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Day4-1
志乃からのメッセージに返信をし、喫煙所に着いたのは0時ちょうどのことだ。
終電間際でエントランスが混み合ってきたことが幸いし、林田や羽海野に気づかれることはなかった。
この時間の駅前喫煙所は人が多く、どうも好きになれなかったが、今日という日だけは別のようだ。彼が家に来ることを承諾した時からというもの、とても気分が良かった。
灰皿の近くまで歩を進め、パーカーのポケットから取り出した煙草に火をつける。
スマホの顔認証でロックを解除すると、開きっぱなしのトーク画面が映し出された。
志乃からの返信はないが、既読はついている。ちょっとしたことに返信はしないタイプか、と思いながらも、何か変なことに巻き込まれてないだろうか、と一抹の不安がよぎった。
_いや、まさかな。
口の中に溜めた煙を吐き出しながら、悪い考えを振り払うように空を見上げる。
生憎の6月らしい曇天だが、雲の切れ間からは少し欠けた満月が覗いていた。
時折頬を撫でる風が心地よい。トイレでの一件でほとんど酔いは覚めたが、未だに身体の芯には先ほどの熱が残っているように感じる。
長くなった灰を落とそうと灰皿に手を伸ばすと、明るくなったスマホの画面が目に入った。
『今向かってるよ!』
それが志乃からのメッセージだと分かると、無意識のうちに口角が緩んでいた。
すぐに『分かりました』と返事を送り、未読のままのトーク欄をスクロールする。
遼太郎と純喜との三人のトーク画面を開くと、『急に帰ってごめん』と打ち込み、送信ボタンを押した。
すると、10秒もしないうちに、“遼太郎”と表示された着信画面へと変わる。
「‥はい」
『珠希ぃ。そっちは何とかなったのかよぉ』
『お前、わざわざ電話かけるなよ』
『うるせぇ。気になっちまうんだから仕方ねぇだろぉ』
電話口から聞こえてくる二人の声。どうやらスピーカーにしているらしい。
遼太郎はあれからさらに酒を飲んだようで、いかにも酔っ払いの喋り方になっていた。
一緒にいる純喜は酒が強いこともあり、普段と何ら変わらない様子だ。
三人で飲む時は大抵、店が閉まると誰かの家に転がり込み、日が昇る直前まで宅飲みをしている。珠希が途中で離脱した今日も、どうやら二人で仲良く過ごしていたようだ。
「あー‥まぁ、おかげさまで」
『そぉかぁ。それなら良かった‥』
『珠希がすごい剣幕で出て行ったから、俺たち心配してたんだよ』
思い当たる節があり、開いた口から乾いた笑いが溢れる。
_林田さんには、後でちゃんとお礼をしておかないとな。
「いや‥うん。ごめん」
『てか暇なら今から俺ん家来いよぉ。純喜と二人じゃ‥なぁ?』
『失礼なヤツだな』
『お前が全然酔わねぇからだろぉ?俺はもっと‥』
電話越しの微笑ましいやり取りを聞きながら、ほとんど吸えていない煙草に口をつける。
「悪いけど、これからちょっと用が‥」
まだ半分以上残っている煙太 を灰皿に押し付けながらそう言うと、目の前に近づいて来る影に気が付く。
金属の隙間から吸い殻を落とし顔を上げると、そこには はにかんだ笑顔を浮かべた志乃が立っていた。
『えぇーまじかよぉ』
『俺たちのことは気にせず楽しんでこいよ』
電話の向こうの二人の声は、珠希には聞こえていなかった。
ただ自身の鼓動だけが、うるさいくらいに身体中に響き渡っているのだ。
しばらくの沈黙の後で、おもむろに口を開く。
「‥認めるよ。“春が来た”って話」
そう言ってスマホを耳元から離し、通話終了のボタンを押した。
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