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Day5-1
『今夜会えない?』
志乃からそんな連絡が来たのは、最後に顔を見てから1週間が経った火曜日のことだった。
何気ないメッセージのやり取りは続いていたが、バイトや課題の提出に追われていたせいで、こちらから誘うタイミングもなかったのだ。
彼の方も忙しいのか、この1週間はクラブにも顔を出していないようで、林田が寂しがっていたのを覚えている。
嬉しいハプニングに、無意識のうちに口角は緩んでいた。
「‥なんかいい事でもあった?」
学食の前の席にお盆を置いた純喜に声を掛けられ、顔の前まで上げていたスマホを机に伏せる。
「いや‥」
「ふぅん」
いかにもどうでも良さそうな口調でそう言うと、男は買ってきたばかりの唐揚げ定食に箸を伸ばした。
程よく一線を引いて、それを簡単には踏み越えてこない彼の態度が、珠希には心地良かった。
ただ少しだけ、どうしても気になることがある。
「‥なぁ、俺ってそんなに分かりやすい?」
ペットボトルの水を一口飲み、おもむろに口を開く。
純喜は飾り程度のサラダを食べ、しばらく考えた後で言った。
「分かりやすいって言うか、分かりやすくなったよな」
以前までは違った、という意味を含んだ言い方に、どきりとする。
もちろん、思い当たる節がないわけでない。
「まぁ、ようやく人間らしくなってきたって感じで‥いいんじゃないの?」
「何だよそれ」
歯に衣着せぬ物言いに、思わず笑ってしまう。
唐揚げに齧り付いている男を横目に、スマホを持ち上げ、トーク画面を開いた。
『12時までバイトなんで、その後で良ければ。
鍵使って家で待っててもいいですよ。』
送ったメッセージは数秒ほどで既読になり、すぐに返事が来た。
『迷惑じゃない?』
『僕も志乃さんに会いたいです』
返信を読んで、迷いなく指を滑らせたが、送信ボタンを押すのには少し躊躇した。
_あまりにもあからさますぎるだろうか。
志乃への想いを意識してからというもの、今まで何気なく言っていた甘い言葉も、口にするのが気恥ずかしいのだ。
「あれ、珠希メシは?」
突然頭上から遼太郎の声が聞こえ、咄嗟に送信ボタンを押してしまう。
友人に見られるには恥ずかしすぎる内容だ。
珠希は素早く電源ボタンを押し、スマホをズボンのポケットに仕舞った。
「これから‥買いに行くところ」
「まじ?じゃあ一緒に行こうぜ」
画面は見られていないようで、安堵したのも束の間。
券売機に向かっている途中、男はにやにやと笑みを浮かべてこちらを見ていた。
「‥なに?」
数人並んでいる列の最後尾に着き、前にいる遼太郎に声を掛ける。
「いや、良いことでもあったんかなって思ってさ」
「それ純喜にも言われたんだけど」
そう言うと、彼は「そりゃそうだろ」と口角を上げる。
「意外と顔に出るタイプだったとはなー」
独り言のように呟きながら食券を購入している男の後ろで、スマホを取り出して反射する自分の顔を確認した。
そこに映っているのは、いつも通りの顔のように見えたが_。
『俺も、早くいじめられたい』
ふいに表示された文字に、ごくりと唾を飲む。
しばらくして再び暗くなった画面に映る自分を見て、2人の言っていることの意味がようやく理解できた。
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