35 / 45

Day4-3

玄関の扉を押さえ中に入るように促すと、志乃は一瞬強張った表情を浮かべたものの、軽く背中に触れると素直に従った。 「‥で、そんなに僕が買ったものが気になります?」 後ろ手で鍵を閉めながら、どことなく様子がおかしい男に声を掛ける。 「うん‥」 志乃は控えめに返事をすると、こちらに背を向けたまま、靴も脱がずに立ちすくんでいる。 何か変な勘違いをしているに違いないが、こんなふうに彼を弄ぶのがどうしてもやめられない。湧き出る加虐欲を抑えることができないのだ。 それに、この状況を愉しまないというのは、あまりにも勿体無いじゃないか_。 「‥じゃあ当ててみて」 だらりと垂らしている右手を後ろに引き、肉厚な手のひらに買ったばかりの煙草の箱を置いてやる。 箱を握らせるようにそっと手を重ねると、暗闇の中でも、志乃の顔が赤くなっていく様子が容易に想像できた。 「何だか分かりました?」 「い‥いや」 「じゃあヒントをあげましょうか」 そう言って男の耳元に口を近づける。 「僕が‥使うものです」 何一つ嘘は言っていないのだが、箱が避妊具であると思い込んでいる男には、全てがそれに繋がるのだろう。 すぐ横からごくりと唾を飲み込む音が聞こえ、しばらくすると志乃は熱を帯びた息を吐き出した。 「志乃さんは‥どうだろ。使ったことあるかな」 「ご、ゴムくらい使うに決まって‥」 勢いよくこちらを振り向いたのと同時に、玄関の電気をつける。 暖色の灯りが、志乃の手に握られた箱の正体を明らかにした。 「煙草、吸ったことあります?」 呆然とその場に立ち尽くしている彼の手から箱を取り上げ、再びパーカーのポケットへと仕舞う。 見上げた男の顔は、案の定耳まで真っ赤に染まっていた。 顔を隠そうと伸ばされた左手を掴み、ゆっくりと指先を絡めていく。 「っ‥」 想像していた以上に可愛らしい反応を見せるので、握った手の甲に思わず口付けていた。 伏し目がちにした視線を彼の顔に戻すと、潤んだ瞳と目が合う。 その瞳を見て、もう少しだけいじめてやりたくなった。 「それで‥何だと思ってたの?」 唇をそこに付けたまま口を開くと、彼の視線はあからさまに動揺を見せる。 恥ずかしくて言いたくないのだろうことは、態度を見ていれば明らかだ。 「だ、だから‥さっき言った‥」 「あれ。そうでしたっけ」 「っ‥ほんと、ひ‥どい‥」 扇状的な震える声に、奥底で眠っていた熱が目を覚ますのが分かった。 スラックスの中の疼きを悟られないよう、冷静な口調で呟く。 「好きな人ほど困らせたくなるって、前に言ったじゃないですか」 “好きな人”という言葉に、ぴくりと反応を見せる。 どうやらこの恋心を感じているのは、自分だけではないようで、少しばかり安堵した。 「‥志乃さんは、“こういうの”が好きなんでしょう?」 全てを見透かしたように微笑むと、男はおずおずと口を開いた。

ともだちにシェアしよう!