまう。
どうやら他人 のことに関しては、大して興味がないようだ。
身分証を手渡しながら、男は口を開いた。
「楽しんでね」
裏のない純粋な笑みを向けられ、「ありがとうございます」と呟いた。
財布に免許証を仕舞いながら階段を下りていくと、キャッシャーには例の連絡を寄越した張本人が立っている。
「あらぁ‥どうしたの?」
含みのある言い方に、にんまりとした笑顔が、“全てお見通しだ”と言っているかのようで、目を逸らさずにはいられなかった。
ぶっきらぼうに「遊びに来ました」とだけ言って、財布からお札を取り出す。
「‥もう、素直じゃないんだから。でもそんなところが可愛いのよねぇ」
林田はそう言いながら、トレーに置いた紙幣を手に取り、珠希の財布へと戻しながら言った。
「遊ぶつもりなんてないんでしょう?」
「いや‥でも」
俯いたまま口を開くと、ずいっと顔を覗き込まれ、煙草に混じった仄かな酒の匂いが鼻を掠める。
「ちゃんと引っ捕まえて、終電までには帰ること。いい?」
そう言いながら、まるで珠希の本心に気付かせるかのように、心臓のあたりに人差し指を突き立てた。
「わかったらほら、さっさと行きなさい」
その手で軽く背中を押され、よろめきながらフロアへと歩を進める。
ぐちゃぐちゃになった自身の感情も、少しだけ絡まった糸が解けていくように感じられた。
‥
「お節介な人ですねぇ」
珠希と入れ違うようにフロア側からキャッシャーへと現れたのは、濃いグレーのスーツを着た紺野だ。
眼鏡越しの目が細くなっていくのを見ながら、林田は小さく舌打ちをした。
「何だよ紺野、隠れて見てんじゃねーよ」
「おぉ怖い‥」
ゆっくりと近づいてくる男の姿に、なるべく距離を取ろうと壁に寄りかかる。
林田の正面で立ち止まると、おもむろに口を開いた。
「そんなに僕のことが嫌いですか?」
「‥嫌いだね」
「正直なところが僕は好きです」
「聞いてねーよ。そんなこと」
紺野はふふっと笑い、上機嫌で階段を上っていった。
「気色悪いやつ‥」
脳裏に呼び起こされる記憶に、思わずため息が出る。
_俺たちに何があったのかは、また別の機会に。
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